わが国の60代労働者の就業変化と労働市場への影響

要約

上野 有子(一橋大学経済研究所特別研究員)

わが国では勤続年数と賃金の右上がりの関係を示す賃金プロファイルのフラット化が指摘されているが,本稿では,60代雇用者の増加が賃金プロファイルに及ぼした影響を議論する。具体的には,生まれ年別の賃金プロファイルのフラット化を国レベルで確認したのち,事業所別に簡易的に賃金プロファイルを推計し,60代の比率が高い事業所とそれ以外の事業所を比較した。この結果,2010年代半ば以降では前者の方で,年齢に伴う賃金上昇ペースが若干緩やかであり,かつ賃金水準のピークが遅い傾向がみられた。00年代前半と10年代半ば以降の結果を比較すると,10年強の期間で少なくとも30代から賃金カーブのフラット化は進んでおり,特に60代の比率が高い事業所ではフラット化傾向がより顕著である可能性が示された。本稿の分析の範囲では推測の域を出ないものの,こうしたフラット化の背景の一つに,60代労働者の継続雇用の拡がりがある可能性も考えられる。仮に,60代雇用により昇進機会の減少や賃金プロファイルのフラット化が起きれば,若年層にとっては長期雇用のメリットが従来よりも低下することが考えられる。他方,60代労働者の就業継続は,その豊富な人的資本の活用により,若年世代とのチームワークを通じて企業の生産性を高めるとの既存研究の指摘も見られ,今後60代以上の労働者をどのように活躍させていくかが企業にとっての重要な課題になる。


2021年9月号(No.734) 特集●高年齢者の活躍と雇用

2021年8月25日 掲載