(95)派遣労働関係をめぐる法的課題
11.非正規雇用
1 ポイント
(1)派遣元企業は派遣労働者の雇用主であり、派遣労働者に対して、労働契約や労基法等に基づく法的責任を負う。
(2)派遣元企業は、労働者派遣法に基づき、派遣労働者の就業条件等を明示する義務を負い、有期雇用派遣労働者の雇用の安定を図る措置や派遣労働者に対する計画的な教育訓練を実施しなければならない。また、派遣労働者の賃金や処遇の決定に当たっては同種業務に従事する派遣先労働者との均衡に配慮しなければならない。
(3)労働者派遣契約が中途解除された場合にも、派遣労働者と派遣元企業との労働契約は当然に終了するわけではない。派遣元企業は派遣労働者との契約期間が満了するまで休業手当又は賃金支払い義務を負い、「やむをえない事由」(労契法17条)がない限り、期間の途中で労働者を解雇することはできない。
2 モデル裁判例
プレミアライン事件 宇都宮地栃木支決平21.4.28 労判982-5
(1)事件のあらまし
労働者派遣事業を営むYは、Xらとの間で有期労働契約(6ヶ月)を締結・更新し、自動車製造を行うA社との労働者派遣契約に基づいてXらを同社工場に派遣していたが、A社から経営状態悪化のため労働者派遣契約を中途解除するとの通告を受けた。Y社は、右中途解除により派遣労働者の従事すべき業務がなくなったとして、Xら派遣労働者に対し、A社との契約終了をもって労働契約期間中に解雇することを予告した。Xらは、この解雇は違法無効である等と主張し、契約期間満了までの賃金の仮払いを求める仮処分を申し立てた。
(2)判決の内容
労働者側勝訴
期間の定めのある労働契約は、「やむを得ない事由」がある場合に限り、期間内の解雇(解除)が許される(労契法17条1項、民法628条)。このことは、その労働契約が登録型を含む派遣労働契約であり、たとえ派遣先との間の労働者派遣契約が期間内に終了した場合であっても異なるところはない。
この期間内解雇の有効性の要件は、期間の定めのない労働契約の解雇が権利の濫用として無効となる要件である「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」(労契法16条)よりも厳格なものであり、その無効の要件を充足するような期間内解除は、明らかに無効である。
本件の解雇を整理解雇法理(労契法16条)に照らしてみると、Yの経営状況等は相当厳しいものと評価できるが、①経営上の理由を真摯に説明して希望退職を募集すれば多くの派遣労働者がこれに応じ、Xらの解雇を回避しうる可能性が高かったにもかかわらず、解雇以外の措置を採らなかったこと、②派遣労働契約書や解雇予告通知書の記載に反し、Xらに対して他の派遣先を斡旋するなど、就業機会確保の具体的努力をまったくせずに解雇したこと、③Xら派遣労働者に人員削減の必要性を説明せずに一方的に解雇を通告し、合意解約の体裁を整えるため退職届を提出するよう指示するなど、解雇手続が明らかに相当性を欠くことから、明らかに同条の無効要件に該当する。したがって、本件期間内解雇につき、労契法17条のいう「やむを得ない事由」があると解し得ないことは明白である。
3 解説
(1)派遣元企業の責任
前項(94)[11.非正規雇用]で述べたとおり、労働者派遣においては、派遣労働者を雇用しているのは派遣元企業であり、派遣元企業は使用者として労働契約や労働関係法規(労基法等)に基づく法的責任を負う。
さらに、労働者派遣法は派遣労働者を保護するため、派遣元企業に対して、就業条件等の明示(派遣法34条)や、派遣労働者の賃金や処遇の決定に当たって同種業務に従事する派遣先労働者との均衡に配慮すること(30条の3)等を義務づけている。2015年の法改正では、①有期派遣労働者の雇用の安定を図る措置(同法30条。労働者が派遣先の同一組織単位の業務に3年以上従事した場合に、派遣先への直接雇用の依頼・新たな派遣先での就業機会の提供・派遣元での無期雇用・雇用の安定に特に資すると認められる教育訓練のうち、いずれかを講じなければならない)や、②派遣労働者に対する計画的な教育訓練やキャリアコンサルティングの実施(同法30条の2)が義務づけられるなど、派遣元企業の責任が強化された。
(2)労働者派遣契約の中途解除と派遣労働者の解雇
一般に、労働者派遣においては、派遣元企業に比べ、サービスの利用者である派遣先企業が有利な立場にある。そのため、派遣先による労働者派遣契約の期間途中における解約が行われ、派遣労働者が就業機会を失うという問題がしばしば生じる。
労働者派遣契約が中途解約されても、派遣元との労働契約は当然に終了するわけではない。派遣元に無期雇用されている労働者であれば、中途解約を理由とする解雇の効力は整理解雇法理(労契法16条)に照らし、①人員整理の必要性、②解雇回避努力、③被解雇者の選定基準の合理性、④解雇手続を考慮して判断される((90)【解雇】参照)。
有期雇用の派遣労働者については、労働者派遣契約の期間と合わせて派遣元との労働契約期間が設定されていることが多い。このような場合、労働者派遣契約が中途解約されても、派遣元との労働契約は期間満了まで存続し、労働者が残りの期間につき就労できなかったとしても、派遣元は休業手当(労基法26条)または賃金全額(民法536条2項)を労働者に払う義務を負う(休業手当の支払いを命じた事例として、三都企画建設事件 大阪地判平18.1.6 労判913-49。賃金全額の請求を認容した事例として、浜野マネキン紹介所事件 東京地判平20.9.9 労経速2025-21)。また、派遣元は「やむをえない事由」がない限り労働者を期間途中で解雇することはできない(派遣法17条1項)。期間内解雇の有効要件である「やむをえない事由」の有無は、労契法16条の解雇要件よりも厳格に判断されており、モデル裁判例では解雇回避努力の欠如や解雇手続の不当性から解雇が無効と判断されている。
なお、派遣先が、派遣労働者の国籍、信条、性別、社会的身分、労働組合の正当な行為をしたこと等を理由として労働者派遣契約を解約することは禁止されている(同法27条)。また、派遣先企業は、労働者派遣契約の解除によって派遣労働者の雇用が失われることを防ぐため、派遣労働者の新たな就業機会の確保や派遣元が支払う休業手当の費用負担などの措置を講じる義務を負う(同法29条の2)。