(62)【服務規律・懲戒制度等】所持品検査

6.人事

1 ポイント

(1)所持品検査は、労働者の基本的人権を損なうおそれがあるから、それが就業規則に基づいて行われているからといって当然に適法となるものではない。

(2)所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、就業規則等に根拠を有する制度として、職場従業員に対して画一的に実施されなければならない。

(3)所持品検査が、就業規則等に基づいて行なわれるときは、その方法や程度が妥当を欠く等特段の事情がないかぎり、労働者は、検査を受忍すべき義務がある。

2 モデル裁判例

西日本鉄道事件 最二小判昭43.8.2 民集22-8-1603

(1)事件のあらまし

Xは、大手私鉄会社Yに勤務する電車運転士である。Yでは、乗務員による乗車賃の不正隠匿を摘発、防止する目的をもって就業規則に「社員が業務の正常な秩序維持のためその所持品の検査を求められたときは、これを拒んではならない。」との規定を設けていた。

Xは、乗車勤務終了後に上司から所持品検査を受けるように指示されたが、「靴は所持品ではない、本人の承諾なしに靴の検査はできないはずだ。」といって、帽子とポケット内の携行品を差し出しただけで、靴を脱ぐことは拒否した。

Yが、Xの脱靴の拒否が就業規則所定の懲戒解雇事由「職務上の指示に不当に反抗し……職場の秩序をみだしたとき」に該当するとして、Xを懲戒解雇したため、Xは、当該懲戒解雇処分の無効確認等を求めて提訴した。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

所持品検査は、その性質上常に労働者の人権を損なうおそれを伴うものであるから、たとえ、それが企業の経営・維持にとつて必要かつ効果的な措置であり、他の企業においても実施されているといえども、また、それが就業規則に基づき行われ、検査について過半数組合または職場の労働者の過半数の同意を得ている場合といえども、当然に適法とはならない。所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場の従業員に対して画一的に実施される必要がある。

ただし、所持品検査が、就業規則等の明示の根拠に基づいて行なわれるときは、他にそれに代わるべき措置をとりうる余地が絶無でないとしても、従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等、特段の事情がないかぎり、検査を受忍すべき義務がある。

Yの就業規則所定の所持品検査には、脱靴検査も含まれると解される。Xに行われた検査については、その方法や程度が妥当を欠いたとすべき事情はなく、Xがこれを拒否したことは、就業規則所定の義務に違反する。

原審において確定したYの懲戒解雇処分にいたるまでの経緯、情状等の事実経緯に照らすと、Xの脱靴の拒否が就業規則の懲戒解雇事由に該当するとした原審の判断に違法はなく、本件懲戒解雇は有効である。

3 解説

(1)所持品検査拒否に対する懲戒処分

モデル裁判例は、使用者による所持品検査の適法性について、つぎの四つの要件、①合理的な理由に基づき、②一般的に妥当な方法と程度で、③就業規則などの明確な根拠の下に制度として、④職場の従業員に対して画一的に実施される、を提示し、所持品検査がこれらの要件を充たして行われる場合には、労働者は他に目的を達する措置がありうる場合であっても、特段の事情がないかぎり、検査を受忍すべき義務があるとした。

もっとも、所持品検査は、労働者の尊厳などの人格的利益を侵害するおそれがあるため、これを拒否した労働者に対する懲戒処分については、検査拒否に至った経緯、業務命令違反の態様、その後の態度等を総合的考慮して、その相当性が厳格に審査されている。以下、裁判例の状況を紹介する。

(2)裁判例の状況

東陶機器事件(福岡地小倉支判昭46.2.12 判タ264-325)は、工場の出入口で行われた携行品検査において、従業員が、守衛から手提げ袋をあけて中身をみせるように求められたが、これを拒否し、懲戒解雇された。なお、本件の検査は、守衛が上長の指示を受けて就業規則に基づいて行ったもので、その方法は、工場の出入口付近に机を置き、疑問と思われるものを所持する従業員に対して「それは何ですか」と尋ねて、机の上に置いてもらってつまんだりかかえたりして確かめ、納得ができないときは「中を開けて見せて下さい」と頼んで点検をするものであった。裁判所は、今回の検査では、身体検査に類するようなことはなされておらず、従業員に不当に羞恥心、屈辱感を与えるものではなかったから、当該検査は適法であると判断した。しかし、懲戒解雇については、検査を拒否した労働者は、当時、携行品検査の重要性とそれを受けることが義務であることを理解しておらず、格別の理由もなく衝動的に検査を拒否して走り去ったと解するのが自然であるから、就業規則所定の「企業秩序をみだしたとき」に該当するとはいえないとし、懲戒解雇を無効と結論づけた。

芸陽バス事件(広島地判昭47.4.18 判時674-104)では、使用者が、バス乗務員の通勤用の自家用車の車内の私物を検査できるかどうかが問題となった。裁判所は、バス料金の不正取得の防止を目的として私物調査を行う場合には、その対象は、乗務と密接に関連するもの、すなわち、着衣や、乗務に際し会社から命ぜられて業務上携帯した物品、乗務に際し特に携帯した私物に限られるとし、乗務員の自家用車内は、原則的には検査の対象とならないとし、自家用車の検査は、乗務員が車内に金品を隠すような仕草を見せた場合などの特段の事情のある場合にのみ許されるものであるとした。そのうえで、本件では、特段の事情は認められないから、乗務員が車内検査を拒んだことは、正当な理由なく上長の指示命令に従わず職場の秩序をみだすという懲戒事由に該当するとまではいえないとして、解雇を無効としている。

神戸製鋼所事件(大阪高判昭50.3.12 判時781-107)では、新聞を数部小脇に抱えて入門しようとした労働者を私物検査のために足止めし、当該検査によって就労が遅れた部分を賃金カットしたことが問題となった。裁判所は、職場内における秩序維持、規律の確立、盗難予防等を目的として定められた就業規則の私物検査の規定は、法令や協約に反しない限り法規範性を有するが、当該検査は、その方法が、口頭による質問、任意の提示を求める行為に留まるとしても、それを為し得るのは、持込の許されない物品を所持していることを疑うに足りる相当な事由がある場合に限られると解するべきであり、単なる見込みだけで検査を行うことは、思想信条の調査にもつながり、人の自由を制限するおそれのあるものとして許すべきではないとした。そのうえで、本件では、持ちこんだ私物は外観からみて規定内に納まっていると解される量であり、従業員がこれを拒んだことに相当な理由が認められると判断し、許されない検査によって発生した不就労分の賃金の請求権を認めた。

帝国通信工業事件(横浜地川崎支判昭50.3.3 労民集26-2-107)では、退出のタイムカード打刻の際に一斉に行われた所持品検査を拒否したことを理由としてなされた懲戒解雇の有効性が問題となった。裁判所は、所持品検査を行うに当たっては、人権侵害を避けるべく、できるだけ従業員に協力を求め、従業員が進んで所持品を開いて検査に応ずるような雰囲気を作り出すなどの工夫をすることによって、適切な運用を図るべきであると説示し、本件の検査では、従業員が守衛に検査の目的を訪ねたが、これに対する明確な説明がなく、その態度も硬直過ぎるもので、検査の対応は妥当性に欠けるものであったとして、当該検査を拒否した労働者に対する懲戒解雇処分を無効と判断した。

(3)違法な所持品検査に対する損害賠償請求

以上の例は、所持品検査を拒否した者に対する懲戒処分の有効性が問題となったものであるが、これとは別に、不当な所持品検査の実施によって精神的苦痛を受けたとして慰謝料請求がなされることもある。たとえば、サンデン交通事件(山口地下関支判昭54.10.8 労判330-99)では、従業員に対して、何らの不審な点もないのにその着衣の上から検査者が手で触わったり、被検査者自身に全てのポケットの中袋を裏返しさせたりしたことに対して、そのような確認行為は、被検査者に対する不信感をあらわにするものであり、従業員に屈辱感や侮辱感を招致するものであるから、所持品検査の態様としては、著しくその方法・程度を逸脱したものと認めざるを得ないとして、慰謝料30万円の支払いが認められている(他に、所持品検査の実施によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料が認められた例として、日立物流事件 浦和地判平3.11.22 労判624-78、コスモアークコーポレーション事件 大阪地判平25.6.6 労判1082-81がある)。