(83)【退職】早期退職優遇制度

10.雇用関係の終了及び終了後

1 ポイント

(1)早期退職優遇制度に応募するには、一般に、応募の条件を満たす必要がある。

(2)早期退職優遇制度によって退職する場合、会社側の承認を必要とすることは違法ではない。したがって、優遇措置である割増退職金の請求は、会社側の承認があって初めて行うことができる。

(3)優遇された退職金の支給額について、制度の実施又は適用の時間的前後関係から労働者の間で不平等が生じても、原則として会社は労働者を平等に取扱う義務はない。

2 モデル裁判例

神奈川信用農業協同組合(割増退職金請求)事件 最一小判平19.1.18 労判931-5

(1)事件のあらまし

被告Y信用農業協同組合は、就業規則で60才定年制を定めていたが、併せて、労働者の希望により定年年齢前に退職した場合は定年扱いとし、割増退職金を支給する選択定年制を要項で定めていた。選択定年制の対象者は、退職時点に48歳以上で、かつ、勤続15年以上の職員のうち、退職を希望する6ヵ月前までにYに申し出て、Yが認めた者と定めていた。選択定年制が設けられた趣旨は、組織活性化や従業員の転身支援、経費削減であったが、必要な人材の流出防止のため、Yの承認が必要とされていた。

Yの従業員であったXら2名は、選択定年制による退職を希望し、その旨をYに申し出た。その折、Yの経営状態が悪化し、事業譲渡及び解散は不可避と判断されたが、事業譲渡前に退職者が増加することで事業運営が困難になることを防ぐため、Yは選択定年制を廃止する方針を立て、選択定年制に応募する資格を有する従業員全員に対しその旨説明すると共に、理事会で選択定年制廃止を決定した上、Xら選択定年制を申し出た従業員らに対して承認しない旨告げた。

Xら原告労働者は、選択定年制により退職したものとして取り扱われるべきであると主張して、割増退職金債権を有することの確認を求めて提訴した。一審(横浜地小田原支判平15.4.25 労判931-24)、二審(東京高判平15.11.27 労判931-23)は共に、Xらの主張を容れたところ、Yが上告したのがこの事件である。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

選択定年制による退職は、従業員の申出をYが承認することにより、所定日限りの雇用契約終了や割増退職金債権発生という効果が生じるとされており、Yが承認するかどうかについて、就業規則及び要項で特段の制限は設けられていない。もともと、選択定年制による退職に伴う割増退職金は、従業員の申出とYの承認とを前提に、早期の退職の代償として特別の利益を付与するものであり、選択定年制による退職申出が承認されなかったとしても、申し出た従業員は、特別の利益を付与されないが、選択定年制によらない退職を申し出ることは何ら妨げられておらず、退職の自由は制限されていない。したがって、選択定年制による退職申出に対してYが承認しなければ、割増退職金債権の発生を伴う退職の効果が生じる余地はない。

3 解説

(1)早期退職優遇制度の適用の有無

早期退職優遇制度は一時的な雇用調整措置なので、一定の応募資格を満たし、期間内に応募するか自動的に適用されない限り適用されない。実際、制度の適用対象年齢以前に退職した場合は適用されないとされた事例(アラビア石油事件 東京地判平13.11.9 労判819-39など)、内規の早期退職優遇制度が自動的に労働契約の内容になるわけではないとされた事例(日商岩井事件 東京地判平7.3.31 労経速1564-23)がある。また、出向期間中に出向元で実施された希望退職制度について出向者を対象外としても、出向者とそうでない者を同等に扱うとの就業規則等における明確な定めがない限り違法ではないとされた事例(NTT西日本(出向者退職)事件 大阪地判平15.9.12 労判864-63)もある。なお、懲戒処分事由がある場合は転身援助制度の優遇措置は適用されないとした事例(中外爐工業事件 大阪地判平13.3.23 労経速1768-20)、競業会社に転職する場合は退職金特別加算金制度を適用しない旨の条項を、直ちに公序良俗違反(民法90条)で無効とはできないとした事例(富士通(退職金特別加算金)事件 東京地判平17.10.3 労判907-16)がある。

ただし、本来適用のない年齢の者でも、他の年齢の者にも準用する場合があると定められていれば、実際の退職金額と支払われるべき優遇退職金額との差額請求が認められる場合もある(朝日広告社事件 大阪高判平11.4.27 労判774-83)。また、ごく一般的に言って、制度の適用を認めないことが当事者間の信義に反する特別の事情がある場合、会社は制度利用申請の承認を拒否できない(ソニー(早期割増退職金)事件 東京地判平14.4.9 労判829-56など。ただしこの事件では、特別の事情はないとされた。)。

(2)早期退職優遇制度による退職の条件-会社の承認

早期退職の募集により有能な人材が流出するのを阻止すべく、会社は引き留めを行うことが多い。その結果、制度が適用される者すべてが優遇措置を受けて退職できるわけではない。モデル裁判例の会社が承認を定めていたのもこの理由からである。その他にも、会社に必要不可欠な者が退職すると業務に支障が生じるので、早期退職に使用者の承認を要するとすることは不合理ではない(大和銀行事件 大阪地判平12.5.12 労判785-31)、また、承認しなければならない法的義務があるわけでもない(日本オラクル事件 東京地判平15.11.18 労判862-90)等と判断した裁判例が存在する。

なお、早期退職の募集は会社からの申込ではなく誘引であり、労働者の応募で退職の効果が自動的に生じるものではない(津田鋼材事件 大阪地判平11.12.24 労判782-47など)。

(3)早期退職優遇制度と割増退職金の請求の可否

それでは、支払われるべき額と実際の額の差額請求は認められるか。モデル裁判例に従えば、会社の承認がなければ退職の効果は生じず、併せて、割増退職金を得る権利は発生しない。

また、制度が適用されていた労働者の間で不平等が生じることになっても、より優遇された退職金等の支払いを保証する内規などがなければ(前掲朝日広告社事件)、差額請求は認められない(住友金属工業(退職金)事件 大阪地判平12.4.19 労判785-38)。

制度適用の時間的前後関係から見ても同様で、のちに会社がより有利な優遇制度を設けたからといって会社に差額支払責任はなく(長崎屋事件 前橋地桐生支判平8.5.29 労判702-89)、早期退職制度導入前に退職した場合でも、制度が適用されていれば得ていたはずの額と実際の退職金額との差額請求は認められない(大阪府国民健康保険団体連合会事件 大阪地判平10.7.24 労判750-88)。退職後により有利な退職金規程を定めた労働協約が締結された場合で、締結以前に退職した場合も同じである(阪和銀行事件 和歌山地判平13.3.6 労判809-67)。

なお、会社には、早期退職優遇制度が設置されることを退職者に知らせる義務(イーストマン・コダック・アジア・パシフィック事件 東京地判平8.12.20 労判709-12)や、希望退職募集に際し再建策実施後の将来見通し等について説明すべき義務(東邦生命保険事件 東京地判平17.11.2 労判909-43)はなく、制度に応募でき(し)なかった者の損害賠償請求は認められない。