(76)【労働条件の変更】変更解約告知

8.労働条件の変更

1 ポイント

新たな労働条件での労働契約再締結の申し入れを伴った解雇のことを「変更解約告知」という。労働条件変更の申し入れに応じない労働者の解雇をこれに含めることもある。

変更解約告知は、労働条件変更を目的として行われる解雇であり、個別的な労働条件変更のための新たな手法として注目されつつある。ただし、変更解約告知に関する法律上の規定はなく、判例法理上の効力判断の枠組みも確立していない状況にある。

2 モデル裁判例

スカンジナビア航空事件 東京地決平7.4.13 労判675-13

(1)事件のあらまし

外国航空会社であるY社は、業績不振による合理化策の一環として、日本支社の日本人従業員(地上職員・客室乗務員)全員に対し、退職金割増を伴う早期退職募集と年俸制導入、退職金・労働時間制度の変更、契約期間の導入等の契約条件変更を伴う再雇用を提案した。全従業員140名のうち115名は早期退職募集に応じたが、Xら(9名)を含む25名は応募しなかった。Yは、Xらに対して再雇用の場合の職位(ポジション)と年俸を示した上で、再度の早期退職と再雇用への応募を促したが、Xらが応じなかったため、Xらを解雇した。Xらは解雇の無効を主張してYの従業員たる地位の保全等の仮処分を申し立てた。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

Xらに対する解雇の意思表示は、雇用契約で特定された職種等の労働条件を変更するための解約、換言すれば新契約締結の申込をともなった従来の雇用契約の解約であって、いわゆる変更解約告知と呼ばれるものである。変更解約告知が行われた場合、労働者の職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の労働条件の変更が会社の業務運営にとって必要不可欠であり、その必要性が労働条件変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて、労働条件変更を伴う新契約締結の申込がそれに応じない場合の解雇を正当化するに足るやむを得ないものと認められ、かつ、解雇回避努力が十分に尽くされているときは、会社は新契約締結の申込に応じない労働者を解雇することができるものと解するのが相当である。本件においては、賃金、退職金、労働時間の変更にいずれも高度の必要性が認められ、Xらにこれを上回る不利益があったとはいえず、解雇回避努力も十分に尽くされている。よって本件変更解約告知は有効であり、Xらに対する解雇は有効である。

3 解説

(1)変更解約告知とは

モデル裁判例の事案は、会社が事業再建のために全従業員をいったん退職させた上で一部の従業員との間で従前とは大きく異なる労働条件を定めた新たな労働契約を締結することを試み、その過程で退職にも新契約にも応じない労働者を解雇したものである。このように会社が労働条件変更を目的として、現在の労働契約の解約(解雇)と、新契約の申込を行うことを変更解約告知という。

変更解約告知が有効に行われた場合、労働条件変更に同意する労働者は新たな労働条件で労働契約を締結し直すことになり、変更に同意せず従前の労働契約の存続を望む労働者は一旦解雇された上で裁判等においてその効力を争うことになる(この他、労働者の「留保付承諾」(→後述(4)留保付承諾の可否を参照)を認める考え方もある)。

なお、典型的な変更解約告知は、上述のように労働契約の解約(解雇)の意思表示と新しい労働契約締結の申し込みが一体となって行われるものをいうが、労働条件変更の申し入れに応じない労働者に対する解雇の効力についても、変更解約告知の問題として論じられることがある。

(2)日本における変更解約告知の法理

変更解約告知は、個別労働契約によって特定され、労働協約等による集団的変更ができない労働条件を変更するための手段としてヨーロッパ諸国等で発達したものである。これら諸外国の中には、たとえばドイツのように変更解約告知の定義や効力等が法律に規定されている国も存在する。

これに対し日本では、変更解約告知法理を正面から認め、同法理の下での解雇を有効とした平成7年の東京地裁決定(=モデル裁判例)などを契機として、変更解約告知法理のあり方に対する関心が高まりつつある。もっとも、変更解約告知に関する法律上の規定は現在のところ存在せず、同法理のあり方をめぐっては、なお今後の裁判例・学説の展開に委ねられた面が少なくない。

(3)変更解約告知の下での解雇の効力

仮に変更解約告知という法理を認めない場合、変更解約告知として行われた解雇は、単なる解雇として解雇権濫用法理(労契法6条)に基づいてその効力を判断されることになる。この場合、労働条件変更に同意しなかったことそれ自体は、解雇の効力を認める根拠にはならない。

これに対し、モデル裁判例は、変更解約告知法理を正面から認めたうえで、同法理の下で労働条件変更に応じない労働者の解雇が有効とされるための要件として①労働条件変更が会社の業務運営上必要不可欠である、②その必要性が労働条件変更によって労働者が被る不利益を上回っている、③労働条件変更を伴う新労働契約締結の申し込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足るやむを得ないものと認められる、④解雇回避努力が十分に尽くされている、という4点を示した。これは、変更解約告知が労働条件変更のための解雇であることに着目して、労働条件変更の必要性・相当性(上記①②)と、労働条件変更に同意しない労働者を解雇することの相当性(同③④)という2つの観点から解雇の効力を判断するものと理解できる。

他方で、裁判例の中には、法律上に明文がないこと等を理由として変更解約告知法理を否定し、解雇の効力を通常の解雇権濫用法理の枠組みで判断したものも存在する(大阪労働衛生センター第一病院事件 大阪地判平10.8.31 労判751-38)。

(4)留保付承諾の可否

ドイツでは、労働者が変更解約告知に対して労働条件変更の正当性を争うことを留保しつつ労働条件変更の申し入れを承諾(=同意)する「留保付承諾」が法律上認められている。このように、留保付承諾が認められると労働者は解雇の危険にさらされることなく労働条件変更の適法性を争うことが可能になるので、これを認めるかどうかは変更解約告知法理のあり方を大きく左右する。わが国の民法528条によると、留保付承諾=条件付の承諾は承諾拒絶として扱われるので、この条文を素直に適用すると留保付承諾は認められない。しかし、学説上は解釈によって留保付承諾を認める見解も有力である。

裁判例においては、労働条件変更に応じない労働者の雇止めの適法性が争われた事件で、労働者が留保付承諾をしていたことを理由の一つに挙げて雇止めを違法とした地裁判決が存在するが、同事件の控訴審判決ではこの考え方が否定されている(日本ヒルトンホテル(本訴)事件 東京地判平14.3.11 労判825-13、東京高判平14.11.26 労判843-20)。