企業の社会課題への取組みは就職市場でどのように評価されるのか

要約

河越 正明(日本大学教授)

小島 明子(日本総合研究所創発戦略センタースペシャリスト)

近年企業の社会課題への取組みが積極化している一方,これが市場でどのように評価されるのかという懸念も強い。そこで本稿では,企業の社会課題への取組みが就職市場で一体どのように評価されているか,2通りの方法で検討した。まず,2017,2021年の就職ランキングに及ぼす東洋経済CSRスコアの影響力を検討した。プールデータによる推計では見られた有意な効果は,パネルデータ化する等の定式化の変更により失われてしまい,頑健な結果は得られなかった。次に,(一社)経済社会システム総合研究所が2021年に行った意識調査の個票を分析した。具体的にはコンジョイント(CJ)分析により,学生による就職先の選択を通じて企業の社会課題への取組みに対する支払い意思額(WTP)を計測した。女子学生はワークライフバランス(WLB)や多様性への積極的な取組みを行う企業への就職ならば,月額賃金が1.3万円(20代前半の大卒女性所定内給与の6%相当)低くてもよいという評価もあったが,その他は有意に頑健な結果は得られなかった。この結果は,分析対象を10代・20代の若年世代に拡大しても同様であった。以上から,就職市場において企業の社会課題への取組みに対する学生の評価は,部分的に有意なものはあるものの総じて高いものではないことが判明した。

【キーワード】労働市場,労働条件一般,産業・企業


2024年7月号(No.768) ●研究ノート(投稿)

2024年6月25日 掲載