(90)【解雇】整理解雇

10.雇用関係の終了及び終了後

1 ポイント

(1)整理解雇=経営上の理由による人員削減のための解雇の効力は、①人員削減を行う経営上の必要性、②使用者による十分な解雇回避努力、③被解雇者の選定基準およびその適用の合理性、④被解雇者や労働組合との間の十分な協議等の適正な手続、という4つの観点から判断される。

(2)近年の裁判例においては、使用者による被解雇者に対する再就職の支援などの、解雇を前提とした不利益軽減措置の存在を、整理解雇の効力の判断においてどのように考慮するか、などの点が問題になっている。

2 モデル裁判例

アイレックス事件 横浜地判平18.9.26 労判930-68

(1)事件のあらまし

プリント配線板等の製造販売業を営むY会社は、売上げの低下に伴う収益悪化を理由に、平成16年6月から7月にかけて、Yの正社員であったXを含む21名を解雇した。

本件解雇の対象者は、人事考課成績の低い者から、管理職及び代替性の低い労働者と会社が考える者等を除外する形で選定された。また、Yは本件解雇に先立って、役員報酬、管理職賃金の削減、百数十名いた有期雇用の臨時社員の46名までの削減等を行っていた。なお、Yは当初、Xに対して解雇の理由は能力不足だと伝えていた。

Xは、本件解雇の無効を主張し、Yの従業員たる地位の確認等を求めて提訴した。

(2)判決の内容

労働者側勝訴

本件解雇は整理解雇であるところ、このような整理解雇は、人員削減の必要性があることを前提として、解雇回避努力の十分性、被解雇者選定方法の合理性、手続の相当性等を総合的に考慮して、当該解雇が客観的合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができないときには、解雇権の濫用として無効となる。

平成16年度に入ってから、Yの売上げは前年度までに比して大きく減少し、この間毎月約5,000万円から約2億円の経常損失を生じているのであるから、本件解雇の時点においてYは経営状態の著しい悪化により人員削減を行う必要性があった。

Yは本件解雇に先立って希望退職募集、臨時社員の(全面的な)削減、一時帰休・出向を行っておらず、①本件解雇に際し余剰人員とされたのは特殊な知識・経験等を要するとはいえない製造部門の従業員であり、希望退職により代替性のない人材の社外流出が生じるとはいえない、②正社員と臨時社員では雇用継続の期待に差があるので、特に臨時社員の削減を困難とする事情がない限り正社員の整理解雇は臨時社員を削減した後に行われるべきところ、このような事情は認められない、③一時帰休・出向を困難とする事情も認められない、等からすると、Yの解雇回避努力は十分とはいえない。

整理解雇の人選を従業員の人事考課を基準として行うこと自体が合理性を欠くとはいえないが、本件において人事考課結果が低いのに被解雇者から除外される者の選定基準は合理的といえず、Yが行った被解雇者選定の方法に合理性を是認するのは困難である。

Yは、Xと2回面談し、解雇通知後にXが加入した労働組合とも3回団体交渉しているが、解雇に先立つ面談では本件解雇が整理解雇であることを明らかにしておらず、また、被解雇者から除外される者の選定基準について全く説明が行われていない。

したがって、本件解雇は人員削減の必要性は認められるものの、その他の点については不十分であり、解雇権濫用により無効である。(なお、Yは控訴したが、控訴審判決も本判決をほぼ全面的に引用する形でXを勝訴させている。東京高判平19.2.21 労判937-178)

3 解説

(1)整理解雇の有効性の判断枠組み

整理解雇=経営悪化等の経営上の理由による人員削減のための解雇についても、解雇権濫用法理((88)【解雇】参照)の下でその効力を判断されるが、解雇の理由がもっぱら使用者側の事情に求められるという点において整理解雇は他の解雇理由とはやや性格を異にする。こうしたこともあって、整理解雇の解雇権濫用判断については、オイルショック後に大企業などで見られた雇用調整手法を反映する形で、①人員削減を行う経営上の必要性、②十分な解雇回避努力、③被解雇者の合理性、④被解雇者や労働組合との間の十分な協議、という、モデル裁判例も掲げる四つの観点から判断するという独特の枠組みが用いられるようになった(比較的初期の代表的裁判例として、東洋酸素事件 東京高判昭54.10.29 労民集30-5-1002。なお、こうした枠組みを明示的に採用する最高裁判決は存在しないが、原判決の結論を支持し、上告を棄却した例としてあさひ保育園事件 最一小判昭58.10.27 労判427-63がある)。

その後、いわゆるバブル崩壊に続く景気停滞期の整理解雇事件においては、こうした枠組みによる解雇制限を緩和したと見られる裁判例も見られた(代表例としてナショナル・ウェストミンスター銀行(第3次仮処分)事件 東京地決平12.1.21 労判782-23)が、今日の時点で裁判例を全体としてみると、裁判所は、経済環境・雇用環境の変化やそれに応じた事案の変化に対応する一定の柔軟性を示しつつも、基本的には上記の四つの観点に基づく判断枠組みを維持しているものといえる。

そして、上記の①~④については、それぞれが整理解雇の有効「要件」なのか、あるいは解雇権濫用の成否という総合判断の中で考慮される「要素」なのかが問題にされることがあるが、近年の裁判例には、後者の考え方に立つものが多いようである(ロイヤル・インシュランス・パブリック・カンパニー・リミテッド事件 東京地決平8.7.31 労判712-85、ワキタ事件 大阪地判平12.12.1 労判808-77など)。

なお、更生手続の下で更生管財人がした整理解雇についても、整理解雇法理が適用される(日本航空(客室乗務員)事件 東京高判平26.6.3 労経速2221-3)。

(2)各要素について

1)人員削減を行う経営上の必要性

近年の裁判例では、企業が人員削減をしなければ直ちに倒産の危機に瀕するといった高度のものである必要は必ずしもなく、経営上の合理的理由が認められれば足りるとする例が多い(ゾンネボード製薬事件 東京地八王子支決平5.2.18 労判627-10、大阪暁明館事件 大阪地決平7.10.20 労判685-49など。否定例として東京自転車健康保険組合事件 東京地判平18.11.29 労判935-35)。なお、経営上の必要性の程度があまり大きくない場合には、解雇回避努力の要請が強化されるとする裁判例も見られる(前掲ゾンネボード製薬事件ヴァリグ日本支社事件 東京地判平13.12.19 労判817-5など)。

2)十分な解雇回避努力

一般に、残業規制、配転・出向、新規採用の抑制・停止、非正規従業員の雇い止め、希望退職募集などが挙げられるが、何をもって十分な解雇回避努力と認めるかは、事案により異なりうる。たとえば、配転や希望退職募集を欠く場合には、一般的にいえば解雇回避努力が不十分とされやすいが、これらによることが困難もしくは不適当な事情があれば、解雇回避努力に欠けるとは評価されない(前掲東洋酸素事件など。モデル裁判例も、希望退職等について、個別具体の事案を検討した上で、その不実施を解雇回避努力に欠けると評価している)。

なお、配転等による解雇回避が十分に期待できない事案などについて、再就職支援等の被解雇者への打撃を軽減する措置の存在を整理解雇の効力を判断する際に考慮する例も見られる(前掲ナショナル・ウェストミンスター銀行(第3次仮処分)事件など。当該事案の下では他の解雇回避措置をとることが困難といえず、退職金の割増をもって解雇回避努力が尽くされたとはいえないとする例として、PwCフィナンシャル・アドバイザー・サービス事件 東京地判平15.9.25 労判863-19)。

3)被解雇者選定の合理性

被解雇者の選定に関しては、客観的な選定基準の設定に加え、当該基準の合理性が求められる。何が合理的な基準かは、個々の事案ごとに判断されるが、一般的には、懲戒処分歴や欠勤率等の会社への貢献度に基づく基準、扶養家族の有無等の労働者の生活への打撃の程度を考慮した基準などが考えられる。比較的最近の具体例としては、53歳以上の幹部職員という基準の合理性を否定した、前掲ヴァリグ日本支社事件などがある。

4)整理解雇手続の相当性

労働組合との協議は、労働協約等に解雇協議条項が存在しない場合にも信義則の観点から必要とされる(日本通信事件 東京地判平24.2.29 労判1048-45)。また、労働組合の組合員でない労働者に対しても、整理解雇の必要性、具体的実施方法等について、十分に協議・説明し、理解を求める努力が必要とされる。