(53)【異動】転籍

6.人事

1 ポイント

(1)「転籍(移籍)」とは、現在雇用されている企業と労働契約関係を終了させ、他企業との間に新たに労働契約関係を成立させることをいう。

(2)転籍には、①労働者が現企業との労働契約を合意解約し、新労働契約を締結するという方法と、②現企業が労働契約上の使用者たる地位を全部譲渡するという方法(転籍命令)があり、いずれの場合も労働者の同意が必要である。

(3)転籍の場合には、労働者の個別的同意を要するのが原則である。ただし、採用の際に転籍について説明を受けた上で明確な同意がなされ、人事体制に組み込まれて永年実施されて実質的に社内配転と異ならない状態となっている転籍に関しては、例外的に事前の包括的同意で転籍を命じうるとされることがある。

(4)転籍の場合は、転籍先企業との間で労働契約関係が新たに開始するため、使用者責任は原則として転籍先企業のみが負う。

2 モデル裁判例

三和機材事件 東京地判平7.12.25 労判689-31

(1)事件のあらまし

株式会社Yは、倒産し、和議手続下で会社再建のため同社の営業部を独立させて新会社を設立し、Xらを含むYの営業部門の全従業員に新会社への転籍出向を命じた(本件転籍出向命令)。しかし、Xのみがこれを拒否したため、Yは就業規則に基づきXを懲戒解雇した(本件解雇)。Xは本件転籍出向命令は無効であり懲戒解雇も無効として、労働契約上の地位確認および賃金支払いを請求した。Yは、会社と新会社は実質的には同一会社で、出向者にとっては給付すべき義務の内容および賃金等の労働条件に差異はなく、転籍となっても何の不利益もないため、本件転籍出向については配転と同じ法理により、会社の持つ包括的人事権に基づき、従業員の同意なしに命じることができる、また、新会社設立の3ヵ月前に、Yにおいて従来から存した就業規則上の出向規定に転籍出向を含む改訂を行った等とし、これを争った。

本件の仮処分決定(東京地決平4.1.31 判時1416-130)では、本件転籍出向命令について、Xは、具体的同意はもちろん包括的な同意もしていなかったのであるから無効という外はないとして、Xの労働契約上の地位保全と賃金仮払いの申立てが認容されていた。本件はその本訴である。

(2)判決の内容

労働者側勝訴

本件転籍出向命令は、XY間の労働契約関係を終了させ、新たに新会社との間に労働契約関係を設定するものであるから、いかにYの再建のために業務上必要であるからといって、特段の事情のない限り、Xの意思に反してその効力が生ずる理由はなく、Xの同意があってはじめて本件転籍命令の効力が生ずるものというべきである。

本件では、Yの側において、会社再建のために新会社を設立し、そこへ営業部員を転籍出向させる必要が認められ、また、Yが個別に転籍出向対象者の説得に当たり、X以外全員の同意を得、最終的にはX一人が会社の方針に反対している段階に至っているからといって、Xの本件転籍出向命令拒否が信義則違反・権利濫用に当たるとする事情は認められず、本件解雇は権利濫用として無効である。

3 解説

(1)転籍の意義

現在雇用されている企業と労働契約関係を終了させ、他企業との間に新たに労働契約関係を成立させることを転籍(移籍)という。これを実現する法技術には、①現企業との労働契約を合意解約し、新労働契約を締結する方法と、②現企業が労働契約上の使用者たる地位を他企業に全部譲渡する方法(民法625条1項。転籍命令)がある。

本件のような転籍出向(以下転籍ともいう)は、在籍出向と同様に、一企業を超えての労働者の異動であるが、現在の使用者との間の労働契約を終了させ、新たに転籍先の企業との間に労働契約関係を生じさせる点で在籍出向と異なる。また転籍は、労働契約の当事者に変更はない同一企業内の配転とも異なる。

一企業を超える移動が転籍か出向かが争われた裁判例として、転籍出向ではあるもののあたかも在籍出向のごとき身分を約束するものとして当該労働者と会社間で確認証が作成されていた経緯から、一定の期間満了後に原則として元の企業に復帰することを予定した転籍出向と認定されたものがある(京都信用金庫(移籍出向)事件 大阪高判平14.10.30 労判847-69)。

(2)労働者の同意

転籍を実現する上記の法技術のうち、①の場合は、元の契約の解約および新契約の締結において労働者の個別具体的な同意が必要である。最近の裁判例では、Y1社からY2社に出向後、半年後にY2社に転籍となる旨の説明をY1社人事部副部長Aから受け、出向時点で労働者がY1社宛の同意書に署名押印していた事案で、AはY2社を代理して意思表示を行う権限を有していたとして、AとXとの間に成立した転籍合意の効力がY1社だけでなくY2社に帰属すると判示されたものがある(大和証券ほか事件 大阪地判平27.4.24 労働判例ジャーナル42-2)。

続いて、②の場合にも労働者の同意(民法625条1項)が必要である(日立製作所横浜工場転籍事件 最一小判昭48.4.12 集民109-53)が、出向の場合と同様に、入社時等の事前の包括的同意でもよいのか、それとも(転籍時の)個別具体的な同意に限定されるのかが問題となる。

この点について、雇用関係を維持した上で解雇を回避するために広く行われてきた配転・出向と異なり、転籍は元の企業との間で雇用関係を解消する点で労働者に重大な影響を与えるため、事前の包括的同意で足りるとは原則として解されていない(モデル裁判例参照)。ミロク製作所事件(高知地判昭53.4.20 労判306-48)では、労働協約や就業規則に転籍を命じうるような事項を定めることはできず、転籍を行うには労働者との個別的合意が必要と明確に述べられている。

もっとも、採用の際に転籍について説明を受けた上で明確な同意がなされ、転籍が人事体制に組み込まれて永年実施され、実質的に社内配転と異ならない状態となっていたような特殊な事案では、就業規則の規定によって転籍を命じうるとされた例がある(日立精機事件 千葉地判昭56.5.25 労判372-49)。他方で、Y法人がP法人との間で従業員をP法人に転籍させることを合意し、当該従業員がY社に対して転籍を承諾していた場合でも、その時点で転籍時期、転籍後の雇用条件について何も決まっていない場合には、当該従業員の転籍承諾と同時に雇用契約上の地位がP法人に移転したとみることはできないと判断されたものがある(生協イーコープ・下馬生協事件 東京地判平5.6.11 労判634-21)。

(3)転籍後の労働関係

転籍の場合は、転籍先企業との間で労働契約関係が新たに開始するため、労基法等の労働保護法規、労働契約法理および労組法(7条)上の使用者は原則として転籍先企業のみである。復帰が予定され、元の企業が賃金の差額を補填し続け、退職金も通算されるというような特別の事情がある場合には、限定的に元の企業の使用者責任が問題となる余地があるが、このような転籍の場合にも、転籍先を退職するときには退職金支払義務は転籍先にあるとされた例がある(幸福銀行(退職出向者退職金)事件 大阪地判平15.7.4 労判856-36)。

転籍に関する最近の注目すべき裁判例として、上記大和証券ほか事件では、同一の企業グループの子会社間で行われた転籍において、転籍先Y2社が転籍労働者Xに行った嫌がらせにつき、転籍元Y1社の人事部副部長がY2社でのXの業務内容について報告を受けており、Y2社のXへの対応を認識していたこと等から、Y2社がY1社の了解を得た上で嫌がらせを行っていたとして、転籍元Y1社と転籍先Y2社の双方に対し、共同不法行為(民法719条)に基づく慰謝料150万円の支払が命じられた。

なお、在籍出向の場合には、出向期間は出向元の勤続年数に加算されるのが通常であるが、出向元が解散し、出向先に転籍した者については、出向期間を含めた退職金請求は認められず、出向期間を出向先で通算する旨の特別の合意等がない限り、出向先に対しては転籍後の勤続期間に応じた退職金しか請求できないとされた裁判例がある(日本ケーブルテレビジョン事件 東京地判平16.1.28 労経速1868-21)。