(92)雇止め

11.非正規雇用

1 ポイント

(1)労働契約法19条により、①期間の定めのある労働契約(有期契約・期間雇用)が反復更新されて、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となった場合、または②期間の定めのない契約と実質的に異ならないとまではいえないものの、雇用関係継続への合理的な期待が認められる場合には、雇止めには、客観的合理的な理由及び社会通念上相当と認められることが必要となる。

(2)労働契約法19条に基づき、雇止めが無効とされた場合には、従前の労働契約が更新される。

(3)雇止めの効力を判断すべき基準については、正社員とは合理的な差異が認められ、人員整理において正社員に先立ち雇止めすることも許される。

2 モデル裁判例

日立メディコ事件 最一小判昭61.12.4 労判486-6

(1)事件のあらまし

Y社では、景気変動に伴う受注の変動に応じて雇用量の調整を図る目的で臨時社員制度を設けており、その採用にあたっては、試験は実施せず、健康状態や経歴等を尋ねるのみの簡単な面接を行って採用を決定していた。労働者Xは、Y社の臨時社員として採用され、契約期間2ヶ月とする労働契約を5回更新された後、契約の更新を拒否(雇止め)されたため、XとY社との間の労働契約は期間の定めのないものであったことを前提に、契約の更新拒否は解雇にほかならず、本件解雇は権利濫用であると主張し、労働契約上の地位確認等を求め提訴した。

第1審はXの請求を認容したが、原審(第2審)はXへの雇止めを適法なものと判断したため、Xが上告した。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

XとY社との間で締結された労働契約が5回にわたる契約の更新によって、期間の定めのない契約に転化したり、あるいは、XとY社との間に期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じたということもできない。

Y社の臨時社員は、季節的労務などのような臨時的作業のために雇用されるものではないため、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、Xとの間においても5回にわたり契約が更新されているのであるから、このような労働者を契約期間満了によって雇止めするに当たっては、解雇に関する法理が類推され、解雇無効とされるような事実関係の下に雇止めをするならば、期間満了後における法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となる。

しかし、臨時社員の雇用関係は比較的軽易な採用手続きで締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結している正社員を解雇する場合とは自ずから合理的な差異がある。

独立採算制が採られているY社K工場において、事業場やむを得ない理由により人員削減をする必要があり、その余剰人員を他に配転する余地もなく、臨時社員全員の雇止めが必要である場合には、正社員について希望退職者の募集等の手段を講じずに、まず臨時社員の雇止めをしてもやむを得ないというべきである。

以上のことから、Xに対する雇止めについては、これを権利の濫用、信義則違反とすることはできない。

3 解説

(1)期間雇用(有期雇用)に関する民法上の原則

期間の定めのある雇用契約は、その契約期間が満了すれば当然に終了するのが原則である。したがって、契約の更新は新たな契約の締結であり、これを行うか否かは当事者の自由に委ねられている。ただし、契約期間が満了した後も労働者が引き続き労働に従事し、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前と同じ条件で雇用(更新)されたものと推定される(民629条1項)。したがって、期間経過後も労働関係が事実上継続されている場合には、当該雇用契約につき黙示の更新がなされたことになる。

(2)雇止めと解雇権濫用法理

反復更新されて長期雇用化した期間雇用の契約更新拒否(雇止め)をめぐる問題に対し、裁判所は、前述した民法上の原則を修正する必要性に鑑み、一定の場合について解雇権濫用法理を類推するとの見解を示し、雇止めを制限する法理を確立した。

まず、東芝柳町工場事件(最一小判昭49.7.22 民集28-5-927 労判206-27)は、5回から23回にわたって契約を更新していた労働者に対する雇止めについて、契約を反復更新することで期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となった場合には、雇止めの意思表示は実質において解雇の意思表示にほかならず、解雇に関する法理を類推すべきであると判断した。その上で、余剰人員の発生等、従来の契約を反復更新するという取扱いを変更してもやむを得ないと認められる特段の事情がなければ雇止めできないとした。

次に、モデル裁判例において裁判所は、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態とまではいえなくとも、雇用継続に合理的な期待が認められる場合には解雇権濫用法理を類推適用することを明らかにした。その後、1回目の更新拒否においても、採用の経緯や臨時社員に対する会社のそれまでの取扱い等の事情から、労働者の雇用継続に対する合理的な期待を認めると判断する裁判例も現れた(龍神タクシー事件 大阪高判平3.1.16 労判581-36)。

他方で、丸島アクアシステム事件(大阪高決平9.12.16 労判729-18)は、6ヶ月の雇用契約を10回にわたって反復更新した労働者に対する雇止めに関して、採用に当たって使用者は長期雇用を期待させるような言動をしていないこと、実質的な審査によって契約更新を行っていたこと等の事情から、期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性があったということはできないと判断した。同様に、雇用継続に対する合理的な期待を認めることはできないとして雇止めを有効とした裁判例として、ロイター・ジャパン事件(東京地判平11.1.29 労判760-54)や旭川大学事件(札幌高判平13.1.31 労判801-13)等がある。

近年では、有期契約を反復更新してきた労働者に対し、次回の契約更新はしない旨定めた不更新条項を盛り込んだ場合や、予め契約の更新限度を定めていた場合の雇止めの効力が争われる事例が増えている。労働者の雇用継続への期待に合理性が認められた裁判例としては、契約更新限度が定められていたにもかかわらず、その後の更新を期待させるような言動等があったカンタス航空事件(東京高判平13.6.27 労判810-21)、契約更新限度に関する説明が不十分であり、それまでの契約期間・更新回数や業務内容(補助的・機械的業務ではないこと)等から更新の期待に合理性があるとされた京都新聞COM事件(京都地判平22.5.18 労判1004-160)、最後の更新時に不更新条項が盛り込まれた契約書に署名・押印したが、それ以前の状況下で認められた更新の合理的な期待は、不本意ながら不更新条項付き労働契約に署名・押印したことにより、解雇権濫用法理の類推適用が排除されることにはならないと判断した明石書店(製作部契約社員・仮処分)事件 東京地決平22.7.30 労判1014-83)等がある。他方で、労働者が説明会等での説明を受けるなどして、不更新条項等の内容について理解・認識した上で、そのような不更新条項等が付された契約書に特に異議を申し立てることもなく署名・押印しているような事例等では、労働者の雇用継続への期待に合理性は認められないと判断されている(近畿コカ・コーラボトリング事件 大阪地判平17.1.13 労判893-150、雪印ビジネスサービス事件 浦和地裁川越支判平12.9.27 労判802-63、本田技研工業事件 東京高判平24.9.20 労経速2162-3、北海道大学事件 札幌高判平26.2.20 労判1099-78等)。

(3)雇止め制限法理の明文化

2012年の労契法改正によって、判例上確立された雇止めを制限する法理は法律上明文化された(19条)。すなわち、有期労働契約の反復更新によって雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できる場合(同条1号、前掲東芝柳町工場事件参照)か、有期労働契約の期間満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することに合理的理由が認められる場合(同条2号、モデル裁判例参照)のいずれかに該当し、当該有期労働契約期間の満了までに更新を申込むか、期間満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをしており、使用者が当該申込みを拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は従前の有期労働契約と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなすと規定された。本条の具体的な適用については、これまでの裁判例に依拠して判断される。

なお、労契法17条2項は、有期労働契約によって労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、当該有期労働契約を反復更新することのないよう配慮することを使用者に義務づけている。

(4)雇止め制限法理の適用と整理解雇

雇止めを制限する法理の適用が認められる場合に要求される「客観的で合理的な理由」とは、正社員と同じものであるのかが問題となる。このことは、正社員の人員削減に先立って、期間雇用社員の雇止めをしてもよいかとして争われてきている。

この点について、裁判所は、モデル裁判例のように、人員整理に際して、反復継続して長期雇用化している労働者であっても、無期労働契約の正社員より前に彼らを雇止めすることを認めている。他方で、雇止めによる人員整理においても、雇止め制限法理が適用されるような有期雇用の場合には、無期労働契約における整理解雇に準じて、人員削減の必要性や雇止め回避努力、人選の合理性、手続きの相当性を考慮すべきとの判断もされている(エヌ・ティ・ティ・ソルコ事件 横浜地判平27.10.15 労判1126-5、日本郵便(苫小牧支店時給制契約社員B)事件 札幌高判平26.3.13 労判1093-5、日本郵便(苫小牧支店時給制契約社員A)事件 札幌地判平25.3.28 労判1082-66)。