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I 調査結果の概要


 今後の経営戦略、人事戦略の改革に重要な役割を担っている経営企画部門責任者に対

して、平成11年2月から3月までの期間に、自記式郵送法によるアンケート調査「新

世紀の経営戦略、コーポレート・ガバナンス、人事戦略に関する調査」を実施した。対

象企業については、従業員規模1,000人以上の大企業2,370社であり、そのうち

690社から有効回答がえられた(回収率は29.1%)。

 結果概要については次のとおりである。



1 経営改革

(1)日本の大企業では、包括的な経営改革が進行中である(図表1)。意思決定者の

   少数化や会議の集約化などによる経営トップの意思決定のスピードアップ、「小

   さな本社」の構築、財務部門の強化、企業グループ内での連結経営の強化、自己

   責任経営の明確化、関連企業の整理・統合といったことがしばしばひとつのパッ

   ケージとなって進められている。

(2)それに伴って、重視する経営指標にも注目すべき変化が生じている(図表2)。

   全体的には「売上高から経常利益へ」といった重視指標のシフトがみられるが、

   業種によっては、例えば金融保険業の場合のように、「売上高から株主資本利益

   率へ」といった大きな変化も認められる。

(3)社内分社化・子会社化の動きも活発である。主として、市場の変化に敏感に対応

   するため、また既存事業部の整理・再編のためである。

    これら社内分社・子会社の権限についてみると、雇用・労使関係あるいは労働

   条件決定といった点で親会社からの自立性が目立つ。その自立性は社内分社より

   子会社で高い。しかし資金調達や投資決済、役員人事といった点では親会社の影

   響力が強く、子会社の場合でさえ必ずしも自立的ではない。

(4)持ち株会社の設立については、既に設立している、事業持ち株会社を設立する意

   向がある、純粋持ち株会社を設立する意向があるというところがそれぞれ5%ほ

   どあり、合わせて15%程度にのぼる。



2 コーポレート・ガバナンス

(1)経営業績に伴う利益配分については、業績の良いときには経営者に先立って従業

   員と株主が利益にあずかり、逆に業績が悪くなれば、従業員とともに経営者が自

   らの報酬をカットし、株主配当を減らすのはその後のことといった経営行動が、

   経営理念としてみられる(図表3図表4)。

    従って、経営理念からみた優先的ステークホールダーとしては、まず従業員と

   株主、その後に経営者がくる。その意味で、従業員重視・株主軽視あるいは従業

   員優遇・株主冷遇などということはできない。

(2)株の持ち合いについては、もともと持ち合いはないというところが3割ほどあっ

   た。株の持ち合いがあるところでは、「現状維持」が48.1%、「解消」が

   44.9%と、ほぼ均等の比重を持っている(卸売業や金融保険業では解消派が多

   い)。

    安定株主については、「いる」と回答した企業が85.4%、「いない」と回答

   した企業が8.6%あった。安定株主が「いる」と回答した企業における安定株主

   比率(すべての安定株主が保有する株式数の合計を発行済みの株式総数で除した

   もの)は、平均68.6%という高い値になった。また、今後の方針として、安定

   株主の確保をあげた企業は50.7%であった。

    従って、この株の持ち合い解消は今後ある程度進むとしても、それは安定株主

   がいらないということにはならない。むしろ、株の持ち合い解消が進む分だけ、

   安定株主を必要としているとみなされている。

(3)安定株主の大部分を占める機関投資家に対しては、この10年ほどのうちに、多

   くの企業が株主広報活動に積極的に取り組むようになった。その一環として、年

   に2回、1回2時間程度の業績説明会が開かれている。会社側からは担当役員や

   担当部長・室長、さらに代表取締役などが対応し、また機関投資家側からは証券

   アナリスト、機関投資家アナリスト・ファンドマネージャーなどが出席する。

    また、これら機関投資家の主たる関心は経営組織や雇用慣行の改革といったこ

   とにはなく、主に経営戦略、主要商品の詳細情報、経常利益といった事項に強い

   関心が向けられている(図表5)。

    このほか、最近では一般株主向けも含め株主に対する各種の情報開示が進めら

   れており、今後さらにその進展が見込まれる。

(4)財務戦略については、間接金融から直接金融への比重の移行がみられる。また安

   定株主を維持しながら(そのためにも)、資産の流動化を進め、非効率的な株の

   持ち合いを解消し、自己株を償却していこうといった動きが認められる。

(5)経営を担う役員制度などについていえば、現状では、社長が強力な役員人事権を

   持っている。常勤監査役(外部監査役を除く)には取締役経験者がなることも少

   なくない。また社長の人選には大株主や親会社の意向もある程度働いている。さ

   らに、経営首脳の任期制も浸透してきている。他方、メインバンクの役員人事権

   はほとんどない。また役員抜擢人事も多くない。

    しかし、今後は、社長の強い役員人事権には適度の抑制を加えつつ、役員の抜

   擢人事を進め、経営首脳の任期制や役員の定年制も積極的に導入していく、また

   取締役経験者が常任監査役になるようなことは少なくしていくことが望ましい、

   と考えられている。

    こうした動きとパラレルに、今後は役員の少数精鋭化が図られ、業績査定によ

   る役員報酬管理が浸透していく可能性がある。



3 人事戦略

(1)これからの終身雇用のあり方については、部分的修正という意見が4割強と最も

   多かったが、それに原則的維持の3割強を加えると8割弱になる(図表6)。

   従って、近い将来、終身雇用慣行が崩れるといったことは考えにくい。

    また、性・年代別の正社員の定着率見通しからみても、労働力の流動化といっ

   たシナリオが思い描かれているわけではない。(図表7)

    さらに、60歳代の雇用機会に関しても、段階的な定年延長という考え方こそ

   少ないものの、定年後の再雇用・勤務延長、または企業グループとしての60歳

   代の雇用機会確保・拡大のいずれかを考えている企業が合わせて7割以上にのぼ

   る。逆に60歳代の雇用機会の拡大は考えていないという企業は全体の3割強に

   とどまる。

(2)大卒事務職、大卒営業・販売職、大卒研究開発・技術職別にみた年齢・勤続に伴

   う職業能力プロフィールによれば、右肩上がりで推移するが、一定年齢経過後は

   「能力の高い人」と「能力の低い人」との格差が拡大する(模様図3)という企

   業が最も多く、大卒事務職、大卒営業・販売職で3割を占めている(図表8)。

    しかしながら、いずれの労働力銘柄に関しても、35歳前後で「能力の高い

   人」「能力の低い人」を問わず、能力は下がりはじめる(模様図2)という見方

   (山型プロフィール)がほぼ1割、同じ35歳前後で「能力の高い人」は上昇し

   ていくが、「能力の低い人」は下がっていく(模様図4)という見方が2割を占

   めた。このような場合(とりわけ前者)には、年功昇進・賃金は成り立ちにくい

   と考えられる。

    なお、大卒研究開発・技術職に関しては、大卒事務職や大卒営業・販売職に比

   べて山型プロフィール傾向になるという見方が多かった。

(3)「同期の最も昇進の早い者が上位年次の者がまだ就いていない役職に先に昇進す

   る」という抜擢人事は、本社の課長、部長、取締役いずれについても、ある程度

   行われているという回答が5割前後を占めたが、頻繁に行われているという回答

   は1割にとどまった。あまり行われていない、まったく行われていないを合わせ

   ると4割前後になる。従って、抜擢人事が活発に行われているとみることはでき

   ない。

(4)新人事処遇ということでは、評価結果の本人開示、本社スタッフの大幅なスリム

   化、「若い」取締役の抜擢、ライン部課長の中途採用、フルタイム有期契約社員

   の採用、法定外福利厚生費の大幅削減などについて進展の動きが生じている

   (図表9)。

    逆に、近い将来「あまり進まない」とみられているものに、会社派遣でのMB

   A取得者の優遇、文系大学院卒の新規採用、役員候補者の30歳代後半での実質

   的な絞り込み、退職金の前払い制、一般社員の年俸制などがある。

(5)企業年金については、この数年のうちに運用先や運用方法の改善、積立金不足分

   の補填などを行った企業がそれぞれ2〜3割あったが、年金額の削減を行ったと

   ころはほとんどなく、企業年金制度を廃止した企業は皆無であった。

    しかしながら、今後は、こうした運用上の改善といった水準を超えた制度改革

   への動きが出てくる可能性がある。

    なお、確定拠出型年金を既に導入済みという企業は全体の3.8%、また今後3

   年間でその導入が「かなり進む」という意見は8%にとどまっている。

(6)総額人件費管理に関して、総枠を設定しているところが4割ほどあった。その設

   定を売上高あるいは前年度実績プラス生産性上昇率などにリンクさせ、売上高や

   生産性が上がれば人件費総枠も増える、といった運用を行っている企業が多い。

(7)企業グループ人事管理については、今後の成長見通しも含めると、新人事管理と

   いう意味での成熟ぶりが注目される。既に実施したものと検討中を合わせると、

   企業グループあるいは連結子会社を含めた総人員計画、連結子会社を含む中核企

   業役員の計画的育成、中核企業による連結子会社の採用・配属人事などの一元的

   管理については、その回答率はすべて4〜5割になる。また、企業グループある

   いは連結子会社による企業年金制度に関しても、実施したあるいは検討中が3割

   強にのぼる。



4 労使関係

(1)労働組合の組織されていないところが、サービス業などを中心にして2割を超え

   た。

(2)これからの企業内労使関係については、労働組合の存在感が薄まるのとパラレル

   に、雇用関係の個別化が進行し、それゆえに個別苦情処理システムの整備・構築

   が重要な課題になるだろうとみなされている(図表10)。

(3)企業に組合があっても、企業グループ労協・労連が組織されている割合は6割弱

   にとどまる。従って、企業グループ人事管理の成長見通しに比べて企業グループ

   労使関係の成熟度に欠けるといった事態が生じる可能性がある。





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