(51)【異動】職種の変更

6.人事

1 ポイント

(1)労働契約の締結時もしくは労働契約の展開過程で職種が限定されていると解される場合には、職種の変更は使用者の一方的命令ではなしえず、労働者の個別的同意が必要である。

(2)長期雇用を前提として採用された労働者については、同一の仕事に長年継続して従事してきたことのみでは職種限定の合意が成立しているとは認められにくく、実際の事案では、同一職種に20年から30年程度継続して勤務していた労働者について職種限定の合意成立が否定されたものがある。

(3)職種限定の合意が認定されない場合には、使用者は異職種への配転命令権をも有するが、配転命令権の行使については判例による権利濫用法理の制約が及び、①業務上の必要性の有無・程度、②不当な動機・目的の有無、③労働者の不利益の有無・程度が審査される。

(4)職種限定の合意が認定されなかった事案で配転命令が無効と評価された場合には、当該労働者が配転前の職種(ないし勤務地)において就労する地位の確認ではなく、配転先における就労義務のない地位の確認請求が認容される。

2 モデル裁判例

日産自動車村山工場事件 最一小判平元.12.7 労判554-6

(1)事件のあらまし

Xらはいずれもトラック等の製造販売を業とする株式会社YのA工場において機械工として就労してきた者であり、就労期間は最も長い者で28年10ヵ月、最も短い者で17年10ヵ月であった。Yは、世界自動車業界の車軸小型化等に対応するため、従来A工場にあった車軸製造部門をB工場等に移管し、A工場では新たに小型乗用車を製造することになった。それにともない人員も再配置され、従来A工場で機械工として勤務していたXらは単純反覆作業であるコンベアライン作業へ配置換えされた(本件配転命令)。そこでXらは、本件配転命令は無効であるとして、Yに対してA工場を就労場所とする機械工の地位にあることの確認等を求めて提訴した。

一審(横浜地判昭61.3.20 労判473-42)では、本件配転命令が無効であるとして、Xらが配転先で就労すべき義務のないことが確認された。これに対して二審(東京高判昭62.12.24 労判512-66)では、本件配転命令は有効であるとして一審判決が取り消された。そこでXらが上告したのが本件である。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

XY間において、「Xらを機械工以外の職種には一切就かせないという趣旨の職種限定の合意が明示又は黙示に成立したものとまでは認めることができず、Xらについても、業務運営上必要がある場合には、その必要に応じ、個別的同意なしに職種の変更等を命令する権限がYに留保されていたとみるべきであるとした原審の認定判断は」正当である。

「原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、Yが本件異動を行うに当たり、対象者全員についてそれぞれの経験、経歴、技能等を各別にしんしゃくすることなく全員を一斉に村山工場の新型車生産部門へ配置替えすることとしたのは、労働力配置の効率化及び企業運営の円滑化等の見地からやむを得ない措置として容認しうるとした原審の判断は、正当」である。

以上から、「Xらに対する本件各配転命令がYの配転命令権の濫用に当たるとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができ」る。

3 解説

労働契約の締結時もしくは労働契約の展開過程で職種が限定されていると解される場合には、異職種への配転には労働者の個別的同意が必要である。

(1)職種限定合意の有無

裁判例では、特殊な技術・技能・資格を有する者、例えば病院の検査技師(大成会福岡記念病院事件 福岡地決昭58.2.24 労判404-25)、看護師(国家公務員共済組合連合会事件 仙台地判昭48.5.21 判時716-97)、大学教員(金井学園福井工大事件 福井地判昭62.3.27 労判494-54)について、採用時の職種限定合意が認められている。アナウンサーの場合は、職種限定が認められた例(日本テレビ放送網事件 東京地決昭51.7.23 判時820-54)と認められなかった例(九州朝日放送事件 福岡高判平8.7.30 労判757-21)がある。タクシー運転手では職種限定が否定された例がある(古賀タクシー事件 福岡高判平11.11.2 労判790-76)。

なお、厳密に職種概念が定義されていない事案でも、採用の経緯等から職種の範囲を一定の業務系統に限定し、それを超える業務系統への配転が無効とされることがある(ヤマトセキュリティ事件 大阪地決平9.6.10 労判720-55、直源会相模原南病院事件 東京高判平10.12.10 労判761-118)。

採用時に職種限定合意が認められなくとも、長期間同一業務に従事した場合に職種限定合意が認定されることもある(日野自動車工業事件 東京地判昭42.6.16 労民集18-3-648)。もっとも、長期雇用を前提として採用された労働者については、そうした合意は認められにくい。モデル裁判例以外でも、下級審レベルでは、約21年間の電話交換業務への従事(東京アメリカンクラブ事件 東京地判平11.11.26 労判778-40)、18年間の児童指導員としての勤務(東京サレジオ学園事件 東京高判平15.9.24 労判864-34)につき、それぞれ職種限定合意が否定されている。

(2)職種限定合意がある場合の配転の可否

職種限定合意が存在する場合には、それを超える職種変更には当該労働者の同意が必要である。この同意は労働者の任意のものであることを要し、任意性の有無は、①変更申出が労働者の自発的なものか、②使用者の働き掛けによる場合は当該労働者が同意する合理性、③職種変更後の状況等を総合して慎重に判断される(西日本鉄道事件 福岡高判平27.1.15 労判1115-23。結論として同意の効力肯定)。

なお、東京海上日動火災保険事件(東京地判平19.3.26 労判941-33)では、リスクアドバイザーの職種限定合意を認定し、他職種への配転命令は原則として認められないとしつつ、採用経緯と当該職種の内容、使用者における職種変更の必要性の有無・程度、変更後の業務内容の相当性、他職種への配転による労働者の不利益の有無・程度、それを補うだけの代替措置、労働条件の改善の有無等を考慮し、他職種への配転を命ずることに正当な理由があるとの特段の事情が認められる場合には、他職種への配転は有効との一般論が展開された(結論として配転無効)。

(3)権利濫用法理による制約

職種限定の合意が認められず、異職種への配転命令が契約上許容されるとしても、配転命令には権利濫用の制約が及ぶ((50)【異動】参照)。職種変更の配転に不当な動機・目的が認められた例として、退職に追い込むための配転(プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク(本訴)事件 神戸地判平16.8.31 労判880-52、精電舎電子工業事件 東京地判平18.7.14 労判922-34)、内部告発者に対する業務上の必要性のない配転(オリンパス事件 東京高判平23.8.31 労判1035-42)、退職勧奨拒否への報復または大幅な賃金減額を正当化するための配転(新和産業事件 大阪高判平25.4.25 労判1076-19)、学園の運営方針等への批判的言動を封じ込めるための配転(学校法人越原(名古屋女子大学)事件 名古屋高判平26.7.4 労判1101-65)などがある。

(4)配転命令が違法無効の場合の救済

労働契約上職種や勤務地が限定されていない労働者は、配転命令が無効でも配転前の職種ないし勤務地において勤務する地位の確認は認められず、配転先における就労義務のない地位の確認が認められるにとどまる(モデル裁判例の一審判決参照)。これに対し、職種や勤務地の限定合意があり、その範囲を超える配転が無効となる場合には、当該労働者には配転前の職種・勤務地において就労する地位の確認が認められる(菅野和夫『労働法(第11版)』(弘文堂、2016年)685頁)。

なお、無効な配転命令は当然に違法であるため、当該配転命令が不法行為(民法709条)に該当するとして損害賠償(慰謝料)請求が認められる場合がある。たとえば、NTT西日本(大阪・名古屋配転)事件(大阪地判平19.3.28 労判946-130)では慰謝料40万円(原告1)、80万円(原告2)が、NTT東日本事件(札幌地判平18.9.29 労判928-37)では慰謝料100万円が認容されている。