人口減少社会における労働・財政・社会保障と経済成長

要約

平口 良司(明治大学教授)

本稿において私は,人口減少社会における労働,財政・社会保障と経済成長との関連について,日本経済の動向をふまえつつ,理論的な整理を行い,実態の概観を試みる。まず,人口減少や高齢化が経済成長に与える影響について,経済成長モデルの分析を紹介する。成長モデルにおいて人口減少が経済成長に与える悪影響の一つに,技術革新に貢献する人の数が減り,経済全体に占めるアイデアのストックが増えないことがある。一方高齢化は貯蓄率の増加を通して経済成長にプラスの効果があるものの,将来の自身の消費の重要性が増す分,出生率の低下を招き経済を停滞させる恐れがある。続いて,高齢化を背景に増大する社会保障費や,それにともない悪化する国家財政状況が経済成長に与える影響について理論的に解説し,実証分析の一部も紹介する。政府債務の増大が経済成長に与える影響は理論上,債務増大が公的資本増強のファイナンスに充てられる場合を除きおおむねマイナスである。最後に少子高齢化が急激に進行する日本への示唆を行う。具体的には,人口減少を補うための労働の質の向上(人的資本蓄積),及び高齢化を経済成長につなげるための機械化の必要性,あるいは財政健全化のための財政政策ルール設定の必要性などについて,指摘を行う。


2024年7月号(No.768) 特集●人口減少社会における労働・社会保障問題

2024年6月25日 掲載