「生」と「ケア」を包摂する社会と社会科学─『親密圏と公共圏の社会学』からの提案

要約

落合 恵美子(京都産業大学教授)

人間の生を扱える総合的な社会理論を構築するため,歴史的,人口学的,アジア的視点からの提案を行う。第1の出生率低下と第2の出生率低下の間に挟まれ,大衆化した近代家族がケインズ主義的福祉国家およびフォード的生産方式と組み合わさって安定した構造を作っていた時代を「社会的再生産の20世紀体制」と呼ぶこととする。近代家族は人間生産の装置として成立し,ケアは主に家族内で処理されるという「ケアの家族化」が起きた。それは公共圏から見れば「ケアの外部化」「ケアの不可視化」ということであった。20世紀体制が終焉してポスト20世紀体制が姿を現しつつある現在,各社会で「ケアの脱家族化」が模索されている。ポスト20世紀体制の代表的なケア供給のパターンとしては,「市場による脱家族化」が優位するアメリカ型,「国家による脱家族化」を前提に国家の役割が「費用補助型福祉国家」に変容して他のセクターとの混合が進んでいるヨーロッパ型を挙げることができる。アジアでは,シンガポールはアメリカ型,日本・韓国・台湾はヨーロッパ型,中国はこれらのどちらとも区別される移行期社会主義型をとっている。日本では1980年代に自己オリエンタリズムによって高度成長期の家族主義的な制度を再強化したことが変化を阻む要因となった。生きやすいと感じられる社会が持続可能な社会だと認識して,ケアを「脱家族化」し,社会のさまざまなセクターで分担することが必要だ。


2024年8月号(No.769) 特集●家族と労働

2024年7月25日 掲載