(57)【服務規律・懲戒制度等】職場規律違反・企業の風紀を乱す行為

6.人事

1 ポイント

(1)就業規則等によって職場内における政治活動、ビラ配布等を一般的に禁止する、または会社の許可制の下に置くことは、企業秩序維持の見地から許される。

(2)就業規則等によって禁止された、又は許可を得ずに行われた政治活動やビラ配布等の行為は、これらの違反行為が実質的に職場内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められない限り、懲戒処分の対象となる。

2 モデル裁判例

明治乳業事件 最三小判昭58.11.1 判時1100-151、労判417-21

(1)事件のあらまし

Y社の就業規則及び労働協約には、会社内で業務外の集合又は掲示、ビラの配布等を行うときは予め会社の許可を受け、所定の場所で行わなければならない旨が規定されていた。

労働者Xは、Y社の許可を得ることなく、また工場長の注意を無視して、昼の休憩時間に、休憩室を兼ねているY社の工場食堂で赤旗号外紙や選挙応援のビラを配布した。なお、このビラ配布の態様は、食事中の従業員に手渡したほか、食卓上に置くという平穏な方法で行われ、そのビラを受け取るかどうか、閲読するか廃棄するかも各従業員に任され、配布時間も数分間であった。

Y社は、Xのビラ配布行為が、就業規則に定める懲戒事由(「会社の諸規程あるいは労働協約に違反したとき」及び「正当な理由なくして上司の命令に従わないとき」)に該当することを理由として、戒告処分とする意思表示を行った。これに対し、Xが戒告処分の無効確認を求めて提訴した。

第1審は、就業規則等に定めるビラ配布等に対する制限は、休憩時間中における会社構内での政治活動によって現実かつ具体的に経営秩序が乱され経営活動に支障を生じる行為に限定されるべきであるから、Xの行為はその程度に至っていないとして処分を無効(労働者側勝訴)とし、第2審(原審)も、Xのビラ配布の態様・目的、ビラの内容から判断すると、Xの行為は企業施設の管理や企業の運営に支障をきたし、企業秩序を乱すおそれはないとして、処分を無効(労働者側勝訴)とした。

(2)判決の内容

労働者側勝訴

Y社の就業規則及び労働協約に定めるビラ配布等の許可制規定は、工場内の秩序の維持を目的としたものであることが明らかであるから、形式的にこれらの規定に違反するようにみえる場合でも、ビラの配布が工場内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、同規定の違反になるとはいえない。

そして、Xのビラ配布の態様、経緯及び目的並びにビラの内容からすれば、工場内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められる場合に当たり、就業規則等の規定に違反するものではないと解するのが相当である。

したがって、Y社がなした戒告処分を無効とした原審の判断は相当である。

3 解説

(1)職場内でのビラ配布と企業秩序

職場内での政治活動やビラ配布等の行為を、就業規則によって一般的に禁止したり、許可制の下に置くことについて、判例は、①職場内での従業員の政治活動は、従業員相互間の政治的対立や抗争を生じさせるおそれがあるなど、企業秩序の維持に支障をきたすおそれが強いことから就業規則によって職場内における政治活動を禁止することも許され、②職場内におけるビラ配布等の行為は、休憩時間中であっても、事業所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、また、他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げるおそれがあるなど、その内容如何によっては企業の運営に支障をきたし、企業秩序を乱すおそれがあるから、これを許可制とすることも合理性があると判断している(電電公社目黒電報電話局事件 最三小判昭52.12.13 民集31-7-974 労判287-26)。

その上で、無許可のビラ配布行為等がこのように定めた就業規則規定違反として懲戒事由に該当するかについては、モデル裁判例で示されているように、実質的に秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、そのような就業規則上の制限・禁止規定に違反するものとはいえず、したがって懲戒処分もすることができないと解されている。

(2)横領、背任等

労務の遂行や職場内でのその他の行動を規律している諸規定の違反が、職場規律違反といわれるものであり、その事例は多岐にわたり、モデル裁判例はその一例にすぎない。

最も明白な職場規律違反の例は、横領、背任、会社の物品の窃盗、損壊、同僚や上司への暴行といった非違行為であり、その裁判例も多数に及んでいる。たとえば、コンピューターデータを無断で抜き取り、メモリを消去したことなどが懲戒事由に該当することを肯定しつつ、懲戒解雇ではなく普通解雇としたことを有効と判断した東栄精機事件(大阪地判平8.9.11 労判710-51)、所定の手続きを経ずに総額約1,500万円の機器を無断で購入し、不正な書類を作成し偽装工作を行う等した労働者に対する懲戒解雇を有効としたバイエル薬品事件(大阪地決平9.7.11 労判723-68)、副支店長時代に取引先から個人的に350万円を借り入れたり、その取引先に渉外業務で知り合った顧客を紹介したりしたことに対する謝礼約620万円を受領したこと等を理由になされた懲戒解雇を有効としたわかしお銀行事件(東京地判平12.10.16 労判798-9)、学園の復旧工事に関して所定の手続きを経ないなど適切な経理処理をしなかったことや、備品等のリース契約について不正な点があったこと等を理由としてなされた懲戒免職を有効とした崇徳学園事件(最三小判平14.1.22 労判823-12)、下請け会社から1,800万円を超えるリベートを受領したこと等を理由とする懲戒解雇を有効としたトヨタ車体事件(名古屋地判平15.9.30 労判871-168)、会社のパソコンから取引先データ等を持ち出し、その後当該行為について窃盗罪で有罪判決を受けた労働者に対する懲戒解雇を有効とした宮坂産業事件(大阪地判平24.11.2 労経速2170-3)等がある。また、りそな銀行事件(東京地判平18.1.31 労判912-5)は、副支店長、融資課長が融資先から十数回にわたってゴルフ等の接待を受けたことを、会社の名誉信用を傷つける行為として就業規則規定の懲戒事由に該当するとしつつも、懲戒解雇及び諭旨解雇処分は重きに失するとして無効と判断している。

(3)企業の風紀を乱す行為

労働者による企業の風紀を乱す行為として問題となるのは、主に従業員の恋愛・情交関係(不倫)に関するものである。

裁判例としては、妻子あるバス運転手が未成年の女子車掌と情交関係を持ち、同女を妊娠させたことに対して、懲戒解雇とすべきところを普通解雇処分とした解雇を有効とした長野電鉄事件(長野地判昭45.3.24 判時600-111)、妻子ある従業員が、教習生と情交関係を持ち、そのことが近隣住民の噂となったことで自動車学校の社会的評価の低下並びに企業秩序の紊乱が生じたと認められるとして、当該従業員の行為は懲戒事由に該当すると認めたものの、社会的相当性の観点から懲戒解雇を無効とした豊橋総合自動車学校事件(名古屋地判昭56.7.10 労判370-42)、妻子ある教師が、生徒の母親と情交関係を繰り返し持ったことに対し、当該行為は単なる私生活上の非行とはいえず、社会生活上の倫理及び教育者に要求される高度の倫理に反し、教育者としての品位を失い、学校の名誉を損ずる非行に該当することに加え、韓国における儒教的な道徳観等を考慮し、懲戒解雇を有効とした学校法人白頭学院事件(大阪地判平9.8.29 労判725-40)等がある。他方で、バス会社の女子従業員が男子従業員と会社外で情交し、妊娠中絶したことは、当該行為が会社外でのものであること、先例処分との比較などをから、譴責等の他の懲戒処分は別として、直ちに懲戒解雇に付しなければならない程の重大な非違行為とは解せられないと判断した石見交通事件(広島高裁松江支判昭48.10.26 判時728-54)等がある。