独身者データと既婚者の振り返りデータを用いた結婚の決定要因に関する経済分析

要約

鈴木 亘(学習院大学教授)

小島 宗一郎(内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官)

本論文は,内閣府経済社会総合研究所が2024年に企画・実施した「「少子化・女性活躍の経済学研究」に向けたアンケート調査」を用いて,男女別に結婚の決定要因を分析した。このデータは,個人属性や結婚の環境・意識に関し,数多くの変数を有することに特徴がある。また,既婚者については配偶者との交際当時の状況を振り返るデータとなっており,独身者と既婚者が比較可能になるように設計されている。プロビットモデルの推定結果からは,男女ともに,実に数多くの変数が結婚に影響することがわかった。一番大きな発見は,男女に共通する結婚の決定要因が驚くほど多いことである。すなわち,男女ともに結婚確率が上がる要因として,正規雇用,所得の高さ,希望子ども数が多いこと,両親の夫婦仲が良いこと,職場・学校で毎日顔を合わせる独身の異性の数が多いこと,同棲経験があること等がある。一方,結婚確率が下がる要因は,肥満・太り気味,一人子,所得の低さ,転勤の可能性がある職場にいること等である。婚活についても,男女に共通して効果のある活動,ない活動が明確になっている。これらのエビデンスに基づいて政策を立案すれば,実効性の高い未婚対策(結婚支援策)になる可能性が高い。また,結婚行動に関する諸仮説のうち,女性の機会費用仮説が概ね支持される一方,時間的制約仮説は支持されなかった。パラサイト・シングル仮説については,男性が支持される一方,女性は支持されない結果となった。


2024年7月号(No.768) 特集●人口減少社会における労働・社会保障問題

2024年6月25日 掲載