(97)外国人実習生をめぐる問題

12.外国人労働者

1 ポイント

(1)平成5年に設けられた外国人研修・技能実習制度は、従来の制度を拡充するものであり、1年間の研修(在留資格は「研修」)、及び、その後最長2年間の技能実習(在留資格は「特定活動」)から成る仕組みであった。わが国で開発され培われた技能、技術や知識等を開発途上国等への移転等を図るため、また開発途上国等の経済発展を担う人材育成のため設けられた制度である。

(2)ただし、これらの制度を悪用し、外国人研修生や技能実習生を安価な労働力と考え、実際には長時間労働や最賃法を下回る賃金しか支払わない事業者等が現れ出し、人権侵害の点も含め、非難の的となった。外国人研修生に対し、研修期間中に実態として労働させている状況があれば、労基法等に照らし労働時間の管理や賃金の支払い等が適切に行われていたか否かが問われる場合等がある。

(3)このような状況を踏まえ、平成21年7月に出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」という)が改正され、新しい研修・技能実習制度が開始されることとなった。在留資格として「技能実習」が創設され、研修期間も技能実習期間もこの資格に一本化されることとなった。

2 モデル裁判例

(外国人研修生・技能実習生による)損害賠償等請求事件
 長崎地判平25.3.4 判時2207-98

(1)事件のあらまし

原告Xら(5名)は、平成18年12月頃より、(平成21年入管法改正前の)外国人研修・技能実習制度に基づく研修生として来日し、第2次受入れ機関である訴外A社において縫製作業に従事し、その後特定活動の資格を得てA社との間で技能実習契約を締結した。A社の代表取締役Y1及び取締役Y2は、A社の工場等においてXらを縫製作業に従事させていたが、Xらの作業実態については、全期間を通じて、休憩時間を除く1日当たりの作業時間は約11時間であり、労基法の適用を前提とした場合には、毎月の時間外労働時間は100時間を超えており、休日は月に1日程度、休日のない月も少なくない状態であった。研修期間中の手当は月額5万円(技能実習期間は月給10万9,000円程)、残業代については全期間を通じて時給300~400円で計算されていた。加えて、Xらの逃亡防止等のためY1及びY2は旅券や預金通帳を管理し、Y1はXらの一部の者に対し臀部や胸を触るなど性的嫌がらせ行為を行ったり、頭を小突くなどの暴行を行ったりもした。

Xらは、Y1及びY2に対して民法719条及び会社法429条1項に基づく損害賠償請求を行うとともに、第1次受入れ機関であるY3協同組合及びその代表理事であったY4に対し、Y4がY1及びY2による一連の不法行為を容易にしてこれを幇助したことにより、民法719条等に基づき損害賠償を請求等した。

(2)判決の内容

外国人研修生等(労働者側)勝訴

労基法9条及び最賃法2条にいう労働者に該当するか否かに関して、「一般に、甲が従事する作業が、事業者である乙の指導の下に、甲の研修として行われ、教育的な側面を有しているとしても、当該作業が直接当該事業に係る生産・役務提供活動に従事するものであるなど当該作業による利益・効果が当該事業者に帰属する場合には、甲が従事する作業は、事業者である乙のための労務の遂行という側面を不可避的に有することとなるのであり、乙の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り」、甲は労基法9条等にいう労働者に当たるものというべきである。この事案では、研修期間中のXらの縫製作業への従事の実態等に鑑みると、Xらは労基法9条等にいう労働者に当たる。

Y1及びY2は、Xらが当時置かれていた状況を認識したうえで、著しく長時間にわたり、著しく少ない休日しか与えず、最低賃金額を著しく下回る賃金しか支払わずにXらを労働させ、通信機器の所持を禁ずるなどXらの私生活の自由を侵害し、また、Y1は違法にXらの旅券等を管理したというべきであり、これらの行為は相互に密接に関連した一連の行為と評価でき、Xらの人格権を侵害するものとして不法行為を構成する。また、Y1のXらの一部の者に対する性的嫌がらせ等についても、それらの事実が認められ、Y1は別途不法行為に基づく損害賠償義務を負う。

3 解説

(1)外国人研修・技能実習制度

わが国における外国人労働者の入国や就労等については、入管法によって規制がなされている。同法においては、原則として単純・未熟練労働者は受け入れない政策が採られている((96)[外国人労働者]参照)。

昭和60年以降、企業活動の国際化等に伴い、日本企業の海外進出も多くなる一方、アジア地域等近隣の発展途上国からわが国に就労を求め入国する外国人(主に不法就労者)の数も急増し、これらの問題に対応するため、平成元年に在留資格の拡充・整備や不法就労の取締り強化等を目的として、入管法の大幅な改正がなされた。さらに同改正では、わが国における技術や知識等の開発途上国等への移転を図り、その経済発展を担う人材育成のため、「研修」の在留資格が設けられ、従来より存した外国人研修生制度の拡充が行われた。平成5年にはさらに外国人研修・技能実習制度も設けられ、1年目の研修終了後に、一定の要件を満たした場合には労働法の適用もある技能実習期間に移行していく仕組みであった(在留資格は「特定活動」に変更。なお、平成9年には滞在期間が合計3年間に拡張された。)。しかし、外国人研修生や技能実習生を安価な労働力と考えて悪用する事業者が出現するなど、人権侵害の問題や労働法規に違反する実態問題が浮き彫りとなり、非難の的ともなっていった。また、研修生等が研修先等から逃亡し行方不明になっている問題も生じてきている。

このような状況を踏まえ、平成21年7月に入管法が改正され、新しい研修・技能実習制度が開始されることとなった(平成22年7月1日施行)。在留資格として「技能実習」を創設し、研修期間も技能実習期間もこの資格に一本化されることとなり、また、改正法では、研修生・技能実習生の法的保護やその法的地位の安定化を図るための様々な措置が講じられることとなった。原則として座学による講習の期間(最長2ヵ月間)を除き、技能実習生には労働関係法令の適用があることも明確化された。現在さらに、技能実習生の保護を図るための管理監督体制の強化(外国人技能実習機構の新設)や、最大3年間の実習期間を一定の要件の下さらに2年間延長することが可能となる仕組みの導入などを盛り込んだ「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」等が、国会での審議を経て同28年11月に可決され成立した。

(2)外国人研修・技能実習制度の下での裁判例

外国人研修生等に違法な長時間労働等をさせ、また割増賃金等を支払わなかった裁判例として、研修生期間における時間外研修に係る時間外手当と最賃法に基づく最低賃金額との差額請求が認められ、また、控訴人会社が実習生を暴力によって威嚇し、恐怖感を抱かせ、就労できないようにさせたうえで解雇したことにつき、解雇権の濫用で無効であるとして、実習期間満了までの未払賃金請求が認められた三和サービス(外国人研修生)事件(名古屋高判平22.3.25 労判1003-5)、また、外国人研修生について、研修期間中、概ね午前8時30分から午後6時ないし午後11時まで(昼休みは1時間)、遅い場合は翌日午前3時まで縫製作業に従事するなど長時間の作業を命じられ、かつノルマをも課せられていたこと、技能実習生とほぼ同一内容の作業に従事していたこと等の実態があり、研修生及び被告会社ら双方ともに、労務の提供の対価として報酬が支払われるという認識を有していた場合には、労基法9条および最賃法2条1号所定の労働者に該当すると判断したスキールほか事件(熊本地判平22.1.29 労判1002-34)がある。後者の事案では、第2次受入れ機関による外国人研修生の旅券の預かりや預金口座及び預金通帳・印鑑の管理、並びに、違法な労働状態の作出につき不法行為が認められ、また、第1次受入れ機関である協同組合についても、第2次受入れ機関と連帯して損害賠償責任を負うことが認められた。なお、この協同組合により控訴がなされたが、棄却されている(プラスパアパレル協同組合(外国人研修生)事件 福岡高判平22.9.13 労判1013-6)。さらに、最賃法等の適用が認められ、研修期間及び技能実習期間を通じて、時間外労働等の割増賃金請求及び付加金の支払請求等が認められた広島経済技術協同組合ほか(外国人研修生)事件(東京高判平25.4.25 労判1079-79)等がある。なお、外国人研修生等による時間外労働手当等の未払い賃金請求等が認められなかった事案に伊藤工業(外国人研修生)事件(東京高判平24.2.28 労判1051-86)等がある。

モデル裁判例では、原告Xらは、Y1ないしY4以外に、中国から研修生等を送り出していた機関の駐日窓口でもあったY5社及びその代表取締役であるY6に対しても同様の理由により損害賠償請求していたところ、裁判所は、Y6は、Xら研修生の選抜等に関与し、また、Y1及びY2による不法行為を幇助したことにより、民法719条に基づく共同不法行為責任を負い、さらに、Y5社も一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条に基づく損害賠償支払義務を負うと判断した。第2次及び第1次受入れ機関並びにそれらの代表者だけではなく、研修生等の送出し機関に関連する会社等の共同不法行為責任を肯定した点で特徴を有している。なお、Y1及びY2は控訴したが、棄却されている(福岡高判平25.10.25)。

その他、中国人研修生・技能実習生らに対して36協定の枠を超えて時間外労働をさせ過酷な労働を続けさせていたうえ、割増賃金等も不払いであったケースにおいて、刑事処分(懲役6ヵ月、執行猶予3年)が認められた縫製業事業主(労基法違反被告)事件(和歌山地判平20.6.3 労判970-91)、さらに、日本人従業員と概ね同等の作業に従事していたと認められる外国人実習生につき、寮費である住宅費・水道光熱費の額が、日本人従業員と比べ著しい格差があり高額であった点について、労基法3条に違反すると判断した事案にデーバー加工サービス事件(東京地判平23.12.6 労判1044-21)等がある。