社会政策の形成と労働者集団の役割─戦後日本の労働組合による最低賃金制運動を中心に

要約

兵頭 淳史(専修大学教授)

一般に,福祉国家の類型や水準は,労働組合のあり方と密接に関係している。しかし,個別の社会政策・制度は,労働組合の組織力量や組織形態の単純な従属変数ではない。最低賃金制についても同様である。労働組合が,強力な社会的・経済的影響力を背景とする強固な労使自治のシステムを維持しているがゆえに,最賃制に対する関心が薄い場合もあれば,「周辺的」労働者の発言増大を背景に労働組合運動が活発化し,そのことが最賃制をめぐる強力な運動と制度の改善につながることもある。日本においては,年功制の下にある男性正規雇用労働者を主軸とする企業別労働組合が主流を占めるという組織的特徴が,労働組合の最賃制への無関心と最賃制自体の脆弱さにつながってきた,という説がある。しかし実際には,戦後日本の労働組合は諸外国の労働組合と比較して最賃制に強く関与してきた。その原点は1950年代初頭にまで遡ることができる。当時,職場社会において二重構造ないしは多重構造が再び明瞭に現出し,労働組合の組織化と機能の維持にとって阻害要因となりつつあった。そうした事態に直面した総評系労組は,当時強く帯びていた社会主義的な性格からも,組織機能の維持と「階級的」連帯を追求し,非正規雇用労働者の支援を目指した。その方策として採用されたのが,「賃金綱領」における最賃制要求だったのである。


2022年10月号(No.747) 特集●労使関係における集団の意義

2022年9月26日 掲載