人口減少社会における自動化技術と仕事との関係─AI利用事例調査より
要約
現代日本の高齢化による労働力不足は深刻であり,AIなどの自動化技術への期待が非常に大きい。これまで,自動化技術は単純労働の代替による解雇が発生し,また,人々の働きがいを奪うという雇用・労働の問題が議論されてきた。他方で高齢化問題は,後継者不足の業種では,知識や技能の消失につながり,AIへのデータ蓄積を急ぐ組織も多い。政府も労働力不足問題に対し,AIを含む自動化技術の導入を推奨し,補助金制度を用意している。中小企業において事業を継続する上で労働力の代替を低コストで導入できる新たなツールに対する期待は大きい。本稿ではOECD関連組織のGlobal Partnership on AI の Future of Work日本チームとして行っているAIの開発・利用企業への3年間の調査データを抜粋し,AI利用目的の「労働力不足」,経済的「効率化」,「制度的同型化」のうち,高齢化による人口減と最も関連する「労働力不足」による利用例を中心にその利便性と問題点を示す(効率化,制度的同型化の利用例についても若干,触れる)。議論と結論では,自動化技術の導入により,労働力不足の産業において疲弊している人々や技術や知識の喪失,埋没の改善が見られたこと,そして,仕事に影響を受けるのは単純労働者だけでなく,専門職,準専門職にも影響を受ける職業があり,それは女性職に顕著に現れていること,そして二極化はスキルの高低だけでなく,従業上の地位の間で起こりうることと,今後,「半熟練ホワイトカラー職」が求められる可能性について述べている。そして,社会倫理,労働者の働きがい,働き方の変化などに関する調査や議論の不足を指摘している。
2024年7月号(No.768) 特集●人口減少社会における労働・社会保障問題
2024年6月25日 掲載