マイノリティの包括的権利保障に向けた法的アプローチ

要約

三成 美保(奈良女子大学教授)

マイノリティとマジョリティの関係は非対称であって,一般的にマジョリティが「あたりまえ」の存在として優位に立つ。社会は,普遍性を帯びたマジョリティの基準にしたがって構成されるため,マイノリティの尊厳は損なわれやすい。マイノリティは,複数の属性に関して交差差別を受ける。交差差別を禁止するために必要なのが,包括的差別禁止法である。日本政府は,国連人権条約諸機関から包括的差別禁止法の制定を求められているが,政府は必要ないという立場を崩していない。LGBTQの人びとの権利保障に関して,日本政府は,国際的には積極的姿勢を取っているにもかかわらず,国内ではLGBT理解増進法すら国会に上程されなかった。性同一性障害者特例法は,法的性別変更の必須要件として,WHOなどが人権侵害とする不妊要件を定めている。特例法を速やかに撤廃し,法的性別を原則として性自認に基づいて変更できる新たな法律を定めることが望まれる。社会や企業における実務においては,マジョリティとマイノリティの非対称性を前提として,包括的差別の禁止を明記した規程を策定し,用意した選択肢の利用に関してはマイノリティを基準として手続やルールを設定することが望まれる。規範定立にあたるマジョリティは,自らの特権性に自覚的であること,差別の交差性に留意する必要がある。ダイバーシティ施策がマジョリティ基準へのマイノリティの統合ではなく,「同じではないことの連帯」を目指すように設計されるならば,持続可能な未来への展望が開けてくるだろう。それには,マイノリティの包括的権利保障を目指す法的アプローチが不可欠である。


2021年10月号(No.735) 特集●ダイバーシティ推進と差別禁止法理の課題

2021年9月27日 掲載