小規模事業における家族従業者のフォーマル化─ジェンダー平等の追求を軸として
要約
今日,インフォーマル労働への対処が世界的に注目されている。本論文はその一例として,小規模家族経営における家族従業者の労働を,法・税制・社会保障という制度面に着目し,その福祉国家体制への組み入れ方,そのフォーマル化の過程を試論的に論じる。欧州でのジェンダー平等の追求が自営業にいかに波及したか,それと日本の展開を比較し,その共通性と差異を検討した。欧州でも日本でも,ジェンダー平等の希求が強まるなか,女性家族従業者たちが商工団体に組織され,法と社会保障の見直しを求める運動を行ってきた。この動きは1970年代から顕著になった。それはジェンダー平等を目指す政策のなかに自営業女性への配慮を盛り込むことに成功し,今日にまで至っている。この取り組みの展開の始まりについて,日本がとりたてて遅いという結論を導くことはできなかった。徴税体系や社会保障の体制は経路依存性を持ち,社会的合意が得られやすいポイントは異なるために,対応が難しく,遅れが生じるポイントは各国で異なる。日本の際立った特徴は,家族に対する労働の対価を認め,家族従業者に納税者としての権利を与える税法の抜本的な見直しが進まないことである。その背景にある日本の家族観や徴税の仕組み,自営業者や商工団体に対する意味付けなどについてさらに考察を進める必要がある。
2024年8月号(No.769) 特集●家族と労働
2024年7月25日 掲載