(45)【年次有給休暇】年休の取得と不利益な取扱い

5.労働条件

1 ポイント

年休取得に対する不利益な取扱いは、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年休取得に対する事実上の抑止力の強弱などを考慮して、年休権の行使を抑制し、労基法が労働者に年休を保障した趣旨を実質的に失わせる場合には、違法となる。

2 モデル裁判例

沼津交通事件 最一小判平5.6.25 民集47-6-4585

(1)事件のあらまし

被告Yタクシー会社では、昭和40年頃から、乗務員の出勤率を高めるため、ほぼ月ごとの勤務予定表どおり出勤した者に対して、報奨として皆勤手当を支給していた。Y社は、社内のA組合との間で締結された昭和63年度および平成元年度の労働協約において、勤務予定表に定められた労働日数および労働時間を勤務した乗務員に対し、昭和63年度は1か月3,100円、平成元年度は1か月4,100円の皆勤手当を支給するが、年休を含む欠勤の場合、欠勤1日のときは、昭和63年度は1か月1,550円、平成元年度は1か月2,050円を皆勤手当から控除し、欠勤が2日以上のときは皆勤手当を支給しないことにした。原告労働者Xの昭和63年5月、8月、平成元年2月、4月、10月における現実の給与支給月額は、年休取得によって皆勤手当が控除された結果、22万円余ないし25万円余であり、皆勤手当額の現実の給与支給月額に対する割合は、最大でも1.85%に過ぎなかった。XはY社に対して、不支給分の皆勤手当の支払いを求めて提訴し、一審はX勝訴としたが、二審はY社勝訴としたため、Xが上告した。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

労基法136条それ自体は会社側の努力義務を定めたものであって、労働者の年休取得を理由とする不利益取扱いの私法上(市民一般の関係を規律する法分野:筆者注)の効果を否定するまでの効力(無効にする意義:筆者注)を持つとは解釈されない。また、先のような措置は、年休を保障した労基法39条の精神に沿わない面を有することは否定できないが、労基法136条の効力については、ある措置の趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年休の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年休を取得する権利の行使を抑制し、労基法が労働者に年休権を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものでない限り、公序に反して無効(民法90条)とはならない。

Y社は、タクシー業者の経営は運賃収入に依存しているため自動車を効率的に運行させる必要性が大きく、当番表が作成された後に乗務員が年休を取得した場合には代替要員の手配が困難となり、自動車の実働率が低下するという事態が生ずることから、このような形で年休を取得することを避ける配慮をした乗務員については皆勤手当を支給することにしたと考えられる。したがって、そのような措置は、年休の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものではないと考えるのが妥当であり、また、乗務員が年休を取得したことにより控除される皆勤手当の額が相対的に大きいものではないことなどから、この措置が乗務員の年休の取得を事実上抑止する力は大きなものではなかった。

したがって、Y社における年休の取得を理由に皆勤手当を控除する措置は、公序に反する無効なものとまではいえない。

3 解説

年休権をはじめ、法律で労働者に認められた権利の行使を抑制したり、権利保障の意義を実質的に失わせる定めや措置は違法・無効である。もっとも、年休取得を抑制したり、保障された年休権を実質的に失わせるかどうかは、個別具体的事実により異なる。なお、モデル裁判例の考え方については、年休権の保障と相容れないなどとして、学説から強く批判されていることに留意する必要がある。

(1)二つの最高裁判決

日本シェーリング事件(最一小判平元.12.14 民集43-12-1895)では、賃上げ条件としての稼働率(80%)算定の基礎となる不就労に年休が含まれており(他には、欠勤、遅刻、早退、生理休暇、慶弔休暇、産前産後休業、育児時間、労働災害による休業等、ストライキ等組合活動によるもの)、この取扱いの違法性が争われた。原告労働者らは、数年間にわたる各年の賃上げに際し、それぞれ前年の稼働率が80%以下であるとして賃上げ対象者から除外され、各年の賃金引き上げ相当額およびそれに対応する夏季冬季一時金、退職金が支払われなかったため、被告会社に対して、賃金引上げ相当額等と損害賠償の支払いを求めて提訴した。最高裁判所は次のように判断した。労基法または労組法上の権利に基づく不就労を稼働率算定の基礎としていることは問題である。なぜなら、労基法または労組法の権利を行使したことによって、労働者が(賃金など)経済的利益を得られないとすることは、法律に定められた権利の行使を抑制し、さらに、法律が労働者に保障した権利の趣旨を実質的に失わせてしまうからである。したがって、法律で定められた権利の行使によって就労しなかったことを稼働率算定の基礎とする定めは違法である。

エス・ウント・エー事件(最三小判平4.2.18 労判609-12)では、年休取得日を欠勤として取り扱うことの違法性が争われた。被告会社は、就業規則の改正によって、週休日以外の祝日・土曜日・年末・年始の休日を、労働義務があるが欠勤して差し支えない日として、これらを年休権成立の全労働日の8割以上の出勤の計算に当たって、年休取得の判断基準となる全労働日に含ませた。そして、年休権を行使した労働者の出勤率は8割以下で、年休権は成立していないとして、この労働者を欠勤として取扱い、欠勤日数にカウントした上で、賃金と賞与を減額した。最高裁判所は、年休を取得した日が属している期間に対応する賞与計算の中で、年休を取得した日を欠勤として扱うことはできないと述べて、就業規則の定めと労働者の取扱いを違法とした。

(2)地方裁判所判決の動向

地方裁判所判決は、モデル裁判例のように、不利益の程度を軽微と判断したことなどから、不利益取扱いに当たらないとしている。

錦タクシー事件(大阪地判平8.9.27 労判717-95)では、賞与算定の日数割の基礎となる乗務日数に年休取得日数等を含めない取扱いの違法性が争われた。裁判所は、賞与対象期間に上限日数の20日の年休を取得してもそれだけでは減額とはならないこと、賞与算定の根拠は長年にわたる労使合意に基づく協定にあり、これまで組合側から何ら異議が述べられていないこと、タクシー会社では賞与の支給に当たって売上歩合制を採用しているところが少なくないことなどから、違法ではないとした。

練馬交通事件(東京地判平16.12.27 労判888-5)では、会社が、年休取得日を欠勤として取扱い、月に2乗務分に年休を取得した場合には、皆勤手当(5,500円)及び安全服務手当(9,000円)の双方を不支給としたことの違法性が争われた。裁判所は、先の手当の不支給は完全乗務を奨励する目的によるもので、年休権行使を一般的に抑制しようとしているのではないこと、減額幅は月給額の1.99%から7.25%だが、減額分の割合は乗務員の営業収入に応じて異なり、手当の減額が年休権行使の抑制に結びつくほどの著しい不利益を課すものではないこと、年休取得申請がなされた場合、代替乗務者確保が困難であっても、会社は申請どおりに年休取得を認めていたことなどから、違法ではないとした。

大国自動車交通事件(東京地判平17.9.26 労判902-161)では、年休取得期間中の賃金(歩合給・賞与)の算定方法について争われた。裁判所は、年休を取っても固定給は減額されないこと、法令(労基法39条7項、労基則25条)が定める方法で算定した額を上回っていること、労使合意に基づく労働協約に則って運用されており、組合から異議は申し出られていないこと、年休消化率が高いこと、タクシー会社の収益は乗務員の営業収入に依存しているという業務の特殊性および営業収入に対する貢献度に応じて賞与額を決定するなど経営上の必要性があり、違法ではないと判断し、労基法136条及び民法90条に違反する不利益な取扱いではないとしている。

このように、年休取得と不利益取扱いの問題では、一定の稼働率を維持すべく事前に勤務割が作成されるタクシー会社の事例が多くみられる。近時も、宮城交通事件(東京地判平27.9.8 労経速2263-21)で、裁判所は、有給取得日を欠勤日と同列に扱い賃金を控除する就業規則の定めについて、上記先行事例と同様の理由に基づき、労基法136条および公序違反とはいえないと判断している。