(96)外国人労働者~外国人労働者の逸失利益の算定~

12.外国人労働者

1 ポイント

(1)わが国における外国人労働者の就労については、出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」という)によって一定の規制がなされている。同法においては、単純・未熟練労働者は受け入れないこととされており、他方、教授、芸術、投資・経営、法律・会計業務、及び、医療等に関する専門的・技術的能力を有する者等については在留資格を認め、可能な限り受け入れることとされている。

(2)外国人労働者(不法就労者も含む)についても、原則として労基法、労安衛法、最賃法および労災保険法などの労働法規等は適用される。

(3)一時的にわが国に滞在し将来出国が予定される外国人(例えば、不法就労の外国人労働者)が労働災害に遭った場合において、その災害による損害につき使用者に対し損害賠償を請求する場合、その労働者の逸失利益をどの国の賃金水準に基づき算定するべきか問題となるが、予測されるわが国での就労可能期間ないし滞在可能期間内はわが国での収入等を基礎とし、その後は想定される出国先(多くは母国)での収入等を基礎として逸失利益を算定するのが合理的ということができる。

2 モデル裁判例

改進社事件 最三小判平9.1.28 民集51-1-78、労判708-23

(1)事件のあらまし

パキスタン国籍を有する第一審原告Xは、就労する意図の下、観光を目的とする在留資格で入国し、製本業を営む第一審被告会社Y1(その代表取締役は第一審被告Y2)に雇用され、製本等の作業に従事していた。XはY1の工場内で製本機を用いて中綴じ作業を行っていた際、製本機に右手人さし指を挟まれその末節部分を切断するという事故に被災した。Xはその後、同種の製本業を営む訴外A会社で働くようになり、約4ヵ月後に退職した。Xは上記事故に関し労災保険から休業補償給付(約13万3,000円)および障害補償給付(約164万5,000円)の支給を受けたほか、Y1から約18万円の支払いを受けていた。そのうえで、Xは債務不履行(安全配慮義務違反)等に基づき、Y1及びY2に対して損害賠償を請求した。

第一審(東京地判平4.9.24 労判618-15)は、Y1及びY2の安全配慮義務違反を肯定しその損害賠償責任を認め、その損害額に関して争点となった後遺障害による逸失利益については、訴外Aを退社した翌日から少なくとも3年間は日本国内においてY1から受けていた実収入額と同額の収入を、その後67歳までの39年間については、日本円に換算して1ヵ月当たり3万円程度の収入をそれぞれ得ることができたものと認定した。控訴審(東京高判平5.8.31 労判708-26)も第一審判決を是認し、各控訴を棄却した。そこで、Xが上告した(Y1等も附帯上告)。

(2)判決の内容

労働者側勝訴(ただし、損害額については一部勝訴)。合計約216万6,000円を認容(慰謝料175万円、弁護士費用20万円、財産的損害分約21万6,000円)。

一時的にわが国に滞在し将来出国が予定される外国人の逸失利益を算定する際には、その外国人がいつまでわが国に居住して就労するのか、その後どこの国に出国して、生活の本拠をどこにおいて就労することになるのか等を、相当程度の蓋然性をもって予測し、「将来のあり得べき収入状況を推定すべきことになる」。そうすると結局、予測されるわが国での就労可能期間ないし滞在可能期間内はわが国での収入等を基礎とし、「その後は想定される出国先(多くは母国)での収入等を基礎として逸失利益を算定するのが合理的ということができる」。

以上のことからすると、この事案において、Xのわが国における就労可能期間を3年の期間を超えるものとは認めなかった原審の認定判断は、不合理ということはできない。

3 解説

(1)外国人労働者の就労

わが国における外国人労働者の就労については、入管法により単純・未熟練労働者は受け入れないが、医療、研究や教育等に関する専門的・技術的能力を有する者等については可能な限り受け入れることとされてきた。加えて、高度の専門的な知識・技術を有する外国人(高度外国人材)の受け入れは拡張される方向に進んでいる。また、近年は技術・技能等を習得するための在留資格に基づき「技能実習」に従事する外国人の数も増えてきているが、労働法規の適用の有無等が問題となってくる。そして、外国人労働者(不法就労者も含めて)についても、労基法、労契法、労安衛法、最賃法および労災保険法などの労働法規、並びに、厚生年金保険法は適用される。もっとも、職業安定法や、雇用保険法および健康保険法は、部分的又は全面的に不法就労者を適用対象外としている。

(2)逸失利益の算定基準

外国人労働者がわが国の企業において就労し、労働災害にあったような場合、労災保険給付を受けたり、使用者に対して損害賠償を請求したりできるが、その際にその労働者の逸失利益をどのようにして算定するのかが大きな問題となってくる。モデル裁判例は、外国人労働者の労災民事訴訟に関する、また、特に不法就労者の労働災害における逸失利益の算定についての最初の最高裁判決として非常に重要な意義を有している。

逸失利益の算定について最高裁は、判決内容で述べたような手法を用い、日本における就労可能期間を3年、その後は母国に帰国して就労することを前提に算定を行った第一審及び原審の判断を是認している。さらに、わが国における就労可能期間の認定については、「来日目的、事故の時点における本人の意思、在留資格の有無、在留資格の内容、在留期間、在留期間更新の実績及び蓋然性、就労資格の有無、就労の態様等の事実的及び規範的な諸要素を考慮」する旨を一般的に論じている。この事案において、不法就労も認めたうえでこの3年という期間の判断に関しては賛否両論もあり問題になるとも思われるが、外国人労働者の逸失利益につき、わが国における就労可能期間は日本での実所得を基準に算定するという枠組みを明確にした点では意義がある。ちなみに、第一審裁判所は、財産的損害(約234万3,000円)および慰謝料(約250万円)の算定につき、Xの責任も一部認め3割の過失相殺を行っている(結果的に合計195万円(うち弁護士費用20万円)を認定、なお財産的損害分約164万円については労災保険給付により全て塡補済み)。

なお、第一審判決においてではあるが、休業損害についての判断中、Xが入管法違反の残留及び就労をしていたことに関し、「製本作業という就労内容自体は何ら問題のない労働であって、しかも入国自体が強度の違法性を有する密入国のような場合とは異なるから、いまだ公序良俗に反するものであるということはできない」と述べられていることより、すべての不法就労者について上記のような財産的損害等が認められるわけではないと考えられる。

(3)その他の裁判例

後遺障害による逸失利益の算定につき、モデル裁判例と同様の判断を示した裁判例に、中島興業・中島スチール事件(名古屋地判平15.8.29 労判863-51;日本における就労可能期間3年、過失相殺3割)等がある。また、平成21年入管法等改正前の外国人研修制度に基づき来日していた中国人研修生に関し、工場内にてパイプ曲げペンダーで作業中に右示指を切断する事故に遭った事案において、モデル裁判例の判断枠組みに則り、研修及び実習終了後に中国へ帰国した後は、本国(中国)での収入等を基礎として算定するのが相当であると述べつつも、中国の将来の経済成長率を正確に判断することが不可能であることを踏まえ、(研修生主張の)日本の賃金センサスに基づいて基礎収入を算定することは認められないとしながらも、一切の事情を総合考慮して、その基礎収入は平成19年度の賃金センサスの男性労働者平均賃金である554万7,200円の25%である138万6,800円とするのが相当というべきであると結論付けたナルコ事件(名古屋地判平25.2.7 労判1070-38;同期間なし[在留資格が研修であるため]、過失相殺2割)がある。類似の判断を示していた裁判例に損害賠償請求事件(徳島地阿南支判平23.1.21 判タ1346-192;同期間なし[研修]、基礎収入につき平成20年の賃金センサス産業計男性中学卒全年齢平均賃金427万5,500円の3分の1である142万5,166円、過失相殺5割)がある。

ちなみに、日本に在留するブラジル国籍の労働者に関しては、日本における就労可能期間等は問題とはならず、後遺障害による逸失利益につき労働能力喪失期間を10年間としてわが国における収入等を基礎に算定された矢崎部品ほか1社事件(静岡地判平19.1.24 労判939-50;過失相殺3割)がある。

なお、その他の事案としては、外国人労働者が研修の履行を求めて行った集団的職場離脱に対し使用者がなした懲戒解雇の有効性等が争われたケースで、使用者が出入国管理当局に申告した賃金額と、その労働者たちとの間で合意した賃金額とが異なっていた場合に、当局に申告した賃金額が雇用契約上の賃金となるわけではないと判断した裁判例に山口製糖事件(東京地決平4.7.7 労判618-36)がある。