フリーランサーはいかにして過密労働に対処しているのか─アニメーターの実践からみるフリーランス労働の持続可能性の確保
要約
本稿では,日本のアニメ産業で働くアニメーターを事例として,フリーランサーが自らのキャリアのなかでどのようにして自らの業務を統制しようとしているのかについて明らかにする。フリーランスを対象とした労働研究においては,しばしば低報酬の問題が強調されてきたが,フリーランス労働がもつ時間的側面については十分に議論がされてこなかった。24名のフリーランスのアニメーターへのインタビュー調査に基づき,本稿ではとくにアニメーターが過密労働の回避や将来的な職業生活の安定を確保しようとしているのかについて分析した。結果として明らかにしたのは以下の3点である。第一に,アニメーターは実際に短期的なスケジュールのなかで働いており過密化のリスクが常にあるが,締切が集団的な分業に埋め込まれたものであることによって,労力をかけすぎなくてもよいことを正当化する資源にもなっていた。第二に,発注者・管理者との関係性は維持と距離化の双方が安定確保と過密化の回避のために必要とされており,受注を判断する際にはこのバランス取りが常に意識されていた。第三に,ライフステージや職業生活の持続性を考慮しながらアニメーターは請け負う業務や身につけるべきスキルの方向性を定めようとしていた。こうした実践は,アニメーターが複数の職種を内包する職業であることによって可能になっており,フリーランス労働を論じる際に職業ごとに存在しているスキル形成やキャリアの特徴などを踏まえることの重要性を示唆した。
2025年特別号(No.775) パネルディスカッション●フリーランスの就業と法
2025年1月27日 掲載