(47)【人事制度】昇格・昇進

6.人事

1 ポイント

(1)職能資格制度では、労働者の職務遂行能力によって職能資格の格付けがなされ、その職能資格を持った労働者の中から、当該資格に対応する役職につく者が選抜される。職能資格制度において資格が上昇することを昇格、職位が上昇することを昇進という。

(2)昇格・昇進の前提となる人事考課・査定においては、差別禁止等の強行法規違反の場合を除き、使用者の裁量権が広範に肯定される傾向にある。

(3)昇格・昇進は企業の経営判断と結びつくため、違法とされても司法救済は損害賠償に限定されるのが原則である。ただし、就業規則の規定や労使慣行によって、一定の要件を満たせば当然に昇格する取扱いがなされていた場合には、労働者に労働契約上昇格請求権が認められる。

(4)不当労働行為にあたる昇格差別(組合員差別)の場合には、労働委員会が救済命令によってあるべき昇格を命じ、差別の是正を図ることが可能である。

2 モデル裁判例

光洋精工事件 大阪高判平9.11.25 労判729-39

(1)事件のあらまし

株式会社Yでは職能資格制度に基づく賃金処遇が行われていたが、Xは、Yが人事考課を行うに当たり、裁量権を逸脱・濫用し、その結果賃金および退職金が同僚に比して不当に低く抑えられたと主張し、Yの不法行為を理由とする差額賃金相当額、慰謝料等の損害賠償請求を行った。

原審(大阪地判平9.4.25 労判729-40)は、Yの職能資格制度が同等の勤続年数の従業員間に等級の差が出ることを予定しており、YがXに対し殊更不利な人事考課をすべき動機が見当たらないこと、Xが他の退職者の平均勤続年数より約9年短いにもかかわらず、Xより勤続年数の長い従業員が多数、Xと同じ級に格付けされていること、Xには協調性、積極性等に問題があったことを認定したうえ、Yの人事考課に裁量権の逸脱・濫用があったとは認められないとして請求を棄却した。そこでXが控訴。

(2)判決要旨

労働者側敗訴

「人事考課は、労働者の保有する労働能力(個々の業務に関する知識、技能、経験)、実際の業務の成績(仕事の正確さ、達成度)、その他の多種の要素を総合判断するもので、その評価も一義的に定量判断が可能なわけではないため、裁量が大きく働くものであり、組合間差別の不当労働行為のように大量観察を行うことにより有意の較差が存在することによって人事考課に違法な点があることを推認できる場合は別として、個々の労働者についてこれを適確に立証するのは著しく困難な面がある」。

「人事考課をするに当たり、評価の前提となった事実について誤認があるとか、動機において不当なものがあったとか、重要視すべき事項を殊更に無視し、それほど重要でもない事項を強調するとか等により、評価が合理性を欠き、社会通念上著しく妥当を欠くと認められない限り、これを違法とすることはできないというべきであるが、本件においては、各証拠によるもこれらの事情が存在したと認めることはできない」。

3 解説

(1)人事制度・人事考課

日本では伝統的に、労働者の職務遂行能力によって職能資格の格付けをし、その職能資格を持った労働者の中から、当該資格に対応する役職につく者が選抜されるという職能資格制度が採られてきた。同制度における職能資格や役職の位置づけは、使用者の人事考課(査定)に基づいて行われるが、人事考課のあり方は、均等待遇(労基法3条)や男女同一賃金(同4条)等の強行法規違反の場合を除き、使用者に広範な裁量が認められている。使用者が人事考課を恣意的に行い、裁量権を逸脱または甚だしく濫用したという場合でなければ、その違法性は否定される傾向にある(安田信託銀行事件 東京地判昭60.3.14 労判451-27、ソニー、ソニーコンピュータサイエンス研究所事件 東京地判平15.11.17 労経速1859-23など)。

モデル裁判例によると、例外的に人事考課が違法とされるのは、①評価の前提となった事実に誤認がある場合、②不当な動機・目的がある場合、③評価要素の比重が著しくバランスを欠く場合等、評価が合理性を欠き、社会通念上著しく妥当を欠く場合である。②の事例として、日本レストランシステム事件(大阪地判平21.10.8 労判999-69)では、嫌がらせ・見せしめの目的による人事考課が人事権の濫用として違法とされている。また、近時の裁判例においては、④就業規則における所定の評価要素以外の要素に基づいて評価した場合(住友生命保険(既婚女性差別)事件 大阪地判平13.6.27 労判809-5)や、⑤評価対象期間外の事実を考慮した場合(マナック事件 広島高判平13.5.23 労判811-21)に、人事考課の違法性が認められている。

(2)昇格・昇進に関する法規制・救済方法

職能資格制度において資格が上昇することを昇格(等級の上昇は昇級)、職位(役職)が上昇することを昇進という。

誰を昇進、昇格させるかは企業の経営判断であり、使用者の総合的裁量判断の性格を有していることから、裁判所があるべき昇進、昇格を命じることはできず、司法救済は原則として不法行為に基づく損害賠償請求に限られる(社会保険診療報酬支払基金事件 東京地判平2.7.4 労民集41-4-513、前掲日本レストランシステム事件)。このことが特に妥当するのは、企業経営の根幹に関わるため使用者の裁量を特に尊重すべき昇進の場面である。これに対し、昇格については、就業規則の規定や労使慣行によって一定の要件が満たされれば当然に資格・等級が引き上げられるという取扱いがなされていた場合には、労働契約上、労働者に昇格請求権が認められる。

男女差別による昇格差別について、①損害賠償請求が一部認容された例として、塩野義製薬事件(大阪地判平11.7.28 労判770-81 差額賃金相当額約2,500万円、慰謝料200万円)、②昇格請求が棄却され損害賠償のみ認容された例として、前掲社会保険診療報酬支払基金事件(差額賃金相当額が原告に応じて約9万~985万円、慰謝料が一人10万円)、シャープエレクトロニクスマーケティング事件(大阪地判平12.2.23 労判783-71 慰謝料500万円)、前掲日本レストランシステム事件(慰謝料200万円)がある。

芝信用金庫事件一審判決(東京地判平8.11.27 労判704-21)では、女性に対する昇格差別につき、就業規則や慣行上、勤続年数や試験への合格等の客観的要件の充足のみによって昇格が行われていたとして、昇格請求(課長職の職能資格の地位にあることの確認)および差額賃金請求の一部が認容された。その一方で、昇進請求(課長の職位にあることの確認)については、適材適所の配置を決める信金の専決事項であるとして棄却された。同控訴審(東京高判平12.12.22 労判796-5)では、昇格が職位の上昇と完全に分離され、賃金の増加と同様に観念しうるものとし、労働契約の本質および労基法13条の規定の類推適用により昇格請求および差額賃金等の一部が認容された(昇進請求については原告が争わず)。

なお、組合員差別の不当労働行為申立事案では、専門的な行政機関である労働委員会に救済内容につき広範な裁量権が肯定されており、あるべき昇格を命じ、差別の是正を図ることも可能である。労働委員会が昇格差別につき不当労働行為の成立を認めて差額支給を命じた例として、東京地労委(国民生活金融公庫)事件(東京地判平12.2.2 労判783-116)、中労委(オリエンタルモーター)事件(東京高判平15.12.17 労判868-20)がある。

もっとも、昇進については高度の経営判断であるため、労働委員会であっても、特定管理職への昇進を命じることは控えるべきとされている。昇進差別について、労働委員会による上位職制への格付けの救済命令が、使用者の人事権を不当に制約するものとして取消訴訟で取り消された例として、男鹿市農協事件(仙台高秋田支判平3.11.20 労判603-34)、中労委(朝日火災海上保険)事件(東京高判平15.9.30 労判862-41)がある。