(52)【異動】出向、復帰

6.人事

1 ポイント

(1)労働者が自己の雇用先の企業に在籍のまま、他の企業の事業所において相当の長期間にわたって当該他企業の業務に従事することを出向(在籍出向)という。

(2)出向を命じるには労働者の承諾(民法625条1項)が必要であるが、就業規則や労働協約に出向を命じうる旨の規定があり、出向によって賃金・退職金その他労働条件等の面での不利益が生じないように制度が整備され、出向が実質的に見て配転と同視されるような場合には、労働者の個別的同意がなくとも出向を命ずることができる。

(3)ただしその場合でも、当該出向命令が、出向の必要性、対象労働者の人選の合理性、労働者の不利益、出向にかかる手続の相当性などに照らして、その権利を濫用したものと認められる場合は、無効となる(労契法14条)。

(4)出向期間中は、基本的な労働関係は出向元との間で維持されるが、労働契約上の権利義務の一部は出向先に譲渡される。復帰については、復帰はない旨の合意が成立したといえる特段の事由がない限り、出向元は出向労働者の同意なく復帰を命じることができる。

2 モデル裁判例

新日本製鐵(日鐵運輸第2)事件 最二小判平15.4.18 労判847-14

(1)事件のあらまし

株式会社Yは、社内の構内輸送業務のうち鉄道輸送部門の一定の業務を訴外A社に業務委託し、委託業務に従事していたXらにAへの出向(在籍出向)を命じた(本件出向命令)。これに対しXらは、本件出向命令の無効確認請求を行った。なお、Xらの入社時及び本件出向命令発令時のYの就業規則には、業務上の必要性に応じて社外勤務がありうる旨が定められており、Xらに適用される労働協約にも同旨の規定があった。そして、労働協約である社外勤務協定には、社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇格・昇給等の査定その他処遇等に関して出向労働者の利益に配慮した詳細な定めがあった。

一審(福岡地判平8.3.26 労判847-30)では本件出向命令は有効であるとしてXらの請求が棄却され、原審(平11.3.12 労判847-18)でも一審判決が維持された。そこでXらが上告。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

本件の事情の下においては、「Yは、Xらに対し、その個別的同意なしに、Yの従業員としての地位を維持しながら出向先であるAにおいてその指揮監督の下に労務を提供することを命ずる本件各出向命令を発令することができるというべきである」。

次に、本件出向命令が権利の濫用に当たるかどうかについて判断すると、「Yが構内輸送業務のうち鉄道輸送部門の一定の業務をAに委託することとした経営判断が合理性を欠くものとはいえず、これに伴い、委託される業務に従事していたYの従業員につき出向措置を講ずる必要があったということができ、出向措置の対象となる者の人選基準には合理性があり、具体的な人選についてもその不当性をうかがわせるような事情はない。また、本件各出向命令によってXらの労務提供先は変わるものの、その従事する業務内容や勤務場所には何らの変更はなく、上記社外勤務協定による出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇格・昇給等の査定その他処遇等に関する規定等を勘案すれば、Xらがその生活関係、労働条件等において著しい不利益を受けるものとはいえない。そして、本件各出向命令の発令に至る手続に不相当な点があるともいえない。これらの事情にかんがみれば、本件各出向命令が権利の濫用に当たるということはできない」。

3 解説

(1)出向の意義

労働者が自己の雇用先の企業に在籍のまま、他の企業の事業所において相当の長期間にわたって当該他企業の業務に従事することを出向(在籍出向)という。出向は、勤務する職場が同一会社内の配転と異なり、他の会社の事業所等に勤務し、出向先の会社の指揮命令に服するものである。出向を行うには、まず出向元企業と出向先企業の間で、従業員の受入れについて出向協定を締結する必要がある。

(2)労働者の同意

出向は、出向元企業が労働者への労務提供請求権を出向先企業に譲渡するものであり、民法625条1項にいう「労働者の承諾」が必要である。問題は、この「承諾」が、労働協約や就業規則に基づく事前の包括的同意で足りるのか、それとも出向時の労働者の個別的同意を要するのかである。

企業間の人事異動である出向については、労務提供の相手方が変更されるので、密接な関連会社との間に日常的に行われる出向であっても、就業規則や労働協約上の根拠規定、もしくは採用時の労働者の同意等の明示の根拠のない限り、出向命令が労働契約上予定されているとはいえない。最高裁は、就業規則中に会社外の業務に従事するときは休職にする旨の休職条項がある事案でも、同条項は出向命令権の根拠にならないと判示している(日東タイヤ事件 最二小判昭48.10.19 労判189-53)。

もっとも、就業規則や労働協約に包括的な出向規定があるだけでなく、出向の対象企業、出向中の賃金等の労働条件、出向期間、復帰の仕方等が出向労働者の利益に配慮して詳細に規定されている場合には、当該包括的規定によって出向を命じることができると解されている(新日本製鐵(日鐵運輸)事件 福岡高判平12.11.28 労判806-58。モデル裁判例参照)。興和事件(名古屋地判昭55.3.26 労判342-61)では、グループ企業内の他企業への出向命令について、同一企業内の配転と実質的に同視できる事情(企業間の実質的一体性、統一的人事管理、多数の実績、経済的不利益なし等)があったことを重視して、当該労働者の採用時の包括的同意に基づき使用者は出向命令権を有すると判断している。

(3)権利濫用による制約

使用者は、出向命令権を有する場合でも、同権利を濫用した場合は無効となる(労契法14条)。出向命令権の濫用の有無は、出向を命ずる業務上の必要性、人選の合理性(対象人数、人選基準、人選目的等の合理性)、出向労働者の職業上および生活上の不利益、当該出向命令に至る動機・目的等を勘案して判断される(リコー事件 東京地判平25.11.12 労判1085-19、モデル裁判例参照)。この点、労契法14条は「その〔出向命令の〕必要性、対象労働者の選定に係るその他の事情」を考慮要素に挙げるが、明示されていない要素でも従来の裁判例で考慮されてきた上記諸要素が広く含まれる。

具体的に権利濫用と判断された事例には、退職勧奨を断った労働者全員を出向対象とした点で人選の合理性なしとされたもの(上記リコー事件)、私生活上の不利益が大きいとされたもの(日本ステンレス事件 新潟地高田支判昭61.10.31 労判485-43、佐世保重工業事件 長崎地佐世保支判平元.7.17 労判543-29、東海旅客鉄道事件 大阪地決平6.8.10 労判658-56)、不当な動機・目的が認められたもの(兵庫県商工会連合会事件 神戸地姫路支判平24.10.29 労判1066-28)などがある。

(4)出向期間中の法律関係・復帰命令

出向期間中は、基本的な労働契約関係は出向元企業との間で維持されるが、労働契約上の権利義務の一部は出向先企業に譲渡される。移転する権利義務の具体的内容は通常出向協定で定められるが、明示の定めがない場合には、就労に関わる権利義務(労務提供請求権、指揮命令権、出勤停止処分権)は出向先に移り、就労を前提としない権利義務(解雇権や復帰命令権等の労働契約関係の存否・変更に関する権利義務)は出向元に残ると解釈するのが合理的である(水町勇一郎『労働法(第6版)』(有斐閣、2016年)149頁以下)。

出向労働者の懲戒については、①出向元による懲戒解雇が有効とされた例(ダイエー事件 大阪地判平10.1.28 労判733-72)、諭旨解雇が無効とされた例(日本交通事業社事件 東京地判平11.12.17 労判778-28)、②出向元および出向先会社がした出勤停止、降格等の懲戒処分が有効とされた例(勧業不動産販売・勧業不動産事件 東京地判平4.12.25 労判650-87)がある。

出向労働者の出向元への復帰命令については、出向時に復帰はない旨の合意が成立したといえる特段の事由がない限り、出向元は労働者本人の同意なく復帰を命じることができるとされている(古河電気工業・原子燃料工業事件 最二小判昭60.4.5 民集39-3-675)。