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【調査の概要】



1 調査の方法



   アンケート調査(調査名:「新世紀のホワイトカラーの仕事と職場に関する調査」:日

  本労働研究機構に委託)については、平成11年11月から12月までの期間に、従業員規模

  1,000人以上の大企業のホワイトカラー職場を対象として、本社5部門(経営企画部門、総

  務・広報・秘書部門、経理・財務部門、人事・労務・教育部門、及び営業部門)に勤務し

  ている課長クラスの管理職(各部門1人)と社員(各部門3人、うち1名は女性)に対し

  て、自記式郵送法により行った。対象企業は、当ワーキンググループが平成11年2〜3月

  に実施した調査(「新世紀の経営戦略、コーポレート・ガバナンス、人事戦略に関する調

  査」:調査内容は平成11年6月に発表済み)に回答いただいた企業から選出した577社

  であり、有効回答数は、企業の課長で1,236票(配布数2,610票回収率47.3%)、社員で

  3,365票(配布数7,830票回収率43.0%)であった。

   結果概要については以下のとおりである。





   

2 調査結果の概要



 (1) 日本的雇用慣行、会社観・仕事観について



  ア 終身雇用と年功賃金



    日本的雇用慣行の特徴である終身雇用や年功賃金については、終身雇用に比較して年

   功賃金の方が、課長及び社員とも見直しが必要と回答していた。具体的には、終身雇用

   については、「原則として維持されるべき」が課長で19.8%、社員で21.6%、「部分的

   な修正はやむを得ない」が課長で59.5%、社員で56.4%、「基本的な見直しが必要」が

   課長で18.1%、社員で18.5%であった(図1)。年功賃金については、「原則として維持

   されるべき」が課長で2.9%、社員で7.3%、「部分的な修正はやむをえない」が課長で

   50.4%、で49.4%、「基本的な見直しが必要」が課長で35.5%、社員で35.6%であった

   (図2)。

    また、これからの賃金管理の在り方としては、能力や実績に基づく報酬格差に対して

   かなり許容的であり「自分の業績が悪ければ降格、降給もやむを得ない」(課長で79.4

   %、社員で76.6%)や「同期の社員間でも、事業部門やプロジェクトの業績次第で年収

   格差があっていい」(課長で77.6%、社員で74.0%)と考えており、賃金格差について

   は肯定的意見が多かった(図3)。

   

  イ 会社観・仕事観



    どのような会社観・仕事観を持っているのかをみると、「人一倍努力してもいい仕事

   をしたい」(課長と社員の計75.0%)→「仕事よりも家庭が大事である」(70.7%)→「会

   社とは雇い雇われるだけの関係だ」とは思わない(63.2%)→「会社は従業員の生活を長

   期にわたって保障すべきだ」(62.4%)という4項目については,この順で6-7割の労働者

   が肯定的である(図4)。これに対し、「会社のためなら多少は自分の私生活を犠牲にし

   てもやむを得ない」(課長67.5%、女性社員31.1%)と「会社名や社内での地位が自分の励

   みになっている」(課長59.5%、女性社員21.0%)の2項目に関しては見方が大きく分かれ

   ており、課長と女性社員の回答が対極をなしている(課長の方が会社に対して強く関

   与)。



  

 (2) 仕事・上司・職場の実情



  ア 仕事の現状



    仕事のプロフィール(属性)は、「専門的知識を要する」、「各自の分担が明確」、

   「若手が責任ある仕事に取り組んでいる」との回答が多く、逆に「性別による仕事の区

   別がはっきりしている」が最も低い(図5)。

    いまの仕事ぶりについては、「仕事を通じて自分の能力を高めることができる」、

   「仕事の進め方や時間配分で裁量の余地が大きい」、「仕事が面白い」、「いまの仕事

   は自分に向いている」という回答が約7割と多く、労働の人間化という観点からでは望

   ましい回答が得られた。しかしながら、一方では「常に仕事上の勉強が必要」、「要求

   される仕事の質が高まった」、「仕事の密度が高まった」という厳しい実情がみられる

   (図6)。

  

  イ 仕事の目標の決め方と査定



    仕事の評価制度の実情をみると、仕事上の目標の決め方については、上司と部下が話

   し合い、部下の意向はかなり入れられる形で決まることが多い(課長で62%、社員で

   48.3%)。

    査定では、課長が自己評価しているほど、部下は上司が納得のいく査定を行っている

   とは考えていない(納得できる査定を行っていると答えた課長は80.7%、そう見ている

   社員は70%)。査定の要素は、課長は、「新しい仕事にチャレンジすること」や「仕事

   に関する知識や技能」など仕事に対する前向きで積極的な取組姿勢を加点主義的に評価

   しようとしているのに対し、社員は「仕事に関する知識や技能」や「与えられた仕事を

   そつなくこなすこと」など今の仕事の遂行に関して減点主義的に査定されていると感じ

   ているという差異がみられる(図7)。

  

  ウ 職場の雰囲気



    職場の雰囲気は「仕事上で助け合う雰囲気」(課長で86.3%、社員で75%)、「部下

   や後輩を育てようという雰囲気」(課長で85.0%、社員で65%)と一般的に良好であり、

   OJTの基盤となる職場の良好な雰囲気は健在である(図8)。



  

 (3) 能力開発とキャリア



  ア 人材育成と自己の能力開発等の問題



    今の仕事の必要習熟年数(いま担当している仕事が一通りできるようになる必要年数

   )が3年以下であると考えている割合は、課長で1割、社員で6割と、課長と社員の間

   に大きな開きがみられる。特に女性の場合、必要習熟年数が1年以下とする男性が15.1

   %であるのに対し、女性は54.1%というように大きな性差が見られ、女性社員の不十分

   な活用を示唆している。

    また、上司による部下の育成に関する問題については、「特に問題はない」と1/4が

   回答している一方で、「仕事が忙しく部下育成のための時間が取れない」(36.4%)、

   「部下が忙しく、育成に結びつくような仕事をさせられない」(21.8%)との回答も多

   く、「新人が配属されないので、中堅が新人を育成する機会がない」(25.7%)との回

   答もあり、OJTに基づく人材育成は問題に直面している可能性がうかがえる(図9)。

    能力開発へどれだけ自己投資をしているのかをみると、費用総額の平均は課長9.6万

   円、社員10.5万円、教育訓練期間の平均は共に半年程度、頻度は週1回程度であった。

   いまの仕事は自分の能力と比べてどうなのかをみると、課長も社員も6割以上が「ちょ

   うどよい」と回答している。さらに「難しい」と回答した人数から「易しい」と回答し

   た人数を引いて、年齢別にみると、30代〜40代で「難しい」が上回っているが、20代、

   50代では「易しい」が上回っている(図10)。

  

  イ 課長や社員のキャリア志向



    キャリア志向では、課長の場合「いまの会社の役員として経営にかかわりたい」、

   「いまの会社で管理職や専門職として活躍したい」といった内部昇進型のキャリア志向

   は7割強であり、独立や退職といった退社志向では1割強であった。社員では、性差が

   大きく内部昇進型キャリア志向は、男性社員61.0%、女性社員26.3%であり、退職志向

   は、男性社員20%、女性社員29.2%であったが、特に女性社員の回答で目立つのは「成

   り行きにまかせる」が37%と最も大きく(男性社員16.9%)、「この会社の役員として

   会社の経営にかかわりたい」が0.4%と極めて少ないこと(男性社員15.1%)である(

   図11)。



  

 (4) 労働時間と健康



  ア 実労働時間の変化



    1年前と実労働時間がどう変化しているのかをみると、「変わらない」が5割強(

   課長52.8%、社員50.7%)であるが、「増えた」とするものが3割強(課長39.2%、社員

   33.7%)、「減った」とするものが1割前後(課長7.3%、社員14.3%)であり、全体とし

   ては実労働時間が長くなったとの回答が多い。産業別では、金融・保険業(45.8%)や

   電気・ガス・水道・熱供給業(44.8%)など規制緩和・競争激化業種で「増えた」が目

   立っている。

  

  イ 課長や社員の健康状態



    今の健康状態は課長、社員のいずれも2割強が「あまり良くない」と回答しており、

   さらにその症状では6割強が「疲れやすい」、4割強が「イライラすることが多い」と

   回答しており、健康面にも影響がでていることがわかる(図12)。また、疲れ、イライ

   ラ、生活に張り合いを感じない、好きなことでもやる気がしないといったことは、会社

   に対する満足度の高低と深く関係をもっている(図13)。



   

 (5) 苦情処理と会社・労働組合・経営者・仕事に対する期待と満足度



  ア 職場・仕事に関する不満と苦情処理の仕方



    職場・仕事に関する不満は「仕事の配分」(不満ありが課長で4割、社員で5割)や「

   職場内の人間関係」(不満ありが課長で3割、社員で4割)で多くあげられている。不満

   の相談先としては、「上司に相談」や「職場の先輩・同僚に相談」が突出しており、人

   事部や労働組合に相談するケースは非常に少ない。また、誰にも相談しなかったという

   回答も多く、しかもその場合「相談先がなかった」というわけではないことが注目され

   る。

  

  イ 会社や労働組合への期待と充足度



    会社や労働組合に何を期待し、それはどれほど充足されているのかをみると、「雇用

   保障」や「労働者の健康」に関しては、会社や労働組合ともに期待充足度が高い(期待

   にある程度答えている)といえる(会社に対する期待充足度については、「雇用保障」

   は「十分応えている/応えている」で課長が79.5%、社員が71.1%、「あまり応えてい

   ない」で課長が12.5%、社員が14.2%。「労働者の健康」は「十分応えている/応えて

   いる」で課長が72.0%、社員で62.8%、「あまり応えていない」で課長が18.7%、社員

   が21.2%。組合に対する期待充足度も同様の傾向。)。

    しかしながら、「能力開発を配慮したキャリア管理」や「女性の活用」においては会

   社・組合ともに期待充足度が低く、「期待に応えていない」とする回答が「期待に応え

   ている」とする回答を上回っている(会社に対する期待充足度については、「キャリア

   管理」は「十分応えている/応えている」で課長が36.2%、社員が32.2%、「あまり応

   えていない」で課長が51.9%、社員が44.5%、「女性の活用」は、十分応えている/応

   えている」で課長が44.1%、社員が35.4%、「あまり応えていない」で課長が45.1%、

   社員が41.9%)(図14図15表1表2)。

  

  ウ 仕事、会社、労働組合、経営者に対する満足度



    仕事、会社、労働組合、経営者に対する満足度をみると、仕事満足度については、課

   長で満足度が相対的に高くなっている(「大いに満足している」=2.00、「満足してい

   る」=1.00、「やや不満である」=-1.0、「不満である」=-2.00として加重平均すると、

   課長で0.36、社員で0.07)。会社満足度については、満足でも不満足でもなかった(課

   長で0.1、社員で−0.01)。一方、組合満足度や会社満足度では、課長や社員のどちら

   も低くなっている(組合満足度が課長で−0.39、社員で−0.52、経営者満足度が課長で

   −0.49、社員で−0.59)。特に経営者には不満を持っており、その理由として高いのは

   「将来ビジョン(のなさ)」(社員で37.3%)、「経営実績」(社員で30.1%)であっ

   た。アンケートから期待される経営者像は「従業員に配慮しつつ、明確な将来ビジョン

   をもって経営実績をあげることができる魅力的な人物」となっている。







3 今後の課題



 (1) OJTをはじめとする能力開発の機会



    職場の雰囲気としてはOJTが有効に機能する土壌がある一方、課長が忙しすぎて部

   下の育成ができないといった現実がある。また、能力開発についての会社への期待充足

   度も低い。

    このため、企業には、OJTの充実を含めた「能力開発を配慮したキャリア管理」や

   「教育訓練」の実施がより一層望まれる。





 (2) 女性の有効活用



    女性の有効活用に問題がある。実際の仕事ぶりや仕事についての自己評価、必要習熟

   年数、キャリア志向、会社あるいは組合への(低い)期待充足度などから見る限り、大

   企業本社の多くの職場では女性社員の有効活用ができていない。企業には、今後女性社

   員の有効活用のために一層の取組が求められる。





 (3) 職場における日常的苦情処理



    職場の不平不満の相談相手としては上司や職場の先輩・同僚が多く、人事部や労働組

   合は社員に十分活用されていない。また、会社に対する期待充足度が低い項目として「

   能力開発を配慮したキャリア管理」、「女性の活用」についで「職場の日常的な苦情処

   理」がある。

    今後職場の構成員が多様化し、集団的労使関係による問題解決が難しくなる中で、企

   業としては個別苦情処理制度の導入や再構築が必要である。


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