(55)休職制度と職場復帰

6.人事

1 ポイント

(1)「休職」とは、労働者に就労させることが適切でない場合に、労働契約関係そのものは存続させながら、就労を免除または禁止することをいい、その例として、傷病休職、事故欠勤休職、起訴休職、出向休職、自己都合休職、組合専従休職などがある。

(2)休職制度は、就業規則や労働協約等によって定められ、休職期間の長さ、休職期間中の賃金の取扱いなどは企業によって多種多様である。

(3)休職事由が消滅することで休職は終了することになるが、休職期間が満了した時点で、未だ休職事由が消滅していないときには、解雇または自然退職となる。

(4)傷病休職において、休職事由の消滅を認めるためには、原則として従前の職務を支障なく行うことができる状態に回復したことが必要とされるが、職種や業務内容を限定していない労働者の場合、使用者は、従前業務への就労は無理でも他に従事できる業務があるか否か、実際に配置することが可能であるかなどを考慮することが求められる。

2 モデル裁判例

東海旅客鉄道事件 大阪地判平11.10.4 労判771-25

(1)事件のあらまし

労働者Xは脳内出血で倒れて以降、病気休職に入っていたが、3年間の休職期間満了前に復職の意思表示をしたにもかかわらず、Y社は、Xには構語障害等の後遺症があるため就労可能な業務がないとして休職期間満了をもって退職扱いとした。これに対し、Xは、この退職扱いを就業規則、労働協約等に違反し無効であるとして、従業員としての地位確認並びに未払い賃金等の支払いを求めて提訴した。

(2)判決の内容

労働者側勝訴

労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合、復職の可否を判断するに際しては、休職前の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その社員の配置や異動の実情、難易等を考慮して、配置替え等により現実に配置可能な業務の有無を検討し、そのような業務がある場合には、当該労働者にその業務を指示すべきである。そして、当該労働者が復職後の職務を限定せずに復職の意思表示をしている場合には、使用者から指示される配置可能な業務について労務の提供を申し出ているものというべきである。

Xの休職期間満了当時の身体の状態は、時間はかかるが杖なしでの歩行が可能であり、右手指の動きが悪く細かい作業は困難であるが握力には問題がなく、会話も相手方が十分認識できる程度に回復していた。他方で、Y社は従業員約2万2,800人を要し、事業内容も鉄道事業を中心に不動産売買等の関連事業を含め多岐にわたって展開する大企業である。これらの事実から、Xの就労可能性を検討すると、少なくとも工具室での業務については、Xは就業可能であり、また配置替えすることも可能であったと認められる。

また、身体障害等によって、従前の業務に対する労務提供を十全にはできなくなった場合に、他の業務についても健常者と同じ密度と速度の労務提供を要求することは適切でなく、雇用契約における信義則からすれば、使用者はその企業規模等を勘案し、労働者の能力に応じた職務を分担させる工夫をすべきである。

3 解説

(1)休職の意義と種類

休職とは、労働者に就労させることが適切でない場合に、労働契約関係そのものは存続させながら、就労を免除または禁止することをいう。そのため、解雇猶予措置としての役割を担っている面がある(傷病休職や事故欠勤休職の場合に顕著)。このような休職は、就業規則や労働協約の定めに基づき、使用者が一方的意思表示により発令する場合が多いが、労働者との合意によって実施されることもある。

休職制度は、その内容によっていくつかの類型に分けられる。①業務外の傷病を理由とする「傷病休職」、②傷病以外の私的な事故を理由とする「事故欠勤休職」、③刑事事件に関し起訴された従業員に対して行われる「起訴休職」、④他社への出向期間中に自社での不就労への対応として行われる「出向休職」、⑤留学中や公職への就任によってなされる「自己都合休職」、⑥労働組合の役員に専念する場合の「専従休職」などがある(山川隆一『雇用関係法第4版』110頁参照)。

なお、「懲戒休職」と呼ばれるものがあるが、これは服務規律違反に対する制裁として行われる点で上記の休職制度とは異なっている。

(2)職場復帰の条件

休職していた理由がなくなることで休職は終了し、職場に復帰することになるが、休職期間満了時点において当該休職事由が依然として存続している場合、解雇又は自然退職として取り扱われる。休職事由が消滅したかどうかの判断に関しては、特に傷病休職における労働者の治癒をめぐって争いが生じる。すなわち、休職していた労働者は、どのような状態にまで回復すれば、解雇又は自然退職とされずに復職可能と判断されるのかが問題となる。

この点について、裁判例は、復職の要件とされる「治癒」とは、「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したときをいう」(平仙レース事件 浦和地判昭40.12.16 判時438-56)と解し、従前の職務を遂行することが可能な程度に回復していない場合には、復職可能状態にあるとは認められず、労働者が就労可能な範囲で労務を提供することを希望したとしても、使用者にはこれを受領する義務はなく、また、そのような労務提供を受領するためにそれに見合う業務を見つけなければならない義務もないと判断している(アロマ・カラー事件 東京地決昭54.3.27 労経速1010-25)。

しかしその一方で、当初は軽易業務に就かせることで徐々に通常業務に移行できるという回復状態にある場合には、使用者は、労働者の復帰にあたってそのような労働者の状態への配慮を行うことを義務づけられることもあるとされていた(エール・フランス事件 東京地判昭59.1.27 労判423-23)。その後、債務の本旨に従った履行の提供があるか否かにつき判断した片山組事件最高裁判決(最一小判平10.4.9 労判736-15)の考え方が、復職の要件とされる「治癒」の意義についても応用されている。すなわち、モデル裁判例のように、休職期間満了時において原職に復帰できる状態にはないが、従前業務より軽易な業務での職場復帰を希望し、当該労働者に労働契約上職種の限定がない場合には、企業規模などを考慮しつつも、使用者は現実に配置可能な業務の有無を検討する義務を負うと判断されている。そして、休職期間が満了した労働者に対して、そのような検討によって軽減業務を提供せずに、退職扱いや解雇を行った場合には、当該退職扱い等は就業規則上の要件不該当ないし解雇権濫用として無効とされている(キャノンソフト情報システム事件 大阪地判平20.1.25 労判960-49等)。ただし、休職前に既に業務を軽減されていた労働者の休職期間満了を理由とする解雇について、同じ判断枠組みに依りながら、復職にあたって検討すべき従前の業務とは、休職前に実際に担当していた軽減された業務ではなく、本来通常行うべき業務を基準とすべきとして解雇を容認したものもある(独立行政法人N事件 東京地判平16.3.26 労判876-56)。

また、職種が限定されている場合においても、休職期間満了時に直ちに従前業務に復帰はできないものの、比較的短期間で復職可能であるときには、休業又は休職に至る事情、使用者の規模、業種、労働者の配置等の実情から見て、短期間の復帰準備時間を提供したり、教育的措置をとったりすることなどが信義則上求められるというべきで、このような信義則上の手段をとらずに、解雇することはできないとして、解雇を無効とした裁判例もある(全日本空輸事件 大阪高判平13.3.14 労判809-61)。

なお、使用者による治癒の判断に関して、労働者は診断書の提出等による協力をしなければならず(大建工業事件 大阪地決平15.4.16 労判849-35等)、ときには主治医の診断書を提出するだけでは足りず、使用者の指定する医療機関での受診等が求められることもある(全国電気通信労働組合事件 東京地判平2.9.19 労判568-6、日本ヒューレット・パッカード事件 東京地判平27.5.28 労経速2254-3)。