(60)【服務規律・懲戒制度等】内部告発

6.人事

1 ポイント

(1)内部告発は、その内容が不当である場合には、組織体等の名誉、信用等に大きな打撃を与える危険性があるが、これが真実を含む場合には、そうした組織体等の運営方法等の改善の契機ともなりうるし、また、内部告発を行う者の人格権ないしは人格的利益や表現の自由等との調整も必要となる。

(2)内部告発者に対する懲戒処分の有効性判断では、告発内容の真実性、告発目的の公益性、組織体との関係における告発内容の重要性、内部告発の手段・方法の相当性等が総合的に考慮される。

(3)(2)の検討によって内部告発が正当と認められる場合には、当該内部告発により、仮に組織体の名誉、信用等を毀損されたとしても、使用者はこれを理由として労働者を懲戒解雇することはできない。

2 モデル裁判例

大阪いずみ市民生協事件 大阪地堺支判平15.6.18 労判855-22

(1)事件のあらまし

Xら3名は、生協Aの職員である。Xらは、Aの役員で実質上の責任者であるYら(生協理事)が生協Aを私物化している等を内容とした匿名文書を、生協総代会(生協組合員の代表が参加する会)の直前に、生協の関係者に送付した。Yらは、Xらに内部告発への関与の有無について事情聴取し、その後、就業規則に基づき、Xらに出勤停止及び自宅待機を命じ、その後、Xらのうち2名を懲戒解雇した(自宅待機中であったXらのうちの1名は、その後職場復帰した。)懲戒解雇処分を受けたXら2名は、当該解雇が内部告発に対する報復であるとし、裁判所に地位保全等を認める仮処分を求め、当該訴えは認められた。A生協は、本件仮処分決定後、Xらに対する懲戒解雇を撤回し、両名を職場復帰させた。

Xらは、その後、当該懲戒処分は、内部告発を理由とする報復および名誉侵害であるため無効であるとし、Yらに対し、不法行為に基づく損害賠償を求めて提訴した。

(2)判決の内容

労働者側勝訴

内部告発は、これが虚偽事実により占められているなど、その内容が不当である場合には、内部告発の対象となった組織体等の名誉、信用等に大きな打撃を与える危険性があるが、一方で、これが真実を含む場合には、そうした組織体等の運営方法等の改善の契機ともなりうる。また、内部告発を行う者の人格権ないしは人格的利益や表現の自由等との調整も必要である。それゆえ、内部告発の内容の根幹的部分が真実ないしは内部告発者において真実と信じるについて相当な理由があるか、内部告発の目的が公益性を有するか、内部告発の内容自体の当該組織体等にとっての重要性、内部告発の手段・方法の相当性等を総合的に考慮して、当該内部告発が正当と認められた場合には、当該組織体等としては、内部告発者に対し、当該内部告発により、仮に名誉、信用等を毀損されたとしても、これを理由として懲戒解雇をすることは許されないものと解する。

本件については、当該告発の内容は、Aの実力者の不正を明らかにするものでありAによって重要なものであり、また、内容の根幹的部分は少なくともXらにおいて真実と信じるにつき相当な理由がみとめられ、告発の目的にも高い公益性が認められる。告発の方法も正当であり、内容は全体として不相当とは言えない。手段には相当性を欠く点がみられるが全体としてそれ程著しいものではない。内部告発以後、Aは、告発内容に関連する事項等につき改善がなされており、Aにおいて告発は極めて有益なものであったと解される。これらを総合考慮すると、本件内部告発は、正当なものと認められる。

したがって、Xらに対する懲戒解雇は無効であり、当該処分を主導したY1Y2には、Xらに対する損害賠償責任が認められる。また、Xらの行為を不当に非難したY2の発言は名誉棄損であり、これによる損害についても賠償する責任がある。

3 解説

(1)内部告発者の保護

企業に雇用される労働者が、所属組織の不正・違法行為を正すために、不正の事実を関係者に告発する行為、いわゆる「内部告発」は、企業の法令順守(コンプライアンス)に資するものとして社会的に認知されている。しかし、内部告発が、企業組織において機密とされる情報を企業外の第三者に提供する形などで行われる場合には、当該内部告発は、労働者が契約上負っている誠実義務に反する行為となりうる。また同時に、そのような内部告発は、就業規則の機密保持の規定や企業の名誉・信用を毀損しない旨を定める規定に抵触する可能性を有している。そのため、内部告発に対する懲戒処分や解雇などの不利益措置を法的にいかに評価すべきか、換言すれば、内部告発の社会的意義に照らして告発者をいかに保護すべきかが、裁判で重要な問題となってきた。

この点について判例法理をみると、裁判所は、内部告発の社会的意義に鑑みて、次の3つの点、①告発内容が真実であり、または、真実であると信じるに相当な理由があるか(告発内容の真実性)、②告発の目的に法違反や不正行為の是正などの公益性が認められるか(告発目的の公益性)、③告発の手段・態様が相当なものであるか(告発態様の相当性)、を総合的に考慮し、内部告発行為を法的に保護すべきか否かを決定している。以下、内部告発者に対する不利益措置が問題となった裁判例を紹介する。

(2)内部告発者に対する不利益措置

中国電力事件(最三小判平4.3.3 労判609-10)では、労働者が、就業時間外に職場外で、原発の安全性や必要性、経済性等に関する私見を含んだビラを配布し、休職や減給など懲戒処分を受けた事件である。裁判所は、就業時間外のビラ配布であっても、その内容が事実を誇張、わい曲したものであり、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがある場合には、これを懲戒処分の対象にできるとし、本件のビラの内容は、事実に反するものであって、近隣住民に原発への誤解や恐怖心を抱かせ、事業運営に重大な支障を生じさせたとして、懲戒処分を有効と判断した。一方、財団法人骨髄移植推進財団事件(東京地判平21.6.12 労判991-64)では、総務部長が、財団の常任理事兼事務局長のハラスメント行為と思料される事実を理事長に報告した後に、降格処分となり、最終的には、懲戒処分としての解雇に処せられた。裁判所は、労働者の報告書の内容は基本的に事実であり、財団は、これを真摯に取り上げて内部調査等を実施した上で適切な指導や処分を講ずるべきあったのに、これを為さずに労働者を解雇したのであって、一連の対応には過失があり不法行為を構成すると判断している。

なお、懲戒処分の例ではないが、トナミ運輸事件(富山地判平17.2.23 労判891-12)では、労働者が、勤務先の闇カルテルに関する事実を新聞社に内部告発したため、会社が当該労働者を、長期間にわたり昇格させない等して不利益に取り扱った。裁判所は、一連の不利益取扱いは、内部告発に対する報復として行われたものであり、正当な内部告発によっては人事権の行使において不利益に取り扱わないという信義則上の義務に違反しているとして、不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償責任を認めた。また、オリンパス事件(最一小決平24.6.28 判例集未登載)では、取引先企業からの従業員の引き抜き行為が企業倫理上の問題があるとして、社内のコンプライアンス室に内部通報した労働者に対してなされた配転命令の違法性が問題となった。控訴審判決では、当該配転命令は、業務上の必要性とは無関係に、個人的な感情に基づき、いわば制裁的に行われたものと推認できるとして不法行為に該当すると判断され、最高裁もこの判断を支持している。

(3)公益通報者保護法

2004年に制定された公益通報者保護法では、公益通報をしたことを理由とする公益通報者(労働者)の解雇、降格、減給その他不利益な取扱いをすることを使用者(事業主)に禁止している(3条、5条)。同法にいう公益通報行為とは、①会社で同法所定の犯罪事実が発生し、又は発生しようとしていることを、②労働者が不正の目的ではなく通報することである(2条)。同法では、公益通報先として次の3つ、A)会社内部、B)所轄行政機関、C)それ以外の者(マスコミ等)が挙げられており、A)B)C)それぞれに異なる保護要件が設けられている(3条1~3号)。具体的には、労働者がA)に通報する場合は、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合の通報が保護対象となり、B)に通報する場合は、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信じるに足りる相当な理由がある場合を充たす必要があり、C)に通報する場合には、B)の要件を充たすとともに、次の四つの要件、①A)B)に通報すれば解雇その他の不利益取扱いをなされる恐れがあること、②労務提供先から公益通報をしないことを正当な理由なく要求されたこと、③内部通報後20日を経過しても事実に関する調査を行う旨の通知がないか、又は正当な理由なく調査が行われない場合、④個人の生命・身体に危害が発生し、又は発生する急迫の危険があると真実に足りる相当な理由がある場合、のいずれかを充たす必要がある。