性別二分論の限界─性的少数者と性差別禁止

要約

山田 省三(中央大学名誉教授)

イギリスでは,性差別と並んで,性自認(性不適合),性的指向および同性婚を理由とする差別が制定法により禁止されている。ここで注目されるのは,生殖を基本として男女を把握する生物学的性二分論から,「性の多様性」を尊重する視点への転換が前提とされていることであろう。すなわち生来の身体・性自認と自己の性が一致し,異性を愛するという多数派と異なる少数者の「性」がどのように保護されるべきかという問題である。とりわけイギリスでは,「同性愛は罪である」という「神の法」(Godʼs Law)と,差別禁止という「人の法」とが対立しているが,そのような前提を欠く日本では異なった議論が求められよう。その際には,そもそも「性」差別禁止における「性」とは何を意味するかの議論が不可欠となろう。さらに,この問題を考察する際には,差別論的アプローチ(discrimination approach)と並んで,性に関する「多様性アプローチ」(diversity approach)も有用な議論であるかが問われよう。以上のように,本稿は,先駆的なイギリス差別禁止法における性自認,性的指向および同性婚をめぐる議論を紹介しながら,今後日本でも不可避なテーマである「性の多様性」に関する法理を探求することを目的とするものである。


2021年10月号(No.735) 特集●ダイバーシティ推進と差別禁止法理の課題

2021年9月27日 掲載