「年収の壁」はどのように導入・維持されてきたか─政党に着目して
要約
本稿は政党に着目しながら,年収の壁を生じさせる所得税の配偶者控除制度と年金の第三号被保険者制度がどのように導入され維持されてきたのかを探るものである。左派・中道政党ではなく自民党が政権の座にあったことが両制度の導入・維持につながった,という解釈が妥当性を持つのかという観点から,1960年代から2020年代までの5つの事例分析を行った結果,この解釈は第三号被保険者制度に関しては妥当性が認められたものの,配偶者控除制度に関しては妥当性が認められなかった。むしろ,夫が給与所得者・妻が専業主婦の世帯が増え,さらに妻がパートタイム労働者の世帯が増えるという長期的な変化の中で,それらの世帯を支援する姿勢がおおむね政党横断的に保持されてきたからこそ,配偶者控除制度は導入され維持されてきたと考えられる。政党はしばしば個人を支援する政策を掲げつつ,こうした世帯への支援も継続しようとしてきた。今後,配偶者控除制度や第三号被保険者制度を廃止するにしても,その先にどのような国家・社会をめざすのかについて,政党は十分な選択肢を提示していない。
2024年8月号(No.769) 特集●家族と労働
2024年7月25日 掲載