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第2 地方労働行政の課題



1 労働基準行政の課題



(1)現下の厳しい経済情勢下での労働条件の確保・改善

   経済社会が大きな変化を遂げ、企業経営を取り巻く環境も厳しさを増している

  中で、労働条件の引下げ、会社都合による解雇等が増加しており、これらに関連

  した法定労働条件の履行を確保する上での問題が増加しているなど、今後もこの

  傾向が強まることが懸念される。

   しかしながら、法定労働条件は、いかなる経済情勢下においても確保されるべ

  きものであり、特に現下のような状況においては、労働条件の確保に関する国民

  の関心は、今まで以上に強いものとなっている。

   このため、これまで以上に労働条件の確保を図るための監督指導の果たすべき

  役割が重要となっていることを踏まえつつ、一般労働条件の確保・改善対策につ

  いては、これを積極的に推進していくことが必要である。

   また、労働条件に関する紛争に関しては、その自主的解決を促進するための必

  要な情報提供や紛争解決援助制度の積極的な運用等を行い、労働基準行政に対す

  る国民の期待に応えることが求められている。



(2)労働時間に関する課題

   平成11年7月に閣議決定された「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針

  」において重要な政策方針として掲げられている年間総実労働時間1800時間の達

  成・定着を図るためには、なお一層の労働時間の短縮を図らなければならない。

   これらの状況を踏まえ、原則の週40時間労働制や労働基準法に基づく「時間外

  労働の限度基準」など労働時間に関する基準の遵守の徹底を図る必要がある。

   また、労働基準法に基づく企画業務型裁量労働制が的確かつ効果的に活用され、

  企業の本社等において企画等の業務に従事する労働者の労働時間管理が適正に行

  われ、当該労働者の自律的、創造的な働き方により能力を発揮できる環境が整備

  されるよう、周知、啓発、指導を進める必要がある。

   さらに、特例措置対象事業場の法定労働時間の短縮に向けた助成制度の周知等、

  業種、規模ごとの実情を踏まえた労働時間短縮に向けた労使の自主的取組の促進

  を図る必要がある。



(3)労働者の安全と健康の確保に関する課題

   死亡災害が増加に転じるなど、依然として多発する労働災害の発生状況等を踏

  まえ、第9次の労働災害防止計画に基づき、死亡災害が多発している建設業対策

  を始めとする労働災害の大幅な減少を図るための施策を引き続き展開する。

   また、東海村ウラン燃料加工施設における事故等を契機に政府に設置された

  「事故災害防止安全対策会議」の報告書において提言されている「組織と個人が

  安全を最優先にする気風や気質」、すなわち「安全文化」の創造について積極的

  に取り組む必要がある。

   さらに、労働者の健康管理の充実や産業保健活動の推進、化学物質等安全デー

  タシート(以下「MSDS」という。)を活用した化学物質管理の推進等労働者

  の健康を確保するための施策や、労働安全衛生マネジメントシステムの普及促進

  等、事業場が自主的に安全衛生水準の向上を図るための施策を推進していく必要

  がある。



(4)労災補償の課題

   近年、定期健康診断における有所見率が高まっているなど、健康状態に問題の

  ある労働者が増加している中で、業務による過重負荷により脳・心臓疾患を発症

  する事案が増加しており、社会的にも「過労死」として取り上げられていること

  から、労災保険制度においても、脳・心臓疾患の発症を予防する観点から、労働

  者の健康確保を支援するための措置を講ずる必要がある。

   あわせて、労働福祉事業については、労働災害の減少、第3次産業化の進展等

  に加え、最近における長引く不況の影響等に伴い保険料収入が減少していくこと

  が見込まれる一方で、事業の主要な対象である労災年金受給者が増加傾向にある

  こと等に対応し、効率的な事業運営に努めるとともに、事業の透明性及び安定性

  の確保を図る必要がある。

   また、「過労死」や精神障害等の複雑・困難な労災請求事案については、被災

  労働者及びその遺族の的確な救済という労働者災害補償保険法の基本理念に基づ

  き、より一層、迅速・適正な労災補償の実施に努める必要がある。

   さらに、重度被災労働者に対する介護施策については、近年の核家族化の進展

  や重度被災労働者及びその介護に当たる者の高齢化等により、家族の負担が大き

  くなっていることにかんがみ、体系的に施策を推進していく必要がある。





2 職業安定行政の課題



   最近の雇用失業情勢は依然として厳しい状況が続いており、今後についても、

  雇用は景気に遅れて回復する傾向があること、採用の抑制を中心とした雇用調整

  の動きが続く可能性があることから、当面は厳しい状況が続くものと考えられ、

  雇用の安定を図っていくことが強く求められている。

   また、経済・産業構造の転換とともに勤労者の就業意識や働き方の多様化が進

  むなど労働市場の構造変化の中で、労働力需給のミスマッチが拡大していくこと

  が懸念されるところである。

   したがって、これまで以上に雇用の創出・安定を図り、雇用不安を払拭するこ

  とが強く求められていることを踏まえつつ、緊急雇用対策や経済新生対策に盛り

  込まれた雇用対策を職業能力開発機関等との連携の下で、平成12年度においても

  引き続き積極的に推進するとともに、

  @ 新規・成長分野、特に高齢化が進む中での介護分野における雇用機会の創出

   等による新たな雇用の場の拡大、

  A 産業間・企業間の失業なき労働移動の支援、失業が長期化する傾向にある中

   高年労働者や自発的離職者が増えている若年者に対する雇用対策、雇用機会が

   不足している地域や大規模な事業再構築の影響を受ける地域における雇用対策

   等による雇用の安定及び迅速な就職の促進、

  B 改正労働者派遣法及び改正職業安定法の施行を踏まえた民間労働力需給調整

   機関の機能の有効、適正な発揮、公共職業安定機関の機能強化等による労働力

   需給調整機能の強化

  等の施策を実施していくことにより、完全失業率をできる限り低くするよう努め

  ていく必要がある。

   少子高齢化の急速な進展の中で、今後とも、経済社会の活力を維持、発展させ

  ていくためには、高齢者の高い就業意欲が活かされ、その有する能力が十分に発

  揮されることが必要不可欠となる。高齢者の雇用の現状が依然として厳しく、今

  後60歳以上の労働力人口が大幅に増加することが見込まれる中で、高齢者の雇用

  機会の確保が一層重要な課題となる。

   また、障害者雇用を取り巻く厳しい状況に適切に対応するとともに、障害の種

  類及び程度に応じたきめ細かな対策を推進するほか、雇用部門と福祉部門の密接

  な連携を図っていく必要がある。

   さらに、港湾労働、建設労働、林業労働等を取り巻く環境の変化に的確に対応

  して労働者が安心して働くことができる雇用環境の整備を行うとともに、引き続

  き特別な配慮を必要とする人々への雇用対策等をきめ細かく行っていくことが必

  要である。





3 雇用均等行政の課題



   働く女性が性により差別されることなく、その能力を十分に発揮できる雇用環

  境を整備するとともに、男女がともに育児や介護について家族としての役割を果

  たしながら充実した職業生活を営むことができる環境をつくることは、我が国が

  将来にわたって経済社会の活力を維持していく上で、ますます重要なものとなっ

  ている。

   こうした中で、政府全体としても、昨年6月に男女共同参画社会基本法(平成

  11年法律第78号)が公布、施行され、男女共同参画社会形成のための取組の強化

  が必要になっている。

   また、昨年12月には少子化対策推進関係閣僚会議において「少子化対策推進基

  本方針」を決定する等、固定的な性別役割分業や職場優先の企業風土の是正、仕

  事と育児や介護等との両立のための雇用環境の整備等の施策の充実が重要となっ

  ている。

   これらの状況を踏まえ、平成12年度においては、「雇用の分野における男女の

  均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「均等法」という。)、「育

  児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下

  「育児・介護休業法」という。)及び改正後の「事業主が講ずべき短時間労働者

  の雇用管理の改善等のための措置に関する指針」(以下「パート指針」という。

  )等の内容に沿った雇用管理の具体的な実現のための施策の一層の推進が課題と

  してあげられる。

   特に、現下の厳しい雇用情勢にかんがみ、差別的解雇や昇進・昇格における差

  別的取扱い等に係る各種相談への的確な対応及び事案に応じた適切な行政手法の

  選択とその迅速な実施が一層重要になる。





4 労働保険適用徴収業務の課題



   労働保険は労災保険給付や失業等給付を通じて労働者の福祉の増進に大いに寄

  与していることは言うまでもないが、さらに加えて労働行政の各種施策の推進を

  財政面から支える制度として重要な役割を担っており、これまでは都道府県労働

  基準局及び労働基準監督署並びに都道府県及び公共職業安定所の努力の結果、円

  滑に実施されてきた。特に、昨今の厳しい雇用情勢の下においては、労働者の雇

  用を安定させ、安心して働ける社会を目指すには、労働保険制度及びそれを支え

  る適用徴収業務の果たすべき役割は益々高まっているが、一方で以下の課題も生

  じている。



(1)労働保険の適用業務については、昨今の厳しい経済情勢の下で適用事業場数の

  伸びが著しく減少してきている。産業別・規模別にみると、商業・サービス業等

  の小零細事業を中心に未手続事業がなお相当数残されている。また、派遣労働者

  の増加等就業形態の多様化に対応して、これらの者の労働保険への加入促進が社

  会的に注目されており、今後、労働保険の適用の重要性はますます高まることか

  ら、さらに積極的な適用促進への取組が必要である。



(2)労働保険の徴収業務については、ここ数年の厳しい経済情勢もあり、労働保険

  料の収納状況については、平成10年度における収納済歳入額が前年度を下回り、

  特に、雇用保険においては保険財政面で厳しい状況となっている。一方、収納未

  済歳入額は増加傾向にあり、収納率も平成2年度をピークに年々低下し続けてお

  り、平成10年度においても前年度を下回るなど、労働保険料の適正な徴収のため

  の積極的かつ効率的な取組が重要となっている。



(3)労働保険事務組合(以下「事務組合」という。)は、労働保険の適用徴収制度

  の中で重要な役割を担っており、今後においても、事務組合の充実発展は必要不

  可欠である。このため、事務組合については、より一層の適正かつ健全な運営の

  確保と活動の活性化・自立化を進める必要がある。





5 各行政間の密接な連携



(1)厳しい雇用情勢への総合的対応

   産業構造の変化及び最近の厳しい経済情勢の中で、いずれの地域においても雇

  用情勢は厳しい状況にあり、地方労働行政としては、こうした情勢を打開するた

  め、関係行政において最大限の取組みを進めるとともに、3行政の連携を密にし

  て対応を図っていくことが必要である。

   例えば、引き続き大規模な雇用調整が発生することが懸念されるところである

  が、こうした際に、関係労働者の保護及び雇用の安定を図るため関係行政の連携

  を密にして、賃金の確保や失業の予防・再就職の促進等に向けた総合的な対策を

  迅速に実施していくことが特に重要である。



(2)男女雇用機会均等確保及び職業生活と家庭生活の両立支援についての効果的な

  対応

   女性労働者の増加に対応した男女雇用機会均等確保対策及び少子・高齢化に対

  応した職業生活と家庭生活の両立支援対策は、一義的には雇用均等行政において

  重点的に推進されるものであるが、事業主への効果的な指導を行うとともに、相

  談への迅速・的確な対応を行う観点から、労働基準行政及び職業安定行政との連

  携が重要な課題となっている。



(3)複数の行政分野にまたがる問題への総合的対応

   複数の行政による総合的対応が求められているパートタイム労働、派遣労働、

  外国人労働及び障害者雇用等について、関係法令等の内容を関係する労働者及び

  事業主等に周知するとともに、労働者からの相談への対応や所要の事業主指導に

  際して、関係行政間の連携を密にしていくことが重要な課題となっている。



(4)複数分野にまたがる労働相談への一元的対応

   労働行政機関に寄せられる複数分野にまたがる相談事案が増加し、こうした事

  案に対する迅速かつ有効な措置を講ずることが強く求められている中で、3行政

  機関を統合して設置する都道府県労働局において、こうした労働相談に関しての

  ワンストップサービスを提供することが重要な課題となっている。



(5)都道府県労働局においては、上記のような政策的な連携に加え、総合的な行政

  サービスを国民に対して提供するとともに、行政の効果的運営を図るため、各行

  政分野固有の政策課題への対応に当たっても、基本的性格や手法の異なる各行政

  の特性を十分踏まえつつ、他の行政分野における行政手段を相互に活用し、又は

  行政手法を参考とする等により、施策の実施方法について創意工夫を凝らしてい

  くことが重要である。


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