「学び直し」に至る施策の変遷

要約

岩崎 久美子(放送大学教授)

本稿は、「学び直し」に至る勤労者の教育・学習施策について、経済的ナショナリズム下の企業内教育、経済的ナショナリズム崩壊後の個人によるエンプロイアビリティ獲得のための学習、グローバル経済下での国による個人の学習環境整備へと、その焦点の変遷を概観する。その経緯を見れば、第一に戦後の経済的ナショナリズムの下では、完全雇用による経済的安定と教育・社会福祉・職業移動を通じた機会の提供が、経済成長と収益を達成するもっとも効率的な方法と考えられた。勤労者の学習機会は、戦後の終身雇用制という雇用慣行に基づき、主に企業内教育により行われ、それは、自己啓発ニーズをも充足した。第二に1973年の第一次「石油ショック」を契機に経済的ナショナリズムは崩壊し始め、官僚組織型組織から柔軟型組織へのパラダイム転換や、ダウンサイジングを目指す組織の大規模再編が行われ、エンプロイアビリティ獲得のため個人の自己啓発が求められるようになる。第三に、グローバル経済以降になると、社会の流動化が進み、テクノロジーの進展が激しくなる。社会で求められるスキルへの変化が生じ、新たなスキルの獲得や向上、雇用対策として職業訓練や再訓練を行う必要性が高くなり、企業内教育に代わって国家の人材政策としての職業訓練や再訓練、さらには女性や高齢者の活用などを視野にいれた「学び直し」の制度化が検討されるに至る。

2020年8月号(No.721) 特集●学び直し

2020年7月27日 掲載