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第1 労働行政を取り巻く情勢



1 経済社会の構造的な変化



   我が国経済社会をみると、経済のグローバル化、情報化、サービス経済化及び

  規制改革等に伴う産業構造の変化が急速に進展しており、労働力需給のミスマッ

  チの拡大がみられる。大企業において相次いでリストラ計画が公表され、今後も

  採用の抑制を中心とした雇用調整の動きが続く可能性がある。

   また、出生率の継続的な低下に伴い、労働力人口の伸びが鈍化するとともに、

  急速な人口の高齢化が進展しており、こうした少子高齢化が進展していることは、

  我が国経済社会の活力の維持、発展に大きな影響を及ぼすものと懸念されている。

   さらに、女性労働者が増加し、また若年層を中心に就業意識の多様化が進展す

  るとともに、経済社会の国際化の中で我が国で就労する外国人労働者が増加して

  いる。



2 最近の経済情勢



   平成11年度の我が国経済をみると、平成10年11月に決定した緊急経済対策に盛

  り込まれた財政、税制、金融及び法制など各分野にわたる政策等の効果の浸透に

  加え、アジア経済の回復の影響もあって、景気の緩やかな改善が続いているもの

  の、民間需要に支えられた自律的回復には至っていない。

   足下の状況をみると、我が国経済は厳しい状況をなお脱していないが、企業の

  活動に積極性もみられるようになるなど、自律的回復に向けた動きが徐々に現れ

  ている。一方、雇用情勢は所定外労働時間や求人の増加といった動きがあるもの

  の、完全失業率が高水準で推移するなど依然として厳しい。

   こうした中で、政府としては、公需から民需へのバトンタッチを円滑に行い、

  景気を本格的な回復軌道に乗せていくとともに、21世紀の新たな発展基盤を築く

  ため、平成11年11月に決定した経済新生対策を始めとする諸施策を推進すること

  としている。



3 労働基準行政を取り巻く情勢



   このような厳しい経済情勢の下、労働基準監督署においては、労働基準関係法

  令の違反に関する申告や、解雇、賃金・労働時間等の労働条件の引下げ等に関す

  る相談が数多く寄せられている。

   また、産業構造等が大きく変化する中で、企業の再編・事業の再構築が今まで

  にないスピードと規模で行われており、これに伴い出向、配置転換、退職勧奨等

  の問題が社会的にもクローズアップされている。

   平成11年における年間総実労働時間は1842時間、所定内労働時間は1709時間と

  前年に比べそれぞれ37時間、33時間減少し、いずれも過去最低となった。

   労働災害による被災者数は、長期的には減少しているものの、今なお年間約57

  万人を数え、平成11年の死亡災害については、前年と比較して増加が見込まれる

  状況にある。

   加えて、東海村ウラン燃料加工施設の災害に代表されるような、社会的に大き

  な影響を与える災害が発生している。

   一方、労働者の健康を取り巻く状況をみると、職業性疾病の発生は、長期的に

  は減少しているものの、前年と比較すると微増であり、じん肺、腰痛、有機溶剤

  中毒等の疾病も依然として後を絶たない。

   また、高齢化の進展、産業構造の変化等に伴い、脳や心臓の疾患につながる所

  見を始めとする何らかの所見を有する労働者が4割を超えるとともに、現下の厳

  しい経済情勢の中で、職業生活に関する強い不安やストレスを感じている労働者

  の割合が増加している。

   さらに、最近の労災請求事案をみると、近年の厳しい雇用環境等を反映し、

  「過労死」事案や精神障害等に係る事案が増加傾向にあり、社会的にも大きな関

  心を集めているところであるが、今後も、これらの労災請求事案が増加すること

  が懸念される。



4 職業安定行政を取り巻く情勢



   最近の雇用失業情勢は、厳しい経済情勢の下、依然として厳しい状況が続いて

  いる。

   公共職業安定所で取り扱う求人数は、平成11年度は前年同月比で減少傾向が続

  いたが、年度後半に入り、増加傾向に転じた。これを産業別にみると建設業は依

  然減少傾向が続いているものの、製造業が大幅な減少から増加に転じ、運輸・通

  信業、卸売・小売業、飲食店、サービス業は増加傾向が続いている。

   一方、求職者数は、増加傾向が続いているものの、増加幅が縮小してきている。

  これを態様別にみると、事業主都合による離職者は増加傾向にあったものの、平

  成11年12月には、2年7か月ぶりに前年同月比で減少に転じた。

   これらの結果、有効求人倍率は平成11年度後半に入りゆるやかに上昇している

  ものの、依然として低い水準で推移している。

   また、完全失業者数は、前年同月差で増加幅が縮小しているものの依然高い水

  準で推移している。非自発的離職、自発的離職についても、一進一退しながらも

  高水準で推移している。これを受け、完全失業率も依然として高い水準で推移し

  ている。

   雇用者数は減少が続いている。形態別にみると、臨時が増加した反面、常用雇

  用が減少し、また産業別には製造業が引き続き大きく減少している。さらに、規

  模別にみると、全ての規模で減少している中で、とりわけ、30人未満の企業での

  雇用者が減少している。

   年齢別にみると、若年層の完全失業率は、転職志向の高まり等自発的な理由に

  よる離職者が、厳しい雇用失業情勢にもかかわらず多いことを背景に依然として

  高水準で推移している。

   また、平成12年3月卒業予定者の就職内定状況をみると、高等専門学校を除く

  各学校で内定率が前年を下回るとともに、未就職卒業者は趨勢的に増加している。

  また、採用活動の早期化、長期化が進んでいる。

   高年齢層は有効求人倍率が依然として低く、完全失業率も高水準で推移してお

  り、一旦離職すると再就職が厳しい状況が続き、非自発的な離転職者ではその傾

  向が顕著である。特に中高年ホワイトカラー求職者の失業期間が長期化している。

   企業の労働力過剰感は、産業別、規模別にみてもその水準は高いものの低下傾

  向にあり、先行きも低下が見込まれている。また、雇用調整の実施事業所割合に

  ついてもその水準は高水準となっており、その方法としては「残業規制」が中心

  であるが、各方法においても割合が概ね低下傾向にある。

   一方、事業再構築計画に基づいて、地域に大きな影響を及ぼす大規模な事業所

  の閉鎖・縮小が生じ、地域全体において多数の離職者が発生し、雇用不安が広が

  る例もみられる。

   さらに、障害者についても、安定所に届出のある解雇者数が平成11年度は前年

  度に比べ減少しているものの依然として高い水準で推移するとともに、有効求職

  者数が12万人を超え過去最高となるなど厳しい状況が続いている。



5 雇用均等行政を取り巻く情勢



   我が国の女性雇用者数は昭和51年以降一貫して増加し、女性雇用者の平均勤続

  年数は延長される傾向がみられるとともに、女性雇用者の高学歴化が進んできた。

  平成10年には、厳しい経済情勢を反映して女性雇用者数は減少に転じ、平成11年

  も引き続き減少し2,116万人となったが、この間にあっても雇用者全体に占める

  女性比率は上昇傾向にあり、39.7%となっている。

   こうした中で、賃金における男女格差は、年々縮小傾向にあるものの未だ大き

  く、管理職に占める女性比率は足踏みあるいはやや後退の動きがみられる。

   さらに、均等法施行後14年を経過してもなお、女性であること又は妊娠・出産

  等を理由とした解雇がみられ、また、女性の完全失業者数は123万人、完全失業

  率は4.5%と、比較可能な昭和28年以降最高の水準であった。

   また、平成10年の合計特殊出生率は1.38と過去最低となり、少子化が進展して

  いるほか、核家族化の進行、高齢化に伴う要介護者の増加等により、男女を問わ

  ず働きながら一個人が担わなければならない育児や介護の負担は、今後ますます

  増大することが見込まれる。

   なお、平成11年の週間就業時間が35時間未満の非農林業の短時間雇用者数(休

  業者を除く。)は、1,138万人(前年1,113万人)、そのうち女性短時間雇用者は

  773万人で、女性比率は67.9%と前年と同率であった。




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