ケア責任への脱家族化政策の影響─ダブルケア調査からの一考察
要約
東アジアの政府は高齢化と少子化という人口学的な圧力のもと,子育ておよび高齢者介護における家族の負担の軽減を目的とした政策改革を実施してきた。そのため,東アジアの社会では主に家族のみがケアする社会からの移行が生じてきたが,このような政策動向の一方で,特に日本は,家族をケアの場として強化するジェンダー別役割分業にもとづいた社会制度や社会組織を維持してきた。このような東アジアのケア政策の展開は,家族および女性のケア責任と労働にいかなる影響を及ぼしているのか。本稿はこの問いの一端を,近年増加しているダブルケアに注目して考察する。まず家族および女性のケア責任と社会政策の関係を考察するためのアプローチとして,脱家族化の概念を採用し批判的に検討する。次に韓国,日本,台湾,香港の4つの社会で行った比較調査データと日本での最新データを基に,ダブルケアラーの負担感を分析,特に韓国と日本の脱家族化政策と同定されるケア政策の効果について検討する。分析では,家族と女性をケア労働の主要な提供者として維持する韓国と日本における脱家族化政策は,家族のケア責任の一部を軽減したものの,家族介護を主に担う女性の負担感の軽減に限定的な効果しかないことが明らかになる。また日本のダブルケアの最新データの分析は,育児・介護のマネジメントをはじめ各政策の連携や調整の次元も重ねて脱家族化の効果をみることの重要性を示唆している。結論では日本の脱家族化政策がダブルケアのジェンダー別役割分担およびダブルケアケアマネジメントや子育てと高齢者介護間の調整において限定的な影響しかもたらさないことを指摘する。
2024年8月号(No.769) 特集●家族と労働
2024年7月25日 掲載