夫婦の生活時間に見るジェンダー格差の趨勢

要約

余田 翔平(国立社会保障・人口問題研究所人口動向研究部第3室長)

教育,経済,政治などの家庭外の公的領域における男女間の不平等は,定型化された指標によって継続的に測定することが相対的に容易である。それに比して,家庭内という私的領域におけるジェンダー格差について,標準化された方法で継続的にモニタリングすることは容易ではない。そのような中,ダイアリー調査による生活時間データは,世帯員の生活時間配分を通じて,私的領域におけるジェンダー格差を浮かび上がらせてくれる貴重なデータである。そこで本稿では,1991年から2016年までの『社会生活基本調査』(総務省)の匿名データを用いて夫婦単位のデータを構築し,有償労働時間と無償労働時間における夫婦間格差の趨勢を描き出した。分析の結果,夫の有償労働時間の長さおよび無償労働の妻への偏重によって代表される性別役割分業体制は,観察期間を通じて強固に維持されていた。一方で,局所的な変化として,無償労働時間に見られる夫婦間格差の緩やかな縮小傾向が確認された。さらに,夫妻の学歴を加味した分析からは,生活時間の男女差の縮小傾向が高学歴層によって牽引されている可能性が示唆された。以上の知見は,夫婦間の伝統的な役割分業体制の安定性とその局所的な変容という,日本のジェンダー格差の二面性を反映していると思われる。


2024年8月号(No.769) 特集●家族と労働

2024年7月25日 掲載