(94)派遣先と派遣労働の関係
11.非正規雇用
1 ポイント
(1)労働者派遣とは、派遣元企業(派遣会社)が雇用する労働者を、派遣先企業の指揮命令の下で働かせることである。派遣労働者の労働契約上の使用者は派遣元企業であり、派遣先企業との契約関係は発生しない。
(2)労働者派遣は、労働者派遣法の規制に従って行われる必要がある。派遣先企業が違法派遣と知りつつ派遣労働者を受け入れていた場合は、当該労働者に直接雇用を申し入れたものとみなされる。
(3)派遣法は、派遣先企業による派遣労働者の直接雇用を促進するため、一定の場合に派遣先での募集に関する情報提供を義務づけている。
(4)派遣先企業は、労働時間など派遣労働者の就労や指揮命令に関わる一定の規制につき、法令上の責任を負う。
2 モデル裁判例
パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件
最二小判平21.12.18 民集63-10-2754
(1)事件のあらまし
Y社のPDPパネル製造ラインでは、出資会社からの出向者と請負業者の従業員が働いており、Y社に直接雇用されている者はいなかった。Xは請負業者であるA社に有期雇用され(期間2ヵ月・更新可)、YA間の業務請負契約に基づいてY社に派遣されて、同社工場において班長やリーダー(出資会社からの出向者)の指示を受けながらPDPパネルの封着作業に従事していた(いわゆる偽装請負)。Xは、XY間には黙示の労働契約が成立している等と主張し、Yに対して雇用契約上の地位確認と賃金の支払い等を求めて提訴した。
(2)判決の内容
使用者側勝訴
業務請負契約という形式がとられていても、請負人による労働者の指揮命令がなく、注文者(受入先企業)が労働者の直接具体的な指揮命令をして作業を行わせている場合には、これを請負契約と評価することはできず、受入先企業と労働者の間に雇用契約が締結されていないのであれば、三者の関係は労働者派遣法上の労働者派遣に該当する。
本件におけるXの派遣は派遣法違反に当たるといわざるを得ないが、労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質等にかんがみれば、同法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによって派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはない。本件において右特段の事情は認められず、X・A間の雇用契約は有効に存在していたといえる。
また、YはXの採用に関与しておらず、YがXの給与の額を事実上決定していたといえるような事情もうかがわれない。他方、AはXの具体的な就業態様を一定の限度で決定しうる地位にあったと認められ、その他の事情を総合してもX・Y間に雇用契約が黙示的に成立していたとはいえない。
3 解説
(1)労働者派遣事業と法規制
労働者派遣とは、派遣元企業(派遣会社)が雇用する労働者を、派遣先企業の指揮命令の下で働かせることである。労働者派遣は、企業が社外の労働者を受け入れて利用する形態の一つであるが、派遣労働者の労働契約上の使用者は派遣元企業であり、派遣先企業は指揮命令を行うが労働者との契約関係は発生しない点で、業務処理請負や出向と区別される。
労働者派遣事業は、職安法で禁止されている労働者供給事業の一形態であり、これを合法的に行うには労働者派遣法の規制を遵守しなければならない。従来、労働者派遣事業は特定労働者派遣事業(届出制)と一般労働者派遣事業(許可制)に区別されていたが、2015年の法改正(2015年9月施行)により区別が廃止され、すべての派遣事業が許可制となった。
1985年に制定された当初の労働者派遣法は派遣の対象を26の専門業種に限り、派遣期間も短期に限定していた。しかし、その後法改正により大幅な規制緩和が行われ、法律や政令で禁止された業種(港湾運送、建設、警備、医療関係など)以外については労働者派遣を行いうることになった。また、派遣期間に関する規制も緩和されつつあったが、2015年の法改正により大幅にルールが変更された。改正法では、従来の業種による区別が廃止され、①事業所単位の規制(同一事業所への派遣労働者の受入れは3年を上限とする。ただし過半数代表の意見を聴いて延長することが可能)と、②個人単位の規制(同一組織単位〔課など〕への同一派遣労働者の受入れは3年を上限とする)が適用される。ただし、例外として、派遣元企業に無期雇用される労働者、60歳以上の労働者、有期プロジェクトへの派遣、産休育休等の代替労働者等を派遣する場合には、上記の期間制限は適用されない。
(2)違法派遣と労働契約関係
労働者派遣法は基本的には行政上の取締法規であり、派遣法に違反して労働者を派遣したり受け入れたりした企業は、同法に基づく行政的措置(指導、命令、勧告、企業名公表等)や罰則の対象となる。しかし私法上は、派遣法に違反しているからといって直ちに派遣労働者と派遣先との間に労働契約関係が認められるわけではない。モデル裁判例は、重大な法違反が認められる偽装請負の事例において、派遣先企業と労働者の間に黙示の労働契約の成立を認めた原判決(大阪高判平20.4.25 労判960-5)を最高裁が破棄し、このような場合にも「特段の事情」がない限り、派遣労働者の労働契約上の使用者は派遣元企業であることを示したものである。右判決以降の下級審裁判例は派遣先との労働契約成立を否定するものが多いが、「特段の事情」を認めた例として、マツダ防府工場事件(山口地判平25.3.13 労判1070-6)がある。
この判決を受けて、2012年の派遣法改正により、一定の場合に派遣先企業が労働者に直接雇用の申込みをしたものとみなす制度(申込みみなし制度)が新設された(2017年10月1日より施行)。この制度は、派遣先が違法派遣であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合(または知らなかったことに過失がある場合)に、違法派遣が生じた時点で、派遣先が派遣労働者に対して同一労働条件での労働契約の申込みをしたものとみなすというものである(派遣法40条の6)。右申込みは違法派遣が終了してから1年間は撤回できず、これに対して労働者が承諾の意思表示をした場合には、派遣先企業と労働者の間に労働契約が成立することになる。みなし制度の対象となる違法派遣は、①労働者派遣禁止業務(港湾運送業務、建設業、警備業等)への派遣、②無許可の事業主からの受け入れ、③期間制限の違反(改正法施行前から行われている派遣を除く)、④偽装請負である。
(3)派遣先による直接雇用の促進
派遣先企業は、同一の事業所で1年以上の期間継続して派遣労働者を受け入れている場合に、当該事業所において労働者の募集を行うときは、当該募集に係る情報(業務の内容や賃金、労働時間など)を当該派遣労働者に周知しなければならない(40条の5)。また、派遣元企業は、派遣元での雇用が終了した後に当該労働者を派遣先企業が直接雇用することを正当な理由がないのに禁止する旨の契約を、当該派遣労働者との間で締結してはならない。派遣元が派遣先との間で同様の契約をすることも禁止されている(33条)。
(4)法令の適用
派遣労働者を雇用する使用者は派遣元企業であるが、派遣先企業も現実の就労や指揮命令に関わる一定の法規制につき、派遣元と共に(労働安全衛生法上の安全衛生確保等に関する諸規制、均等法上の妊娠出産保護など)、あるいは単独で(労基法上の労働時間・休日・休暇等に関する諸規制、年少者・女性に対する保護規定など)、使用者としての責任を負う。