労使交渉におけるフォーマルとインフォーマル

要約

青木 宏之(香川大学教授)

日本企業では,インフォーマルな労使交渉が豊富に行われており,それはフォーマルな労使協議と連動して労使紛争の予防や処理に貢献してきたと考えられる。チームリーダーの仕事力を生かした職場労使協議は労働側の発言力の源泉となると同時に,管理者の職場理解を深めることにもつながる。またそれは職場の上司と部下との立場を変えた話し合いの場であるために,管理者が職場労働者集団の規範に共感し,連帯をつくる可能性もある。そして,この職場からのボトムアップの力学が,組織全体に伝播しあるいは調整される過程を理解するためには,経営内部そして労働組合内部のそれぞれに交渉関係があるということに留意しなければならない。第1に,日本の管理者は職場の利害代表としての意識を持ちやすいが,その背景には,職場の業績向上が労働者集団の貢献意欲によって左右されること,それを引き出すために規範の共有という感情的要素を帯びたマネジメントが行われていることなどの事情がある。第2に,組合執行部は職場労働者集団から労使交渉の力を引き出すと同時にセクショナリズムを抑制しながら政策を取りまとめなければならない。事前の意見調整を重視する労使協議の過程においては,組合内部における意見調整も組合執行部には強く求められるためである。このように,経営組織にも下意上達があり,労働組合内部にも統制があり,さらにそれらは相互に関連し合っている。日本の労働者の発言力を問題とする際には,この構造全体を踏まえる必要がある。


2022年10月号(No.747) 特集●労使関係における集団の意義

2022年9月26日 掲載