(42)【年次有給休暇】年休権の成立

5.労働条件

1 ポイント

(1)労基法39条の必要事項(6ヵ月間「継続勤務」し「全労働日」の「8割以上に出勤」)を充たした場合、労働者は法定日数の年休を取る権利(年休権)を得る。その場合、会社は「労働者の指定した「時季」」(時季指定権)に年休を与えなくてはならない。ただし、「事業の正常な運営を妨げる」理由があれば、会社は「指定された年休時季を変更」できる(時季変更権)。

(2)全労働日とは、基本的に、働く義務のある日をいう。ただし、年休取得日、仕事に関連したケガや病気で休んだ日、育児・介護休業日、産前産後休業日、違法な解雇のために働けなかった日は、全労働日に含まれる。

(3)継続勤務とは在籍期間をいい、勤務実態から判断される。

(4)年休請求は事前に行うと定めることは違法ではない。また、年休の事後請求を認めたり、事後振替を行うことは、基本的に使用者の判断に委ねられている。

(5)年休は翌年度まで繰り越せる。

(6)年休の買上げを予約して実際に年休を与えないこと、本来取得できるはずの年休日数を減らすことは違法である。

(7)未消化年休を事後的に会社が買上げることは違法ではない。他方、労働者が未消化年休の買上げを会社に請求することはできない。

(8)年休日数のうち5日を超える部分は、過半数労使協定が定める計画年休により取得されうる。その場合、労働者の時季指定と会社の時季変更はできなくなる。

2 モデル裁判例

林野庁白石営林署事件 最二小判昭48.3.2 民集27-2-191

(1)事件のあらまし

第一審原告の労働者Xは、帰る間際に、翌日と翌々日に年次有給休暇(以下、年休)を取ることを休暇簿に記載した。そしてXは、その両日に出勤しないで他の営林署で行われたストライキ支援活動に参加した。Xの上司であるA署長は、Xの年休を認めずに欠勤扱いとし、第一審被告の国YはXに対して2日分の賃金を差し引いて賃金を支払った。そこでXは、Yに対して、差し引かれた分の賃金の支払いなどを求めた。一審二審ともXが勝訴し、Yが上告したのがこの裁判例である。

(2)判決の内容

労働者側勝訴

年休権は有効に成立しているとして、労働者Xの未払い賃金請求が認められた。

労基法39条1項の要件(労働者が「6ヵ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤」したこと)が満たされた時は、労働者は、法律上、当然に所定日数の年休権を得るので、会社は労働者に年休を与える義務がある。

労働者が持つ年休日数の範囲内で、休暇の具体的な始まりの時季と終わりの時季を特定(時季指定)した時は、労基法39条5項但書の理由(「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」)が客観的にあり、これを理由に会社が労働者の年休を取る時季を変更(時季変更権を行使)しない限り、労働者の時季指定によって年休が成立し、時季指定された日に労働者の働く義務はなくなる。

3 解説

年休をめぐる労働者の権利と使用者の義務はモデル裁判例に見るとおりである。以下、年休成立に必要な条件、年休取得手続等を概説する。

(1)全労働日

全労働日とは、働く義務のある日である(エス・ウント・エー事件 最三小判平4.2.18 労判609-12)。派遣労働者の全労働日は、派遣先において就業すべき日である(ユニ・フレックス事件 東京高判平11.8.17 労判772-35)。

しかし、年休を取った日(昭22.9.13基発17号)、仕事に関連したケガや病気で休んだ日、育児・介護休業を取った日、産前産後で休んだ日は、全労働日に含まれる(労基法39条8項)。また、違法・無効と判断された解雇により就労できなかった日(八千代交通(年休権)事件 最一小判平25.6.6 労判1075-21)、同様に、労働委員会の不当労働行為救済命令によって使用者が解雇を取り消した場合の、解雇された日から復職する日までの不就労日も、全労働日とされる(「労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日」平25.7.10基発0710第3号)。

他方、働く義務がある日でも、会社都合で休まざるを得なかった日(昭63.3.14基発150号)、生理休暇(昭23.7.31基収2675号)、慶弔休暇を取った日、正当なストライキのため働かなかった日(昭33.2.13基発90号)は全労働日に含まれない。

(2)継続勤務

継続勤務とは、在籍期間をいい、継続勤務かどうかは勤務実態から判断される。定年退職後の嘱託勤務、短期の契約を更新した勤務(国際協力事業団(年休)事件 東京地判平9.12.1 労判729-26、日本中央競馬会事件 東京高判平11.9.30 労判780-80)、臨時労働者の正社員採用、在籍出向は継続勤務となる(昭63.3.14基発150号)。

(3)年休の事前申出

年休取得者の代替者を確保するなどのため、会社が就業規則などで年休請求は事前に行うなどと定めることは違法ではない(電電公社此花電報電話局事件 最一小判昭57.3.18 民集36-3-366など)。

(4)半日年休・時間年休

年休は原則として一労働日(暦日)が単位なので、労働者から半日年休が請求されても、会社は与える義務はない(昭24.7.7基収1428号)。時間単位の年休請求も同様である。ただし、会社の判断で、半日や時間単位の年休を与えるのは違法ではない(半日年休:高宮学園事件 東京地判平7.6.19 労判678-18、1時間年休:東京国際郵便局事件 東京地判平5.12.8 労判640-15)。

なお、現行労基法の年休制度では、過半数労使協定の締結を経て、歴日数5日以内の範囲で時間単位の年休を取得することが可能とされている(労基法39条4項)。

(5)事後請求・事後振替

年休の事後請求は本来成立せず、欠勤を事後的に年休に振り替えることは使用者の判断に委ねられている(東京貯金事務センター事件 東京高判平6.3.24 労民集45-1・2-118など)。ただし、事後請求の理由として労働者が申し出た事情を考慮して、その休みを年休として処理することが妥当なのに年休を与えない場合は違法になる(前掲東京貯金事務センター事件)。

(6)年休の繰越し

年休の繰越しすでに発生している未取得の年休の権利は、翌年度まで繰り越すことができる(昭22.12.15基発501号、前掲国際協力事業団(年休)事件)。

(7)年休の買上げ

年休は、労基法39条1項が定める客観的条件が揃うことで発生する権利のため、買上げ予約をしたり、本来なら請求できるはずの年休日数を減らしたり与えないことは、違法である(昭30.11.30基収4718号)。

未消化の年休を事後に使用者が買上げる義務はないが(創栄コンサルタント事件 大阪高判平14.11.26 労判849-157)、未取得分の年休日数に応じて手当てを支給するなど事後に年休を買上げることは違法ではない。

他方、年休は、現実に労働者が取得することを要するものであるという制度趣旨から、労働者が使用者に対して未取得日数分の年休に応じた金銭の支払いを請求することはできない(シーディーディー事件 山形地判平23.5.25 労判1034-47)。

(8)計画年休

5日を超える分の年休について、事業場の過半数労使協定で年休を与える時季に関して定めたときは、会社はこの労使協定に基づいて労働者に年休を与えることができる(計画年休制度。労基法39条5項)。過半数労使協定によって年休の取得時季が集団的・統一的に特定されると、その年休日及び日数については、労働者1人1人の年休時季指定と、会社の年休時季変更はできなくなる(昭63.3.14基発150号)。このことは、協定の適用がある職場のすべての労働者に及ぶ(三菱重工業長崎造船所事件 福岡高判平6.3.24 労民集45-1・2-123)。

計画年休の変更は、計画決定時には予測が不可能な事態が発生する可能性が生じた場合に限られ、事態発生の予測可能後の合理的期間内になされなければならない(高知郵便局事件 最二小判昭58.9.30 民集37-7-993)。

退職予定者には、計画年休付与以前の年休請求を拒否できない(昭63.3.14基発150号)。