(48)【人事制度】降格(職位の引下げ)

6.人事

1 ポイント

(1)降格とは、職位(役職)または職能資格を低下させることをいう。降格には人事権行使としての降格と懲戒処分としての降格があり、後者は懲戒処分としての規制に服する。

(2)人事権行使としての職位の引下げは、就業規則等に明確な根拠規定がなくともなしうるが、労働契約上職位が限定されている場合には、それを下回る降格を一方的に行うことはできない。

(3)職位の引下げが労働契約上許容される範囲内のものであるとしても、その降格が使用者に付与された裁量権の範囲を逸脱し、社会通念上著しく妥当性を欠く場合には、権利濫用として違法・無効となる。この場合の権利濫用の成否は、使用者側における業務上の必要性、労働者側における能力・適性の欠如等の帰責性、労働者の被る不利益等を総合考慮して判断される。

2 モデル裁判例

バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件 東京地判平7.12.4 労判685-17

(1)事件のあらまし

Y銀行は、経営の悪化を受けて業務の統合、単純化・合理化が急務となり、余剰人員をより生産性の高い部門で再活用する方針を打ち出した。この過程で管理職の職務も見直され、Xは課長職からオペレーションズテクニシャン(課長補佐職相当)に降格され(本件降格)、役職手当が月額5,000円減額となった。そして、本件降格後、Xは預送金課で手形取立・送金等の業務に従事し、その後輸出入課、総務課(受付)に配転となった。

Xは、本件降格は人事権を濫用するもので違法であるとして、Yの不法行為に基づく慰謝料請求を行った。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

「使用者が有する採用、配置、人事考課、異動、昇格、降格、解雇等の人事権の行使は、雇用契約にその根拠を有し、労働者を企業組織の中でどのように活用・統制していくかという使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事柄であり、人事権の行使は、これが社会通念上著しく妥当を欠き、権利の濫用に当たると認められる場合でない限り、違法とはならないものと解すべきである。しかし、この人事権の行使は、労働者の人格権を侵害する等の違法・不当な目的・態様をもってなされてはならないことはいうまでもなく、経営者に委ねられた右裁量判断を逸脱するものであるかどうかについては、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無・程度、労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するかどうか、労働者の受ける不利益の性質・程度等の諸点が考慮されるべきである」。

本件では、①経営方針に積極的に協力しない管理職を降格する業務上・組織上の高度の必要性があったこと、②月額5,000円の役職手当の減額は人事管理業務を遂行しなくなることに伴うものであること、③降格された管理職らはいずれも銀行の措置はやむを得ないものと受け止めていたこと等を前提とすれば、本件降格はYに委ねられた裁量権を逸脱した濫用的なものとは認められず、違法でない(ただし、本件降格後の総務課への配転は違法とされ、慰謝料100万円が認められた)。

3 解説

(1)降格の意義・態様

労働者の職位(役職)または職能資格を低下させることを降格という。降格には人事権の行使としての降格と懲戒処分としての降格があり、後者は懲戒処分としての制約(後掲(56)以下【服務規律・懲戒制度等】参照)に服する。

ある降格が懲戒処分としての降格と人事権行使としての降格のいずれに当たるかは、降格の形式や内容、その意思表示に至る経緯・手続等に照らして客観的に判断される。裁判例では、就業規則に懲戒処分としての降格が規定されておらず、当該労働者に対して格別制裁として降格を行う旨の表示も存しないとして、管理職不適と判断して人事権に基づき降格したものと評価されたものがある(医療法人財団東京厚生会(大森記念病院)事件 東京地判平9.11.18 労判728-36)。

(2)人事権の行使としての職位の引下げ

人事権の行使としての降格のうち、一定の職位(役職)を解く降格については、就業規則等に特別な根拠規定がなくとも、使用者の裁量的判断によって行うことができる(モデル裁判例のほか、エクイタブル生命保険事件 東京地決平4.4.27 労判565-79、上州屋事件 東京地判平11.10.29 労判774-12、アメリカン・スクール事件 東京地判平13.8.31 労判820-62等)。人事権とは、労働者を企業組織の中で位置づけ、その役割を定める権限であり、職業能力の発展において様々な職務やポストに配置していく長期雇用システムでは、労働契約上当然に使用者の権限として予定されていると解されるからである。

ただし、職位を限定する特約が存在する場合には、その範囲を超える降格は一方的になしえない。懲戒処分としての降格の事案であるが、倉田学園事件(高松高判平9.12.19 労民集48-5・6-660)では、私立高校で期間の定めのない契約で教諭として雇用されていた労働者を、雇用期間1年の非常勤講師に「降職」する処分は、労働契約の基本的内容を変更するもので、社会通念上労働契約の同一性を有すると解することはできないとして、無効とされている。

(3)権利濫用による制約

人事権の行使としての降格が労働契約上許容される範囲内のものであっても、その権利を濫用したものは無効となる(労契法3条5項)。職位の引下げとしての降格の権利濫用の判断は、業務上・組織上の必要性の有無・程度、能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無・程度、労働者の被る不利益の有無・程度等が総合的に考慮される(前掲医療法人財団東京厚生会事件、モデル裁判例)。

職位の引下げとしての降格は、労働者の適性や成績を評価して行われる労働力配置の問題であり、使用者の経営判断に属するため、権利濫用の判断は、職能資格の引下げとしての降格の場合(後掲(49)【人事制度】参照)よりも緩やかに行われる傾向にある。職位の引下げとしての降格について使用者の裁量権を尊重し、降格が有効とされた例として、職務不適格を理由とする部長職から一般職への降格(日本プラントメンテナンス協会事件 東京地判平15.6.30 労経速1852-18)、従業員に無料での賄いの飲食を指示したことを理由とするマネジャーB職から1段下の店長A職への降格(日本レストランシステム事件 大阪地判平16.1.23 労経速1870-3)などがある。

これに対し、権利濫用として無効とされた例としては、①降格理由の合理性や業務上の必要性が否定されたもの(明治ドレスナー・アセットマネジメント事件 東京地判平18.9.29 労判930-56〔退職勧奨を発端とする部長から係長への降格〕、大阪府板金工業組合事件 大阪地判平22.5.21 労判1015-48〔勤務中に私語や職場離脱が多いこと等を理由とする事務局長代理から経理主任への降格〕)、②労働者に多大な不利益を与えるとされたもの(前掲医療法人財団東京厚生会事件〔重要書類の紛失等を理由とする病院の婦長から平看護婦への降格〕、近鉄百貨店事件 大阪地判平11.9.20 労判778-73〔55歳到達による役職離脱後の、勤務成績不良を理由とする部長待遇職から課長待遇職への降格〕、ハネウェル・ターボチャージング・システムズ・ジャパン事件 東京高判平17.1.19 労判889-12〔職務不適格を理由とする営業担当取締役から最終的に現業職(一般職)への降格〕)などがある。

なお、職位の引下げによる役職手当の削減は、当該職位が解かれることの帰結であり、その減額幅は、基本給が削減される場合に比べて労働者の不利益性がそれほど大きくないと判断されることが多い(モデル裁判例参照)。