労働法における集団の意義・再考─労働者代表による労働条件決定をめぐる法的課題

要約

桑村 裕美子(東北大学教授)

労働法が労働者の「集団」として強度に保護してきたのは,労働者が自主的に組織する労働組合であるが,近年では組合組織率の低下を受けて,法律に基づき選出される過半数代表者の権限が拡大の一途をたどっている。本稿では,過半数代表の権限拡大や労使委員会の制度化の流れを概観した後で,労働者利益が多様化した現代において労働者集団(の代表)が果たすべき役割を労働法学の立場から問い直し,個人のレベルでは実現できない「労働者の保護」と集団的事項における「労働者利益の適正な反映」の2点が重要であるとする。そして,それぞれの観点から現行の労働者代表制度が抱える問題点を検討し,過半数代表・労使委員会については,いずれの点でも集団としての役割を果たす前提となる制度的基盤を欠いており,早急の立法的対処が必要であることを示す。続いて労働組合法制においては,労働条件を不利益に変更する労働協約の手続審査の中で組合内部の利益調整のあり方が模索されてきたが,いまだ議論は収束しておらず,労働者保護の観点からの内容審査の要否も問題となるとする。そして,労働協約の拡張適用制度に関しては,労働組合法17条では協約外の者に著しい不利益が及ぶ場合に拡張適用を否定する司法審査の枠組みが確立しているが,同18条では行政機関(労働委員会や厚生労働大臣・都道府県知事)にそうした権限があるか否かが明らかでなく,行政機関の裁量権の有無・範囲・限界についての解釈論の活発化が必要であると述べる。


2022年10月号(No.747) 特集●労使関係における集団の意義

2022年9月26日 掲載