(98)不法就労

12.外国人労働者

1 ポイント

(1)わが国では出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」という)により、従来から単純・未熟練労働者は受け入れない政策が採り続けられてきた。しかしながら、昭和60年頃より不法就労者の数が急増したため、その対応策として平成元年の同法改正により不法就労助長罪が設けられている。

(2)不法就労助長罪(入管法73条の2第1項1号)では、「事業活動に関し」「外国人に不法就労活動をさせた」者や、外国人に不法就労活動をさせるためこれを「自己の支配下に置いた」者等が処罰の対象とされている。

(3)不法就労助長罪の成立要件の一つである「外国人に不法就労活動をさせた」といえるためには、その「外国人との間で対人関係上優位な立場にあることを利用して、その外国人に対し不法就労活動を行うべく指示等の働きかけをすることが必要であると解される」。

2 モデル裁判例

出入国管理及び難民認定法違反被告事件 東京高判平6.11.14 刑集51-3-357

(1)事件のあらまし

被告人Yは、いわゆる売春スナック(以下「G店」)においてマスター兼店長として働いていた。G店において不法残留のタイ人女性5名(以下「Aら」)は、飲食に来た客を接待する一方で、客との間で売春の合意ができれば、店外で売春をし、これで得た売春代については1回につき1万円を店側に入れ、その余は全額売春したAらの収入としていた(G店側がAらに給料を支払うわけではなかった)。Aらは出退勤につき厳しい規制はなされていなかったが、同店で働くにはマスターの承認が必要であり、また、店に無断で売春を行うと10万円の罰金を徴収される旨警告されていた。YはAらにホステス兼売春婦として働くよう促し、不法就労活動等をさせたことにより、入管法73条の2第1項1号に当たるものとして公訴された。

原審判決(長野地諏訪支判平6.7.1 刑集51-3-345)は、Aらはこのスナックの事業活動に関し、ホステス兼売春婦として不法就労活動を行っていたことを認定したうえで、Yはマスター兼店長として折にふれてAらに接客態度や売春に関しても指導していたものと評価し、Aらに不法就労活動をさせたものと判断して、不法就労助長罪の成立を認め、Yに対し懲役1年、執行猶予3年の刑を言い渡した。

(2)判決の内容

被告人有罪(控訴棄却;不法就労助長罪につき懲役1年、執行猶予3年)

控訴趣意において入管法73条の2第1項1号の不法就労助長罪の成立要件に関し、まずは、G店とAらとの間には雇用契約がないこと、また、Aらは売春相手から報酬を得ていたこと等により、Aらの行為は「不法就労活動」に該当しない等の主張につき、「不法就労活動をさせることと[その]不法就労活動に対する報酬等の支払いとを直接結び付けなければならないとは、文理解釈からいっても無理であるし」、同罪の立法趣旨及びその処罰根拠から考えても狭すぎるというべきである。

次に、Yには不法就労活動を「させた」という具体的な実行行為が認められない旨の主張につき、同条規定の「外国人に不法就労活動をさせた」とするためには、その「外国人との間で対人関係上優位な立場にあることを利用して、その外国人に対し不法就労活動を行うべく指示等の働きかけをすることが必要であると解されるところ」、この事案では、Yは、客付けや売春代の管理等を行っていたわけではなく、Aらが「店の客を誘って売春を行うことをただ黙認していたにすぎないかのようであるが」、Aらとの関係は「ホステスらに給料を支払わない代わりに、客との売春によって得る売春料金は一万円を除き全額Aらの収入とするというシステムの中で考えるべきことであり」、「マスター兼店長であるYがAらとの間で対人関係上優位な立場にあることもAらに対する接客及び売春についての働きかけがあることも優に認められるというべきであ」り、YはAらに不法就労活動をさせたと認められる。

3 解説

(1)不法就労者と不法就労助長罪

不法就労者とは、不法就労活動を行う者をいう。不法就労活動とは、具体的には、①外交、教授、芸術、投資・経営、医療、研究、技術もしくは技能等の在留資格をもって在留する者が、その在留資格に応じた活動に属しない報酬を受ける活動等、または、短期滞在、留学、研修、家族滞在等の在留資格をもって在留する者が、資格外活動の許可を受けていない場合に報酬を受ける活動等、②日本人の配偶者等、永住者の配偶者等または定住者が、その在留期間を超えて在留期間の更新なしに在留する場合は不法残留者となり、その者が行う報酬その他の収入を伴う活動、③不法入国者が行う報酬その他の収入を伴う活動、④不法上陸者が行う報酬その他の収入を伴う活動、のことをいう(入管法73条の2第2項)。なお、不法就労者についても、労基法、労契法、労安衛法、最賃法および労災保険法などの労働法規、並びに、厚生年金保険法等が適用される。

昭和60年代に入りわが国における不法就労者(とりわけ単純労働を目的として入国・在留する不法就労者)の数が急増してきたことに伴い、法務省入国管理局による取締りの強化や入国規制等による対応はもとより、平成元年には入管法改正により不法就労助長罪が新たに設けられた。同法73条の2第1項においては、①事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者、②外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者、あるいは、③業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関し斡旋した者に対して、3年以下の懲役または300万円以下の罰金等の処罰が定められた。これは、外国人労働者がわが国において就労先を見つけるのが難しいこと等もあり、実際にはブローカー等の仲介者が職業紹介やあっ旋等を行い、その外国人労働者から不当な手数料等を利得している実態もあるため創設された側面もある。なお、平成21年の同法改正により、不法就労者であることの認識に関して、過失推定の規定が設けられ、仮に認識がなかったとしても無過失でない限りは処罰を免れないこととなった(同法73条の2第2項)。

(2)不法就労助長罪の成立要件

モデル裁判例では、入管法73条の2第1項1号の不法就労助長罪の成立要件が争点となっているが、「判決の内容」で記した以外にも、G店の事業目的は飲食業であり、Aらは自身の自由な意思判断で売春を行っていたにすぎず、Aらの売春行為は「事業活動に関し」に当たらないという点が問題となっている。同判決は、G店を通じて売春が行われているシステムや実態、また、G店が「売春の機会を作出することにより、ホステスらの収入を高めさせてAらを店に引き止めるとともに、客を増やして店の収入の増加を」図っていたこと等を踏まえて、G店が「正規の営業目的いかんにかかわらず、その実態は、Aらがホステス兼売春婦として働くいわゆる売春スナックであることは明らかである」として、Aらの不法就労活動がG店の「事業活動に関し」行われていたと認定している。

なお、モデル裁判例ではその他「罪数」に関して、包括一罪が正当であるとしてYにより上告されているが、最高裁(最三小決平9.3.18 刑集51-3-343、判時1598-154、判タ936-221)は、その決定のなお書きにおいて「同一の事業活動に関し複数の外国人に不法就労活動をさせた場合、[入管法73条の2第1項1号の]罪は[それらの]外国人ごとに成立し、それらの罪は併合罪の関係にあると解するのが相当である」と述べている。

同種の事案としての(東京高判平5.9.22 高刑集46-3-263、判時1507-170、判タ837-297)、及び、入管法同条同項2号の「自己の支配下に置いた」の意義が争点となった(東京高判平5.11.11 高刑集46-3-294、判時1506-153、判タ846-291)と併せて、モデル裁判例は、不法就労助長罪の成立要件につき判断を示した数少ない高裁裁判例として先例的意義を有しているものと思われる。

(3)不法就労助長罪に関するその他の裁判例

その他の裁判例としては、日本語学校の代表取締役が、業として外国人就学生4名を就労先会社に紹介したことが入管法73条の2第1項3号の不法就労助長罪に当たると判断された(大阪高判平9.4.25 判時1620-157)、無給休職処分および通常解雇の効力が争われた事案ではあるものの、その解雇等の理由が、在日ペルー人6名に対し就労先を不法にあっ旋したことにより同3号の入管法違反の罪に問われ有罪判決を受けたことであった明治学園事件(福岡高判平14.12.13 労判848-68)、及び、在留期間を経過して不法残留していたコロンビア国籍の女性2名をストリッパーとしてストリップ劇場に紹介したことが不法就労助長罪に当たると判断された(東京地判平15.3.28 最高裁ホームページ 事件番号:平成14年 合(わ) 第651号)等がある。

なお、就労目的でミャンマー人4名の集団密航者を、通訳・翻訳等の業務への従事という名目で、偽りその他不正の手段を用いて在留資格「人文知識・国際業務」を取得する等し、空路を利用して成田国際空港よりわが国に入国させたことにより、集団密航助長罪(入管法74条1項、2項)の成否が問題とされた事案において、営利目的集団密航助長罪(同条2項)の成立が認められた(東京高判平21.12.2 判タ1332-279;原審(東京地判平21.6.30 D1-Law.com[判例体系]文献番号28165839))がある。