(63)【服務規律・懲戒制度等】私生活上の非違行為

6.人事

1 ポイント

(1)労働者の私生活上の行為であっても、それが、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような場合には、会社はこれを規制できる。

(2)労働者の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも労働者の行為により具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生があったことまでは要しないが、問題となる行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、その行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価できる場合でなければならない。

2 モデル裁判例

日本鋼管事件 最二小判昭49.3.15 民集28-2-265

(1)事件のあらまし

Yの従業員であったXらは、昭和32年のいわゆる砂川事件に加担し、日米安全保障条約に基づく行政協定に伴う刑事特別法上の罪により逮捕、起訴された。Yは、労働協約および就業規則所定の懲戒解雇事由(「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」)に該当するとして、Xらを懲戒解雇(一名は諭旨解雇)した。

Xらは、当該懲戒処分を不服とし、雇用契約に基づく権利等の確認を求めて提訴した。

(2)判決の内容

労働者側勝訴

営利を目的とする会社がその名誉、信用その他相当の社会的評価を維持することは、会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、会社はこれを規制することができる。

ただし、「従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。」

本件においては、砂川事件が反米的色彩をもつ集団的暴力事犯として国内外に広く報道されたこと等によりYの社会的評価に一定の影響のあったことが認められるが、Xらの行為は破廉恥な動機目的によるものではなく、Xらに対する刑も罰金2,000円という軽微なものに留まりその不名誉性はさほど強度ではなかったこと、Yは約3万名を雇用する大企業であり、Xらはその工員にすぎなかったといえる。以上からすれば、Xらの行為は、会社の体面を著しく汚したものとして、懲戒解雇又は諭旨解雇の事由とするには不十分である。

Xらに対する解雇を無効とした原審の判断は相当であり、原判決に所論の違法はない。

3 解説

(1)私生活上の行為に対する懲戒処分

労働者の私生活上の行為といえども、その行為の性質や態様が、会社の信用や名誉、社会的地位に悪影響を及ぼす可能性がある場合には、使用者は、就業規則等に基づき、当該行為に対し懲戒処分を行うことができる。ただし、これまでの裁判例では、労働者の私生活上の自由は尊重されるべきものであるから、使用者は、その私生活全般を統制することはできないとされ、労働者の私生活上の行為を懲戒処分の対象とし得るのは、当該行為が、会社の事業活動や社会的評価に相当な悪影響を与えるおそれがあると客観的に評価できる場合のみと解されている。

モデル裁判例も、就業規則の懲戒事由である「会社の体面を著しく汚したとき」に該当する場合とは、労働者の問題行為が具体的な不利益を引き起こしたことまでは要しないが、当該事実関係の経緯と会社を取り巻く状況、労働者の職務上の地位などに照らして、会社に与える影響が相当に重大であると客観的に評価できる場合に限られるとし、労働者の私生活上の言動に対する懲戒権行使の範囲を厳しく制約している。以下、私生活上の行為の類型別に、裁判例の状況を整理する。

(2)政治活動等への参加

国鉄中国支社事件(最一小判昭49.2.28 民集28-1-66)では、国鉄職員が日教組の活動に参加している際に、警察官の公務執行を妨害し、公務執行妨害罪で懲役6月(執行猶予2年)の有罪判決を受け免職処分を受けた。裁判所は、当該行為は国鉄職員の所為として相当ではなく、これにより国鉄の社会的評価の低下毀損のおそれが客観的に認められるとし、本件所為が公務執行妨害罪にあたる重大な犯罪行為であることからしても、処分は相当であり裁量権の逸脱はないとして、免職処分を有効と判断している。このほかに、国鉄職員の公務執行妨害罪等の有罪確定に対する懲戒免職処分を有効とした例として、国鉄小郡駅事件(最二小判昭56.12.18 判時1045-129)がある。

(3)法令違反行為

労働者の就業時間外の犯罪行為に対する懲戒処分についてみると、小田急電鉄事件(東京高判平15.12.11 労判867-5)において、私鉄会社の従業員が、勤務時間外に別会社の電車内で痴漢行為を複数回行い逮捕され罰金刑を受けたことを理由として懲戒解雇となった。裁判所は、当該行為は、私鉄会社の従業員として倫理規範に反すると解され、当該行為が公になったか否かは処分の有効性に影響しないとし、懲戒解雇を有効とした。他方で、横浜ゴム事件(最三小判昭45.7.28 民集24-7-1220)では、タイヤ製造販売会社の従業員が、深夜に酩酊状態で他人の住居に侵入し罰金刑を受け懲戒解雇されたことが問題となったが、裁判所は、問題行為の性質や態様、労働者の職務上の地位等からすると、本件行為は「会社の体面を著しく汚した」という懲戒事由に該当するとはいえないとして、懲戒解雇を無効と判断した。

公務員の飲酒運転を理由とする懲戒免職の有効性については、事故に至る経緯や酩酊状態の程度、事故当時の状況やその後の態度(謝罪の有無や反省の度合い)等を総合的に考慮して、その有効性が検討されている。近時では、S市事件(大阪高判平22.7.7 労経速2081-28)、高知県事件(高松高判平23.5.10 労判1029-5)において懲戒免職が有効とされたが、他方で、加西市事件(大阪高判平21.4.24労判983-88)、姫路市事件(神戸地判平25.1.29 労判1070-58)では、懲戒免職が無効と判断された。

(4)勤務時間外のビラ配布

勤務外に行われたビラ配布等の行為については、その行為によって会社の企業秩序が乱れるおそれがある、または、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあると客観的に評価できる場合に限って、当該行為に対する懲戒処分が有効と判断されている(ビラ配布行為に対する譴責処分が有効と判断された例として、関西電力事件 最一小判昭58.9.8 労判415-29、中国電力事件 最三小判平4.3.3 労判609-10)。

(5)恋愛問題

労働者の恋愛関係や恋愛の情をめぐるトラブルについては、それが社会通念上不適切と評価されるものであったとしても、当然に懲戒処分の対象となるものではない。ただし、企業の社会的評価や、労働者の担当する職務の性質や社会的地位等との関係において、当該行為が具体的な悪影響を及ぼした場合には、当該行為を理由とする懲戒処分も有効と判断されることが多い。過去をみると、女子短大の講師であった労働者が婚外子を妊娠・出産したこと等を理由としてなされた解雇が有効と判断された例や(大阪女学院事件 大阪地判昭56.2.13 労判362-46)、中学校と高校で体育を担当していた教員(妻子あり)が生徒の母親と情交関係をもったことに対してなされた懲戒解雇が「教員としての品位を失い、学院の名誉を損ずる非行があった場合」に該当するとして有効と判断された例がみられる(学校法人白頭学院事件 大阪地判平9.8.29 労判725-40)。他方、妻子ある同僚と恋愛関係になった女子従業員に対する懲戒解雇の効力が争われた事件では、労働者の恋愛関係が懲戒理由に該当するというためには、当該行為が非社会的であるだけでは足りず、企業運営等に具体的な影響を与えるものでなければならないとして懲戒解雇が無効とされており(繁機工設備事件 旭川地判平元.12.27 労判554-17)、また、飛行機会社の職員(機長)が、恋愛関係にあった元客室乗務員に対して頸部捻挫等の傷害を加えて刑事訴追されたため、無給の休職処分を受けた事件では、職員が引き続き就労したとしても、会社の対外的信用の失墜や職場秩序維持に障害が生じるようなおそれはないとして、休職処分が無効と判断されている(全日本空輸事件 東京地判平11.2.15 労判760-46)。