(78)【企業の再編・組織変更時の雇用保障】
解散

9.企業の再編・組織変更時の雇用保障

1 ポイント

(1)真実事業を廃止する会社解散の場合、労働契約は清算手続終了時に終了する。ただし、このような場合も、清算手続中に行われた解雇の効力が否定されたり、違法・不当な目的で解散を決定した親会社等の不法行為責任が認められたりする余地はある。

(2)解散した会社の業務が、新たな会社の下でほぼ同一の内容をもって継続されており、解散会社の労働者も大部分が新会社に雇用されているような場合には、新会社に雇用されなかった労働者についても新会社の従業員としての地位を認められることがある。

2 モデル裁判例

第一交通産業・御影第一事件 大阪地堺支判平18.5.31 判タ1252-223

(1)事件のあらまし

タクシー事業を営むA社を買収して子会社化したY1は、同社の従業員で組織するB組合との紛争等の事情からA社の解散を決定した。この解散に先立ち、Y1の別の子会社Y2(タクシー業)が、A社の営業地域にC営業所を新設して進出した。C営業所では、従業員のほとんどがB組合の組合員でないA社からの移籍者であり、A社が使用していたタクシー呼出用電話番号を利用して営業活動が行われた。

A社は解散し、その時点での全従業員(非組合員のY2への移籍等により、この時点では、ほぼ全員がB組合員であった)を解雇した。

解雇されたB組合の組合員であるXらは本件訴訟を提起し、Y1に対して主位的に労働契約上の地位確認等と予備的に不法行為に基づく損害賠償請求し(第1事件)、Y2に対しては労働契約上の地位確認等を請求した(第2事件)。

(2)判決の内容

労働者側勝訴(第1事件の予備的請求及び第2事件の請求を認容)

子会社が解散しても、親会社は原則として雇用契約上の責任を負わないが、法人格が名ばかりであって子会社が親会社の営業の一部門にすぎない場合(法人格の形骸化)や、親会社が子会社の法人格を違法に濫用した場合(法人格の濫用)には、子会社の従業員は直接親会社に対して雇用契約上の権利を主張できる。

もっとも、解散によって子会社の事業が消滅する場合(真実解散)には、解散の目的が違法不当でも子会社の従業員は親会社に対して解散後の雇用契約上の責任を追及できない。一方、解散した子会社の事業が親会社又は親会社が支配する別の子会社で継続される場合(偽装解散)には、子会社の従業員の雇用契約は事業を継続した会社との間で存続する。法人格を濫用して解散された子会社の事業が親会社が支配する別の子会社で継続されている場合に、解散した子会社の労働者の雇用契約上の責任を負うのは原則として事業を継続する別の子会社であるが、当該別の子会社の法人格が形骸化しているときは、親会社が雇用契約上の責任を負う。

本件では、A社の法人格の形骸化は認められないが、Y1はA社をかなりの程度支配し、賃金体系変更に反対していたB組合を排除する目的でA社を解散したと認められるので法人格濫用が成立する。また、A社とC営業所の営業地域、従業員、無線呼出番号の重なり方等から見て、C営業所はA社の事業を引き継いだものと認められ、A社の解散は偽装解散に該当する。これにより、XらはY2に対し、雇用契約上の責任を追及できる。

Y2の法人格の形骸化は認められず、XらはY1に対して雇用契約上の責任を追及できないが、親会社が法人格を濫用して子会社を解散し、子会社従業員の雇用機会を喪失させることは不法行為に該当し、本件におけるY1の行為も、これに該当する。

3 解説

(1)会社解散と労働契約関係

労働契約の使用者である会社が解散する場合、当該会社の法人格の消滅(=清算の終了)の時点で労働契約の一方当事者が欠けることとなり、労働契約は原則としてその時点で自動的に終了する。使用者が真実事業を廃止する意図で会社を解散したものと認められれば、そこに組合壊滅目的等の不当な動機・目的が併存したとしても、解散の効力は影響を受けない(三協紙器事件 東京高決昭37.12.4 労民集13-6-1172など)。もっとも、このような真実事業を廃止する解散においても、清算終了より前に行われる解雇は、その手続が不当である等の観点から権利濫用により無効とされることがあり(グリン製菓事件 大阪地決平10.7.7 労判747-50)、また、不当な動機・目的に基づく解散であれば、解散を主導した親会社等の支配株主が労働者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うこともある(池本興業・中央生コンクリート事件 高知地判平3.3.29 判タ778-191)。

(2)別会社で事業が継続される場合

一方で、解散した会社の資産等が別会社に譲渡され、この別会社の下で、解散会社の事業がほぼ同一の態様で継続されることもある。この場合に、解散会社の労働者の雇用が別会社で継続されるか否かは、形式的には別会社との間で新たな労働契約が締結されるか否かの問題であり、別会社は採用の自由に基づいて採否を自由に決定できることになるが、この帰結をそのまま認めてよいかは問題となる。

裁判例において、この点に関する確立した判断枠組みは存在していない。以下に挙げるようにいくつかの法律構成で別会社での雇用継続を認める可能性が模索されているが、労働者の救済が否定される結論も少なくない(静岡フジカラーほか2社事件 東京高判平17.4.27 労判896-19、東京日新学園事件 東京高判平17.7.13 労判899-19など)。

別会社での雇用継続を認める法律構成の第一は、解散会社における労働契約を別会社に承継させる旨の両会社間の合意の存在を認定し、事業譲渡に関する法理((77)【企業の再編・組織変更時の雇用保障】参照)に基づく別会社への労働契約承継を認めるものである(タジマヤ事件 大阪地判平11.12.8 労判777-25、勝英自動車学校(大船自動車興業)事件 東京高判平17.5.31 労判898-16等。後者の勝英自動車学校事件では、全従業員の労働契約を承継する原則的合意と例外的に労働条件変更を拒否した従業員を承継から排除する合意を認定した上で、後者を公序良俗違反により無効とし、前者に基づいて、労働条件の変更を拒否した従業員の雇用の承継を認めている)。

第二の構成は、法人格否認法理によって解散会社が事業を継続した別会社と別個独立の法人格であることを否定し、別会社での雇用継続という帰結を導くものである。判例法理において、法人格否認には、「法人格の形骸化」と「法人格の濫用」の2類型があることが認められており、前者は、別会社が株式所有、役員選任、財産所有等を通じて解散会社に支配力を及ぼすとともに両会社の業務や資産が混同していることにより、解散会社が事実上別会社の一事業部門と同視できる場合に認められる。後者は、別会社が解散会社に対して支配力を有しており(支配の要件)かつ、当該支配力を労働組合壊滅、解雇法理等の労働者保護法理の適用回避など違法・不当な目的で用いている(目的の要件)場合に適用される。

モデル裁判例は、複数の子会社(A社とY2)が存在する親子会社関係に法人格否認法理を適用したものである。真実事業が廃止される解散と別会社で事業が継続される解散の違いや法人格否認における上記2類型の成立要件の違い、効果、具体的な成否等の点について、近年の裁判例の標準的な考え方が採られており参考になる。また、法人格を濫用した親会社が、労働者の雇用責任を負わない場合でも、別に不法行為責任を負うとされた点も注目される。

雇用継続に関する第三の構成は、解散会社と、その事業を継続する別会社の間に、資本関係、資産内容、経営陣、業務内容等の点で実質的同一性が認められることを理由として、解散会社の労働者の別会社への承継を認めたり、別会社が解散会社の労働者を不採用とすることに対して解雇法理の適用を認めたりするものである(新関西通信システムズ事件 大阪地決平6.8.5 労判668-48、日進工機事件 奈良地決平11.1.11 労判753-15など)。

(3)不当労働行為制度上の扱い

使用者が労働組合を壊滅する目的で会社を解散し、組合員を排除して別会社で事業を継続することは、不利益取扱い(労働組合法7条1号)、支配介入(同3号)の不当労働行為となる。この場合、労働委員会は、救済命令として、別会社への組合員の雇い入れを使用者に命令することができる(中労委(青山会)事件 東京高判平14.2.27 労判824-17)。