(50)【異動】配転の意義、勤務場所の変更

6.人事

1 ポイント

(1)配転とは、従業員の配置の変更であって、職務内容または勤務地が相当の長期間にわたって変更されるものをいう。

(2)使用者は、①労働協約や就業規則に配転を命ずることができる旨の定めがあり、実際にこれに基づき配転が頻繁に行われていたこと、②勤務場所を限定する合意がなされなかったこと、という事情が認められる場合には、労働者の個別的同意なく配転(転勤)を命ずる権利をもつ。

(3)ただし、配転命令に①業務上の必要性がない場合、②不当な動機・目的が認められる場合、あるいは③労働者に対する不利益が通常甘受すべき程度を著しく超える場合には、当該配転命令は権利濫用として無効になる。

(4)業務上の必要性は、当該配転が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性には限定されず、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められれば肯定される。

2 モデル裁判例

東亜ペイント事件 最二小判昭61.7.14 労判477-6

(1)事件のあらまし

Yは大阪に本店をおき、全国十数カ所に事務所・営業所を持つ株式会社である。Yの就業規則には、「業務の都合により異動を命ずることがあり、社員は正当な理由なしに拒否できない。」と定められており、実際にも従業員、特に営業担当者について転勤が頻繁に行われていた。Xは大学卒業資格の営業担当者として、勤務地を限定することなくYに採用されたが、入社してから約8年間、大阪近辺で勤務していた。こうした中、YはXに対して神戸営業所から広島営業所への転勤を内示したが、Xは家庭の事情を理由に転居を伴う転勤を拒否し、名古屋営業所への転勤の内示にも応じなかった。その後Yは、Xに対して名古屋営業所勤務を命じた(本件転勤命令)ところ、Xはこれを拒否した。

そこでYは、この転勤命令拒否が就業規則所定の懲戒事由(業務命令違反)に該当するとしてXを懲戒解雇した。これに対してXは、本件転勤命令は無効であり、同命令に従わなかったことを理由とする本件懲戒解雇も無効であるとして、労働契約上の地位確認および未払賃金を請求した。

第一審(大阪地判昭57.10.25 労判399-43)および第二審(大阪高判昭59.8.21 労判477-15)は、本件転勤命令は権利濫用で無効であるとし、Xの請求を全面的に認容した。これを受けてYが上告した。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

Yの労働協約及び就業規則には、業務上の都合により転勤を命ずることができる旨の定めがあり、現にYでは転勤を頻繁に行っており、Xは大学卒業資格の営業担当者として入社したもので、両者の労働契約成立時にも勤務地を限定する旨の合意はなされていなかった。こうした事情の下では、Yは個別的同意なしにXの勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するというべきである。

そして、使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、特に転居をともなう転勤は、一般に、労働者の生活に影響を与えるものであるから、使用者の転勤命令権は無制約に行使できるものではなく、これを濫用することは許されないところ、「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合がない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではない」。業務上の必要性についても、「当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、肯定すべきである」。

本件転勤命令には業務上の必要性が優に存在し、Xの家庭生活上の不利益も通常甘受すべき程度のものであるから、権利濫用に当たらないと解するが相当である。

3 解説

(1)配転命令権の根拠と範囲

職務内容や勤務地を相当の期間にわたって変更することを配転という。勤務地の変更を伴う配転を特に転勤と呼ぶ。

使用者が配転を命じるには、労働協約や就業規則によって配転命令権が労働契約上根拠づけられている必要がある。就業規則に配転を命じうる旨の包括的規定があり、しかもその規定が形骸化しておらず実態として配転が広く行われている場合には、使用者の配転命令権が肯定される(労契法7条)。ただし、当該労働者について勤務場所を限定する特約が存在する場合にはそちらが優先し(同ただし書)、その限定範囲を超える転勤には労働者の個別的同意が必要である。そうした勤務地限定合意・特約は、採用時のほか、採用後にも成立しうる。

(2)勤務地限定合意の認定

本社採用の大卒正社員のように当該企業で長期的にキャリアを形成していく雇用の場合には、勤務地限定合意が認定されにくい(モデル裁判例、グリコ協同乳業事件 松江地判昭47.2.14 労民集23-1-25、新日本製鐵(総合技術センター)事件 福岡高判平13.8.21 労判819-57)。勤務地限定合意が認定された例としては、現地採用の労働者(新日本製鐵事件 福岡地小倉支決昭45.10.26 判時618-88、蔵田金属工業事件 松江地決昭51.3.16 判時819-99、ブック・ローン事件 神戸地決昭54.7.12 労判325-20)や、採用面接で転勤には応じられない旨を明確に述べ、そのことにつき本社から何の留保もなく採用された労働者(新日本通信事件 大阪地判平9.3.24 労判715-42)がいる。

(3)権利濫用法理による制約

使用者に配転命令権が認められる場合も、①配転命令に業務上の必要性が存しない場合、②配転命令が不当な動機・目的に基づく場合、③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を及ぼす場合には、配転命令は権利濫用として無効になる(労契法3条5項)。

①配転命令の業務上の必要性については、余人をもっては替え難いという高度の必要性は要求されず、労働者の適正配置や業務運営の円滑化の事情があれば肯定される(モデル裁判例)。業務上の必要性自体が否定されることは稀であるが、最近の事案では、企業の構造改革に伴い既に一定の業務に就いていた従業員に新たに新幹線通勤や単身赴任の負担を負わせる配転(NTT西日本(大阪・名古屋配転)事件 大阪高判 平21.1.15 労判977-5)、使用者の解雇撤回後に職場復帰する労働者に対する大阪から名古屋への配転(C株式会社事件 大阪地判平23.12.16 労判1043-15)で業務上の必要性が否定されている。

②不当な動機・目的は、退職に追い込むための転勤(フジシール事件 大阪地判平12.8.28 労判793-13)、社長の経営方針に批判的言動をとった報復としての転勤(マリンクロットメディカル事件 東京地決平7.3.31 労判680-75、朝日火災海上保険事件 東京地決平4.6.23 労判613-31、アールエフ事件 長野地判平24.12.21 労判1071-26)などで認定されている。

③労働者の不利益については、配転に応じると単身赴任せざるをえないという事情だけでは、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」とは認められない(モデル裁判例、帝国臓器製薬事件 最二小判平11.9.17 労判768-16等)。配転によって通勤時間が片道約1時間長くなり、保育園に預けている子供の送迎等で支障が生じる場合でも、同様の判断がなされている(ケンウッド事件 最三小判平12.1.28 労判774-7)。これまで労働者に著しい不利益を負わせると判断されたのは、当該労働者が病気の家族を複数人、一人で看ていた場合(日本電気事件 東京地判昭43.8.31 判時539-15、北海道コカ・コーラボトリング事件 札幌地決平9.7.23 労判723-62)、重度の病気の家族を自らまたは配偶者らと看護していた場合(明治図書出版事件 東京地決平14.12.27 労判861-69、日本レストランシステム事件 大阪高判平17.1.25 労判890-27、ネスレ日本(配転本訴)事件 大阪高判平18.4.14 労判915-60)、障害をもつ両親を妻や妹らと介護していた場合(NTT東日本(北海道・配転)事件 札幌高判平21.3.26 労判982-44)など、極めて特殊なケースである。

こうして配転命令の効力が広く肯定されてきた背景には、解雇が厳しく規制されていること(労契法16条の解雇権濫用法理)とのバランスで、企業内の配置は柔軟に認めようとする考え方がある。もっとも、平成13年に育児介護休業法が改正され、子の養育または家族の介護状況に関する使用者の配慮義務が導入された(26条)ほか、平成19年制定の労契法でも使用者が仕事と生活の調和に配慮すべきことが規定されている(3条3項)。近年の裁判例では、配転命令の権利濫用の判断においてこれらの規定を参照し、労働者の私生活上の不利益をより慎重に検討するものがある(上記明治図書出版事件ネスレ日本(配転本訴)事件)。