性的少数者保護と性差別禁止法理─アメリカの議論を中心に

要約

長谷川 珠子(福島大学准教授)

2020年6月,アメリカ連邦最高裁は,「性的指向と性自認」(Sexual Orientation and Gender Identity, SOGI)を理由とする差別は「性」差別に当たり,公民権法第7編に違反するとの判断を初めて示した(Bostock v. Clayton County, 140 S. Ct. 1731(2020))。本稿は,性的少数者の権利保障において後れをとる日本での議論に資することを目的の1つとして,先般新たな判断が示されたアメリカの状況を紹介するものである。まず(Ⅱ),雇用差別の解決手法が日米で異なるところ,アメリカでは不当な取扱いを違法とするには差別禁止規定の存在が極めて重要であることを確認する。次に(Ⅲ),性的少数者らが権利を獲得してきた背景には,当事者による社会運動とその影響を受けた法制度と裁判例の展開があることや,性的ステレオタイプ理論等を用いてSOGI差別を違法とする裁判例が現れていたこと等を指摘し,多様な要因が積み重なって2020年連邦最高裁判決に至ったことを明らかにする。最後に(Ⅳ),連邦最高裁判決を検討し,同判決により全米の性的少数者らが雇用の全局面におけるSOGI差別から保護されることになったことや,一連のSOGI差別が禁止される可能性が高いことなど,判決の意義を述べる。加えて,同判決が将来の問題とした,平等な取扱いを超えて何らかの配慮(自認する性でのトイレや更衣室の使用等)を必要とする場面についても若干の検討をする。


2021年10月号(No.735) 特集●ダイバーシティ推進と差別禁止法理の課題

2021年9月27日 掲載