シニア社員の職域の広がりとその論理─製造業K社営業職の役職定年経験者の事例分析
要約
企業においてシニア社員の占める割合の増加に伴い,職場レベルで制度が想定する範囲を越えて仕事が任せられている可能性がある。職場レベルで広がっていると考えられるシニア社員の職域が,どこまで広がっているか,積極的な活用に適した格付け制度,賃金制度の設計に繫げるためにも,人事部が規定する制度と現場での活用実態それぞれを明らかにすることが重要といえる。製造業K社での調査の結果,シニア社員の職域の広がりに関して,次のことが明らかになった。役職定年を経験したシニア社員には,リーダーを支援する形で,中長期視点での戦略構築・改革の推進を目指した仕事として新たな顧客層の開拓,メンバーの戦力化に向けた仕事としてリーダーとメンバーのパイプ役としてチームを活性化する役割など幅広く任せられている。一方で,役職定年により一担当者になっていることから,課長以上のリーダーに求められる仕事は任されていない。具体的には,決裁事項の承認やメンバーとの面談を通した目標設定,評価,フィードバックは行っていない。さらに,K社では職場レベルで職場管理者とシニア社員の裁量により職域が拡大していくなかで,その実態に対応する形で格付け制度や賃金制度の整備を行っていることが明らかになった。本稿では,これらの調査結果を踏まえ,シニア社員の積極的な活用に求められる人事管理のあり方を提示している。
2025年特別号(No.775) 自由論題セッション●第1分科会
2025年1月27日 掲載