高齢社員(60歳代前半層)の活用戦略の変化と賃金制度─基本給の決め方に着目して
要約
本稿は,高齢社員(60歳代前半層の継続雇用者)の活用戦略と賃金制度(特に基本給)の関係性を,2011年と2021年の2つの調査データを用いて分析したものである。2012年の高齢法改正当初,多くの企業は高齢社員の活用に消極的であった。しかし,人手不足を背景に,高齢社員の積極的な活用が進展しつつあると言われてきた。本稿では,パート社員の基幹化に関する先行研究を参考に,高齢社員の活用戦略と処遇整備の課題を検討した。高齢社員の活用戦略を「量的活用」と「質的活用」の2つの視点で類型化し,量的活用(高齢社員比率)は増加傾向にある一方で,質的活用(就業体制や期待役割の変化)は十分には進展していないことを明らかにした。活用戦略ごとに社員格付け制度や賃金制度の整備状況に差異が見られ,「質的活用」が進んだ場合は現役社員に近い処遇が行われる傾向が強いが,「量的活用」のみの場合,賃金や評価は限定的にとどまる。量的活用が進展する企業のなかには,高齢社員の賃金を一律に決めるなど,従来型の制度を続ける企業も依然として存在する。高齢社員の能力や経験を引き出すためには,質的活用を伴う賃金制度や社員格付け制度の整備が不可欠であると示唆する。特に,現役社員に準じた処遇や仕事内容の高度化を進めることが重要である。今後の課題として,高齢社員の多様な働き方と,それに対応した賃金管理の在り方を分析する必要がある。
2025年特別号(No.775) 自由論題セッション●第1分科会
2025年1月27日 掲載