(59)【服務規律・懲戒制度等】職務怠慢・私用メール、情報機密の漏洩

6.人事

1 ポイント

(1)無断遅刻・欠勤、勤務成績不良などの職務怠慢は、それ自体では単なる債務不履行であるが、それが就業に関する規律に違反したり、企業秩序を乱したと認められる場合には、懲戒処分の対象となりうる。

(2)勤務時間中に行われる私用メールは、その程度・態様によっては職務怠慢と評価でき、また企業秩序を乱すものとして懲戒処分の対象となりうる。

(3)労働契約上、労働者は使用者の業務上の秘密を保持すべき義務を負っており、労働者がこの義務に違反した場合には、懲戒処分の対象となり得るほか、債務不履行等に基づく損害賠償請求や差止請求もなされ得る。

2 モデル裁判例

東京プレス工業事件 横浜地判昭57.2.25 判タ477-167

(1)事件のあらまし

労働者Xは、6ヶ月間に合計24回(1回平均2.7時間)に及ぶ無届けの遅刻をし、さらに同期間に事前の届けなしに合計14日間の欠勤をした。Y社は、この間に、上司を通して再三Xに注意をするとともに、反省を促し将来を戒めるため始末書を提出させる譴責処分を行った。しかし、その後もXの勤務態度は改まらず、無断遅刻・欠勤を繰り返した。この間も、上司から再三注意を促したが一向に態度は改まらなかった。そこで、Y社はXの就労の意思の有無の確認をしたところ、反省の意を表明したので、訓戒処分にとどめた。しかし、訓戒処分を受けた翌月に再び無届欠勤1日、遅刻4回があり、改善の跡が見られないため、Y社は就業規則及び労働協約に基づき、Xを懲戒解雇した。これに対し、Xが地位保全等の仮処分を求めて提訴した。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

事前の届出のない遅刻、欠勤は、Y社の業務、職場秩序に混乱を生じさせるものであることが明らかであるから、Xには就業規則及び労働協約に定める懲戒解雇事由があったものと一応認められる。

Xは遅刻、欠勤について胃病や自動車の故障という正当な理由の存在を主張しているが、たとえそのような事由が存在したとしても、事前の届出のない遅刻、欠勤はそれ自体が正当な理由のない遅刻、欠勤に該当する。

Xは入社当初からの勤怠も不良で、上司の度重なる注意訓戒にもかかわらず、何ら改善するところがなく、将来の節度ある勤務態度を期待して始末書を提出させたが、その後も無断遅刻・欠勤を重ねたことなど、Y社がXを懲戒解雇するに至った事情を考慮すれば、本件懲戒解雇は相当である。

3 解説

(1)職務怠慢の具体的態様

職務怠慢の例としては、モデル裁判例のような無断遅刻・欠勤のほか、勤務成績不良、遅刻過多、職場離脱などがある。このタイプに属する裁判例としては、たとえば、所定の得意先訪問ルート指示に従わないことを上司から再三にわたり注意、叱責されていたことや、勤務時間中に喫茶店に立ち寄り、長時間勤務放棄をしたこと等を理由としてなされた、外商員に対する懲戒解雇を有効とした大正製薬事件(東京地判昭54.3.27 労判318-44)、編集業務から福利厚生部への異動後の業務過誤、無断欠席、業務命令違反等に対してなされた各種懲戒処分並びにその後の約2ヶ月に及ぶ長期欠勤とその間に再三なされた職務復帰命令に従わなかったこと等を理由とする懲戒解雇を有効とした日経ビーピー事件(東京地判平14.4.22 労判830-52)等がある。

また、管理職にある労働者については、部下の不祥事などに関する管理・監督不行届も職務怠慢として問題となりうる。たとえば、部下の報告が虚偽であることを知りながら黙認し、事実の報告を遅らすことにより多額の未回収金を発生させるに至ったことを理由として貸付業務全般を統括する常務取締役に対してなされた懲戒解雇を有効とした光和商事事件(大阪地判平3.10.15 労判598-62)、部下の多額の金銭横領行為を重大な過失によって見過ごしたことによって、被害額を著しく増大させたこと等を理由としてなされた営業所長に対する懲戒解雇を有効とした関西フエルトファブリック事件(大阪地判平10.3.23 労判736-39)、部下にあたる医師への監督不備、患者に対する説明不足や侮蔑的言動等を理由としてなされた内科部長に対する部長解任と医員への降格処分について、部長解任処分は有効としつつ、医員への降格については処分が重きに失するとして無効とした東京医療生協中野総合病院事件(東京地判平16.9.3 労判886-63)等がある。

(2)精神疾患の疑いのある従業員の長期欠勤への対応

日本ヒューレット・パッカード事件(最二小判平24.4.27 労判1055-5)は、被害妄想など何らかの精神的不調によって、職場において嫌がらせを受けているとの認識を持つようになった従業員が、自己の主張に対する会社の対応に問題があり、休職も認められなかったことから、問題が解決されるまで会社には出勤しない旨を伝え欠勤を続けたことに対し、会社から正当な理由のない無断欠勤であるとして諭旨退職処分とされたことを争ったものであるが、最高裁は、そのような精神的不調のために欠勤を続けていると認められる従業員に対しては、精神科医による健康診断を実施するなどして、その結果に応じて休職等を検討し、その後の経過を見るなどの対応をとるべきであって、そのような対応なしになされた諭旨退職処分を無効と判断した。

(3)私用メール

職場規律の維持や公私混同の回避のため、会社の物品を私用で使うことが就業規則等によって禁止されていることがあり、この違反に対し懲戒処分がなされることがある。近年では特に、会社のパソコンを利用した私的なメールの送受信が問題となっている。

日経クイック情報事件(東京地判平14.2.26 労判825-50)は、私用メールについて、送信者はメールの文章を考え作成し送信する間、職務専念義務に違反し、かつ私用で会社の施設を使用するという企業秩序違反行為を行うことになること、また、受信者に私用メールを読ませることにより受信者の就労を阻害することになるとし、このような行為が懲戒処分の対象となりうることを肯定している。

K工業技術専門学校事件(福岡高判平17.9.14 労判903-68)は、業務用パソコンを利用して出会い系サイトに登録したり、大量の私用メールを送受信したりしていたこと等を理由とする懲戒解雇を有効としたが、全国建設工事業国民健康保険組合北海道東支部事件(札幌地判平17.5.26 労判929-66)は、会社のパソコンを利用した私的メールの交信が、会社の物品の私用を禁止した規定に反し、企業秩序を乱すおそれがあることを否定できないとして懲戒事由の存在は肯定したものの、私的メールの交信頻度は多くなく、業務用パソコンの取扱規則の定めがない上に、それまで私的利用に対する注意等もなく、減給処分の内容が労基法91条に違反していること等に鑑みて、懲戒権の濫用とし減給処分を無効とした。

他方で、労働者といえども個人として社会生活を送っている以上、就業時間中に外部と連絡を取ることが一切許されないわけではなく、就業規則等に特段の定めのない限り、職務遂行の支障とならず、使用者に過度の経済的負担を掛けないなど社会通念上相当と認められる程度で会社のパソコンを利用して私用メールを送受信しても、職務専念義務に違反するものとはいえないと判示し、1日2通程度の私用メールは、社会通念上相当な範囲にとどまるとして職務専念義務違反とはいえないとしたグレイワールドワイド事件(東京地判平15.9.22 労判870-83)がある。

(4)情報機密の漏洩

多くの企業では、就業規則等で企業秘密の保持を労働者に義務づけ、この秘密保持義務に違反したときに懲戒処分をすることができる旨を規定しており、当該規定に基づきなされた懲戒処分の有効性が争われることがある。古河鉱業事件(東京高判昭55.2.18 労民集31-1-49)は、会社の業務上重要な秘密が守られることは企業秩序維持のために必要なことであり、これに違反した者を懲戒解雇とする定めも是認できるとした上で、会社が機密漏洩防止に特段の配慮を行っていた長期経営計画の基本方針である計画基本案を謄写版刷りで複製・配布した労働者に対する懲戒解雇を有効と判断した。日本リーバ事件(東京地判平14.12.20 労判845-44)では、労働者が収集した情報の機密性の高さとともに、そのような重要な情報を取得した状態で競業他社に就職しようとしていたこと等から高い背信性が認められるとして懲戒解雇が有効と判断されている。

他方で、職場内でいじめや差別等を受けているとして弁護士に相談した労働者が、その相談に当たって必要とされる会社の顧客情報や人事情報等を記した書類を担当弁護士に手渡したことを理由に懲戒解雇されたメリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件(東京地判平15.9.17 労判858-57)において、裁判所は、その労働者が秘密保持義務を負っていること、交付した書類の機密性を認めたものの、同人の権利救済のために必要な書類を担当弁護士に交付したこと、弁護士は職務上知り得た秘密を保持する義務を負っていることから、企業秘密に関する情報が含まれている場合であっても、会社の許可を得ずに弁護士に開示することは許されると判断し、同人の行為は懲戒解雇事由に該当しないか、形式的に該当するとしても軽微なものであるとして、懲戒解雇を無効と判断した。

なお、秘密保持義務について明示の約定がある場合、すなわち、就業規則等の具体的な規定や個別的な特約によって一定の秘密の保持が約定されていると認められる場合には、その約定が必要性や合理性の点で公序良俗違反とされない限りで、その履行請求(秘密を漏洩する可能性のある競業他社への就職の差止請求等、フォセコ・ジャパン・リミテッド事件 奈良地判昭45.10.23 判時624-78等)や、債務不履行(秘密保持義務違反)による損害賠償請求(前掲日本リーバ反訴事件ダイオーズサービシーズ事件 東京地判平14.8.30 労判838-32等)が可能となる。