(58)【服務規律・懲戒制度等】兼業・二重就職

6.人事

1 ポイント

(1)労働者は、労働契約によって定められた労働時間にのみ労務に服するのが原則であり、就業時間外は本来労働者の自由な時間であることから、就業規則で兼業・二重就職を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、許されない。

(2)労働者の兼業・二重就職は、その程度や態様によっては、会社に対する労務提供に支障が生じることや、会社の対外的信用や体面を傷つける場合がありうるので、労働者の兼業について会社の承諾を必要とする就業規則の規定を設けることは不当ではない。

(3)就業規則において兼業・二重就職を許可制としている場合、無許可の兼業それ自体が企業秩序を阻害する行為として懲戒事由となりうるが、基本的には、労務提供や事業運営、または会社の信用・評価に実質的に支障が生じるおそれのある場合に限り、懲戒の対象となる。

2 モデル裁判例

小川建設事件 東京地決昭57.11.19 労判397-30

(1)事件のあらまし

労働者Xは、午前8時45分から午後5時15分までY社営業所において勤務し、午後6時から午前0時までキャバレーで勤務するということを約11ヶ月間にわたり行っていた。

Y社の就業規則には、会社の承認を得ないで在籍のまま他社に雇われたときに懲戒する旨規定されていた。Y社はXのキャバレー勤務について、同条項に基づき懲戒解雇にすべきところを通常解雇にとどめるとして、Xを通常解雇する意思表示をしたのに対し、Xは地位保全の仮処分を申し立てた。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

法律で兼業が禁止されている公務員と異なり、私企業の労働者は一般的には兼業は禁止されておらず、その制限禁止は就業規則等の具体的定めによることになるが、労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由な時間であることから、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。

しかしながら、労働者がその自由な時間を疲労回復のために適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労務提供のための基礎的条件をなすものであるから、使用者としても労働者の自由な時間の利用について関心を持たざるをえず、また、兼業の内容によっては企業の経営秩序を害したり、企業の対外的信用・体面が傷つけられる場合もありうるので、従業員の兼業の許否について、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえでの会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とは言い難い。

Y社の就業規則は、従業員が二重就職をすることについて、兼業内容が会社に対する本来の労務提供に支障を与えるものではないか等の判断を会社に委ねる趣旨を含むものであるから、無断で二重就職すること自体が企業秩序を阻害する行為であり、雇用契約上の信用関係を破壊する行為であると認められる。

また、Xの兼業内容は、就業時間とは重複していないものの、深夜に及ぶものであって単なる余暇利用のアルバイトの域を越えるものであり、社会通念上、Y社への労務の誠実な提供に何らかの支障を来す蓋然性が高く、事前にY社に申告があったとしても当然に承諾が得られるとはいえず、Xの無断二重就職行為を不問に付して当然ということはできない。Xの無断二重就職の就業規則違背行為をとらえて懲戒解雇とすべきところを通常解雇にした処置は、企業秩序維持のためにやむをえないものであって妥当性を欠くものとは言い難く、解雇権濫用には当たらず、本件解雇は有効である。

3 解説

(1)兼業・二重就職を許可制とすることの適否

就業規則において、会社の許可なく他人に雇い入れられること、または自ら事業を営むことを禁止し、その違反を懲戒事由とする企業は多い。しかしながら、労働者には私生活の自由があることから、就業時間外に行われる労働者のこのような兼業・二重就職をそもそも使用者が全面的に禁止とすることができるのか、または使用者の許可制の下に置くことができるのか、ひいてはその違反に対して懲戒処分をすることができるか否かが問題となる。

就業時間外に行われる従業員の兼業・二重就職について、モデル裁判例は、労働者の私生活上の自由を尊重し、就業規則で全面的に禁止とする取扱いは、特別な場合を除き、許されないと判断した。しかしながら、就業時間外の兼業・二重就職であっても、会社に対する労務提供に支障が生じることや、会社の対外的信用や体面を傷つける可能性等があることから、就業規則によって使用者の許可制とすることは肯定している(同旨のものとして、マンナ運輸事件 京都地判平24.7.13 労判1058-21)。

(2)懲戒処分の有効性

就業規則によって兼業・二重就職を使用者の許可制の下に置くことに合理性が認められるとしても、その違反(無許可の兼業)に対して直ちに懲戒処分を課すことができるわけではない。裁判例は、就業規則の包括的な兼業・二重就職規制の規定を合理的内容に限定解釈することで労働者の私生活の自由とのバランスをとっている。すなわち、労務提供や事業運営に支障が生じる態様でなされたものや、会社の社会的信用を損なうおそれのあるものなど、実質的に企業秩序を乱す兼業・二重就職に限って、懲戒処分の対象となると解している。

裁判例では、直接経営には関与していないが競業他社の取締役へ就任したこと(橋元運輸事件 名古屋地判昭47.4.28 判時680-88)、会社の要職にありながら同業会社を経営したこと(ナショナルシューズ事件 東京地判平2.3.23 労判559-15、東京メデカルサービス事件 東京地判平3.4.8 労判590-45)、長時間労働による疲労を軽減し、作業効率の向上を図るために残業を廃止し、特別加算金を支給していた期間中に同業他社で数回就労したこと(昭和室内装備事件 福岡地判昭47.10.20 労判164-51)、病気休業中に自営業経営をしたこと(ジャムコ立川工場事件 東京地八王子支判平17.3.16 労判893-65)等を懲戒事由に該当すると判断している。モデル裁判例も無許可兼業自体が懲戒事由に該当すると判断しているものの、実質的に、兼業先での労働時間が長時間であり、かつ深夜に及んでいることで会社に対する労務の提供に支障が生じることを問題視している。

以上に対し、運送会社の運転手が年に1、2回の貨物運送のアルバイトをしたことを理由とする解雇に関して、業務に具体的な支障は生じないとして無効と判断したもの(十和田運輸事件 東京地判平13.6.5 労経速1779-3)や、懲戒事由に該当する兼業でも、会社がそのことを黙認してきたことなどから、懲戒解雇を普通解雇にしたとしても権利濫用になると判断したもの(都タクシー事件 広島地決昭59.12.18 労民集35-6-644)もある。