(43)【年次有給休暇】年休取得をめぐる問題

5.労働条件

1 ポイント

(1)年休を取った日をどのように使うかは原則として労働者の自由であるが、争議行為の手段として使うことには制約がある。

(2)つまり、所属する職場の「事業の正常な運営」を害する目的で取る年休は、会社の業務が正常に行われることを前提に賃金を得て休むという年休制度の趣旨に反するので、成立しない。

(3)ただし、所属の職場での活動に参加するための年休の時季指定でも、年休を取った労働者の担当業務などから考えて、事業の正常な運営を害さない年休の時季指定は適法とされうる。

(4)特定の業務を拒否するための年休の時季指定は違法である。

(5)会社や上司が、労働者・部下の年休取得を妨げたり取り下げさせる行為・発言を行うことは、損害賠償責任(慰謝料)を生じさせる。

2 モデル裁判例

道立夕張南高校事件 最一小判昭61.12.18 労判487-14

(1)事件のあらまし

北海道教職員組合Aの組合員である第一審原告高校教諭Xらは、総評が春闘などに伴って全国行動を行うのにあわせて、Aが企画した集会などに参加することにした。Aは、組合員の3割を動員して集会などに参加させることとし、参加する組合員には所定の様式に従った休暇届を提出するよう指示した。しかし、年休の時季変更が適法になされた場合にも、各職場の組合員の3割の者が、敢えて職場を離れて集会に参加することを指示したものではなかった。XらはAの指示に従い、集会のある日の午後1時以降半日について年休の時季を指定し、当日午後に担当する予定の授業について、あらかじめ授業の振替、自習課題の配布および指導を他の教諭に依頼するなどの手当をした上で集会に参加した。

所属高校の校長Bは、Xらの年休を認めず、年休の時季指定に対して時季変更をしたが、Xらは集会当日の午後、Bの時季変更にもかかわらず職場を離脱した。そのため、第一審被告の北海道教育委員会Yは、Xらを戒告処分(将来を戒めるために行う注意)にした。

Xらは、戒告処分の取消を求めて訴えを起こした。一審二審ともBの時季変更は不適法で、年休は有効に成立しているから、YのXらに対する戒告処分はいずれも違法であるとして、Xらの請求を認めた。そこで、Yが上告したのがこの裁判例である。

(2)判決の内容

労働者側勝訴

教育委員会が行った教諭らへの戒告処分を無効とした。

Aの指示は、適法な時季変更があった場合にこれを無視して集会に参加することまでを指示したものではなかった。また、Xらの年休取得は、各職場の事業の正常な運営を害する目的であったとはいえない。従って、XらがAの指示に従って集会に参加するために年休の時季指定をして職務に就かなかったことを、年休と称したストライキとは言えない。また、労基法39条5項但書の「事業の正常な運営を妨げる」事情が認められないことから、集会当日の午後半日について行った年休の時季指定に対する校長の時季変更は適法ではなかった。そうであれば、その半日についてXらの年休は成立し、働く義務はなかったことになる。従って、Xらが就労しなかったことは、地方公務員法に違反せず、戒告処分はその前提を欠いて違法である。

3 解説

(1)ストライキを目的とした年休の取得

最高裁判所は、年休の利用目的について労基法は関知しないので、年休をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由であると述べている(年休自由利用の原則)。その上で、労働者が所属する職場で、そこの業務の正常な運営の阻害を目的として一斉に休暇届を提出して職場を放棄・離脱することは、実質的に年休という名目のストライキであり、本来の年休権の行使ではないので、これに対する使用者の時季変更権の行使もありえず、一斉休暇の名の下にストライキをした労働者全員の賃金請求権が発生しない、と述べている(林野庁白石営林署事件 最二小判昭48.3.2 民集27-2-191)。つまり、最高裁判所は、年休の利用の仕方は労働者の自由であることを前提に、労働者が所属する職場の事業の正常な運営を害する目的で取る年休は、年休を取る前提を欠くために成立しない、と述べている。モデル裁判例では、この最高裁判決に従って、所属職場以外の職場で行われる組合活動への参加を目的とした年休取得を適法なものとし、これに対する使用者の時季変更権の行使を適法ではないとした。その後も、成田空港闘争への参加を目的とする年休取得に対する時季変更権の行使は適法ではないとしている(電電公社近畿電通局事件 最一小判昭62.7.2 労判504-10)。

(2)所属の職場でのストライキを目的とした年休の取得ではない場合

では、年休を申請して認められたが、その後、偶然にも、所属の職場でストライキが行われ、年休を取っていた労働者がそのストライキに参加した場合はどうなるだろうか。最高裁判所は、おおよそ次のように述べて、年休は成立しないと判断した。労働者が、たまたま先に取得した年休を会社が認めているのをいいことに、年休をそのまま取得し続け、所属する職場の正常な業務の運営を阻害する目的をもってストライキに参加したことは、業務を運営するための正常な勤務体制が整っていることを前提に休むことを認める、という年休の趣旨に反する(国鉄津田沼電車区事件 最三小判平3.11.19 民集45-8-1236)。

しかし、最高裁判所は一方で、年休を取得して、所属の職場で時限ストと並行して行われた職場集会に参加し、司会・演説した労働者らについて、担当業務の点で事業の正常な運営を妨げておらず、また、勤務時間外になされた行為であることなどを理由に、正当な年休取得ではないとの会社側の主張を認めていない(国鉄直方自動車営業所事件 最二小判平8.9.13 労判702-23)。

(3)特定業務を拒否するための年休取得

ストライキ以外でも、利用目的によっては年休の取得が違法とされる場合がある。ある事件では、タクシー会社の運転手が、深夜乗務を拒否するために取った年休について判断された。裁判所は、深夜乗務は、深夜のタクシー不足解消や労働時間の短縮という社会的・政策的要請を理由とするものであり、深夜乗務を行う必要性は高いので、深夜乗務を拒否するための年休の時季指定は、権利の濫用(民法1条3項)として無効である、と判断している(日本交通事件 東京高判平11.4.20 判時1682-135)。

年休時季の指定は年休権を実現するために行うものであるから、事後的に権利の濫用という考え方を用いて、結果的に年休を取得させないのと同じ効用(法律的には無効)をもたらすことができる。しかし、会社としては、「事業の正常な運営を妨げる」と考える理由があれば、年休を指定された時季を変更できる(時季変更権。労基法39条5項)。紛争の効率的・経済的解決を目指すなら、時季変更権の行使によって対処するのが妥当である。

(4)年休取得を妨げる行為

使用者は、労基法の規定に基づいて労働者に発生した年休権の行使を妨害してはならない義務を労働契約上負っている(甲商事事件 東京地判平27.2.18 労経速2245-3)。したがって、取得可能な年休日数を限定したり、取得理由を冠婚葬祭や病気休暇に限定することは、労基法上認められている年休取得を委縮させるものであり、労働契約上の債務不履行に当たる(前掲甲商事事件:慰謝料50万円を認容)。

また、管理職である上司が、部下である労働者の適法な年休取得申請を望ましくないものとして取り下げさせる行為およびその旨の発言を行うことは、権利侵害の不法行為として違法となる(日能研関西ほか事件 平24.4.6 労判1055-28:慰謝料60万円を認容)。

なお、休日出勤をしたが代休を取得していない労働者らに対して、年休取得ではなく累積した代休を消化する運用を行っている場合、使用者には労働者の年休取得を妨害する意図はなかったものの、年休取得を制限することになりかねず、労基法39条の趣旨との関係で相当性を欠く運用とされる(住之江A病院(退職金)事件 大阪地判平20.3.6 労判968-105)。